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キャベツとじゃがいも問題と、婚約者

聖女の力なのか、転生特典なのか――この世界の言語や文化は私の記憶を通して美鶴の意識でも分かりやすいように変換される。

例えばキャベツやじゃがいもだが、そんなものがそっくりそのまま存在する訳もなく、前世の文化に根付いた一番近いものがキャベツ、じゃがいも……といったように処理される。

勿論ベル・ドット王国の公用語で全ては表されるので、名前もキャベツじゃないし、何だろう――日本語にはない音なのか、私が日本語を忘れ去ったか。

どちらにせよ日本語でこれらの近しいものを発音出来ないのだ。

さて、何故キャベツとじゃがいもの話かというと、今がちょうどそれらに近しい作物の旬なのである。意識を向けているだけでも軽い祈りに相当する様なので、最近はもっぱらこればかり考えている。


「メル公爵令息、何かご用で?」

「勉強熱心な聖女だな、って」


図書館で農作物や農業に関連する書物を読み漁っていれば、いつの間にいらしたのやら。ルドが正面に立っていた。

後ろにリリナの姿はないが、少し離れた場所からキーリィが様子を窺っている。彼は確か、私を『リリナを虐げる聖女』だと思っているようだから当然か。監視でもしているつもりなのだろう。


「何せ金物屋の娘なので……道具に関する知識はあれど、畑のことはあまり良く知らないのです」

「知識が祈りの効力に関わる、ということかい?」


まあ、キーリィは無視しても良いだろう。

わざわざ話しかけるには絶妙に遠い。


「はい。漠然と祈っても効果は勿論ありますが、対象を絞ればその分集中しますので」

「分かるよ。テスト勉強もさ、範囲を絞らないままやると結果はいまいちだし」

「何を仰いますか。一位以外見たことがないとお伺いしておりますよ」

「なんたって、努力してるからね!」


ルド・メル公爵令息。

ゲームでの彼は『朗らかで気さく、誰にでも優しい学園きっての天才。婚約者であり、未来の女王であるリリナの悪行に苦悩しながらも国に身を捧げる覚悟を決めている、芯の強い青年。生徒会では副会長を務めている』だったか。


「私も負けてはいられませんね」

「下から数えたほうが早いもんね。……ガルツも良い勝負だし、勉強見ようか?」

「今ダン公爵令息も一緒に馬鹿にしました?」

「してないしてない!リリナも一緒だし、これを期に仲良くしてくれたら嬉しいな。何だか君にだけ素直になれないみたいでさ」


しかし優しいな。

流石、部活の後輩が一番推していたキャラクターだ。攻略ルートではリリナを断罪し、王家の親戚筋ということで彼と聖女が次期国王と王妃という道を歩むことになるのだ。


『先輩〜!ルド様ルート攻略しました!』

『ルド様?』

『悪役王女の婚約者です!姉と同じ名前の!』

『ああ』


確か、追放されたリリナは……馬車だったか、崖だったか――落下事故で命を落とすのだ。


『姉の婚約者、奪っちゃいました!

……なんてね』


里々奈の妹、麗奈はこの時どんな表情をしていただろうか。思い出せない。


『あーあ、ゲームでしかやり返せない自分が嫌になっちゃいますよ』

『何?好きなやつでも取られたか』


放課後の美術室。夏の太陽が沈む前の、赤くて眩しい光。逆光で良く見えない顔。


『いつか奪ってやりますよ、美鶴先輩』


声だけは無邪気だったから、きっと笑っていたのだろう。

それにしても、奪われて追放か。

この世界のリリナは悪役には程遠いし、心配はないだろう。


「……メル公爵令息は、王女殿下を愛していらっしゃいますか?」


心配ないけど、ほんの少し不安だったから聞いてみる。これは美鶴としての意識だろうか。


「ああ。心から愛しているよ」


愛しくて、愛しくてたまらないと言わんばかりの表情。短い言葉に込められた、この上ない愛。

――なんだ、やっぱり心配なかったじゃないか。


「この国は安泰ですね」


毎晩抱いてるのに、負けた気分だ。

……勝負なんてしてないのにね。




読んで頂きありがとうございます!感謝!

キャベツとじゃがいも問題?の自分なりの解釈です。

美味しいですよね、キャベツとじゃがいも

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