聖女で正ヒロインだけど、悪役王女が可愛すぎる。
学園祭当日に復学を果たしたヴァンの元を訪ねるべく生徒会室へ足を運べば、慌ただしく準備に取り掛かっていた。
すっかり元気になった姿に安心する。
「ヴァン、もう大丈夫なの?」
「ミツルのおかげだよ〜!
あのままだったら今頃全身どろどろに溶けてた上に、被害撒き散らしてたからね」
ありがと!と笑うその顔に、ほんの少しだけ麗奈が重なったのは気の所為ではない。
(重ねてたのかね)
感受性が豊かで、無邪気で人懐っこい。
適正を抜きにしても共通点が多いのだ。
――今となっては考えても仕方がないことだが。
「じゃ、今日は司会進行役頑張って。
ついでに私の骨も拾って」
「いやぁ、表情豊かになっちゃってもう。
ミツルの冷や汗ダラダラで引きつった笑顔が見られる日が来るなんて、ヴァン感激」
「だってトーナメントせいだと思うじゃん。
何、ルドは化け物なの?挑戦者全員とルドが順番に戦うって?」
「発案者」
語尾にハートでも付きそうな声で指摘されたが、そうなのだ。
確かに発案者ではある。
ただ、平等に確定で魔王と当たるなんて想定していなかったものだから私含め皆怯えている。
「いつの間に改変したんだあの男!」
「やあ、今日はよろしくね」
「うわぁ!?」
頭を抱える私の後ろから爽やかに現れたのは悩みの種、その人だ。
「そんなに驚かなくても」
「ご、ごめん。緊張で」
あの事件以来、ルドに対しても敬語はなくして名前で呼ぶようになった。
というのも、生徒会長のリリナと会計のヴァンが倒れたので一時的に手伝っていたのだ。ガルツとキーリィと違う対応に自分自身だって友人なのに……と、結構本気で悩まれたので私が折れたのである。
――今思えば、これって……。
「……ミツル?」
「あ、ごめん考え事」
「今思えば僕が皆と同じように接してくれって頼んだのも、この催し物で遠慮させないため……とか考えてたりして」
「なんで分かったんだよ……。
で、それって本当なの?」
「さあ、どうだろ?
でもミツルのことは友人で、ライバルだと思ってるよ」
「ライバル、ねぇ」
歯を見せて笑うルドに、これも仲良くなれた証……いや、代償?と溜め息が止まらない。本当に遠慮がなくなった。
(男友達みたいな――兄弟みたいな距離感?別に良いんだけど……)
――まあ、拳で浄化したしな……。
この件は諦めることにして、ヴァンに向き直る。
「はあ……そうだ、ガルツとキーリィは?」
「各会場の最終確認。舞台とか決闘場とか!僕もこの後いくつか周るよ。ルドは会長のお迎え」
「そっか。じゃあ私は一旦教室に戻ろうかな」
「えぇ〜、手伝ってよ」
「もう充分手伝ったでしょ」
駄々を捏ねる姿は可愛らしいが、騙されないぞと突っぱねる。
リリナとヴァンが抜けていた分の手伝いはした。充分だろう。
「ミツルも生徒会の一員みたいなものだし、ヴァンについて行ってあげてよ。
ついでに試合まで催し物楽しんで来たら?多分決闘の後は動けなくなると思うし」
「よし!!ヴァン!私、屋台行きたい!」
「やった〜!」
前言撤回、今のうちに楽しんでおこう。
飛び出していった私達の背中を、行ってらっしゃいとルドが送る。
――その後に続いた『ありがとう。でも、負けないよ』は聞かなかったことにして。
「この串焼き美味しい」
「え、一口ちょうだい」
結局仕事なんて手伝う程なくて、早々に学園祭を楽しんでいた。
ヴァンなりの気遣いだったんだろう。
前世は誰かと学祭を周ることはなかったので、ありがたく受け取ることにしたのだ。
装飾で華やかになった校内、屋台が立ち並ぶ屋外。どれも新鮮で楽しい。
「っていうか、学院なのに学“園”祭なんだね」
「確かに。気にしたことなかった」
「語呂悪いから?」
「そうかも」
お腹より先に両手がいっぱいになった頃、目の前から知った顔が二人歩いてくるのが見えた。誰かは言うまでもない。
キーリィとガルツである。
「そんなに買い込んで……はしゃぎ過ぎでしょう」
「仕方がないじゃん、今まで友達とお祭り行ったことなかったんだから」
「本当に居なかったのか」
「うん。ガルツが初めて」
「じゃあ僕が二番目?」
「人生で二番目だね」
「待ちなさい。
流石に学院の話ですよね?故郷には」
「居ないけど……」
ご老人ばかりで、子供が居なくて友達らしい友達が居なかったから。
そう付け加える前に、皆目頭を押さえてしまった。
「ミツル……それ、一緒に食べましょうね」
「う、うん。ありがとう……?」
絶対に勘違いされた。
「僕達、ずっと友達だからね……」
「そ、そうだね」
絶対に勘違いされている。
「試合に負けても見捨てたりなんかしねえから……ルドだって友達だろ?」
「きょ、今日は全力で挑むよ!」
もうこれ、絶対に可哀想な子扱いされている。
「あのさ、お祭りは――」
「ごきげんよう」
流石に訂正しようとするも、カツンと石畳を鳴らした靴の音に阻まれてしまう。
振り返れば、リリナが腕を組んで立っていた。
「ご、ごきげんよう。殿下」
「貴女、わたくしとも周りなさい」
「え」
「拒否権はなくてよ!」
ルドはどうした!
そう叫ぶ間もなく、彼女の柔らかい手が剣の修業で逞しくなった私の手を包み込んで走り出す。
「殿下〜、試合までには返してよ」
「ええ!少しお借りしますわね」
ひらひらと手を振るヴァン達に可憐に返事をして、さあ!楽しみますわよ!と今度は私に向かって笑いかけた。
殿下でも、里々奈でもない。
――年相応のリリナ(かのじょ)の顔で。
「あれ、食べてみたいです」
「星雲飴ですね。何色にします?」
星雲飴は今流行りの綿飴だ。
特殊な魔法で加工された飴で、内側からきらきらと輝いており、色によって味がやや違うのも特徴である。市井の若者を中心に広まったものだが、その美しさから貴族のご令嬢からも人気があるらしい。
「黄色。
――貴女の瞳の色だから」
「攫っても?」
「駄目よ」
あまりにも可愛らしい答えに、一瞬で崩壊しかけた理性をなんとか保って星雲飴を買う。
「どうぞ」
「あら、貴女は良いの?」
「もう結構食べてまして」
リリナに手渡すと、店の生徒がおずおずと口を開いた。
「あの……」
「何かしら?」
「殿下と聖女様って、その……。
あまり仲が良くないのでは……?」
ああ、確かに最初の頃は一応ゲームのイベントっぽいことはしていたな。
今となってはどうだって良いが、事情を知らない生徒達からしたら戸惑うだろう。
「仲直りしましたのよ。
今では大事な方なの……ね?ミツル」
どう答えようか考えるより先に、リリナがふわりと腕を絡めて微笑んだので変な声が出そうになった。
「可愛い」
「貴女……思考と発言が逆になってらしてよ」
――はい、殿下。
残すところあと1話!
やや体調を崩しておりますが、ゆっくり書いていきたいと思います。
読んで頂きありがとうございます……!
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