神秘と物理、そして幕引き
ヴァン・ロッソの適性試験の結果は以下の通りだ。
最も上位に位置するのが魔術であり、その中でも特に召喚魔法との相性が良いと判定されたという。
さて、この世界における召喚魔法とは、何か強大な力を持った存在を喚び出す魔法ではない。遠方などにいる人間が対象だ。
手順として、まず呼び出す対象を強く思い浮かべる。それから相手の魂を感知し、そこへ波長を合わせていくのだが、これは位置を正確にするために必要な工程である。
この魔法は物理的な距離の問題を解決することで、外交や緊急時の移動手段として用いられてきたと同時に、その感受性故に、数多の使い手が思念達に飲まれて行った。
繋げる先を少しでも間違えれば、そこかしこに“在る”思念に繋がりかねない――非常に高い精度が要求される高等魔法である。
(で、合ってたっけ?ルドが言ってたような……。
あと神殿で習ったけど、宿主とマッチングする前に浄化されるから完全型より寄生型の方がレアケースだって)
ヴァンが何故、寄生先に選ばれたのか。
それを思い出すのにやや時間がかかったが、概ねこれで正解だろう。
ルドに勉強を見てもらっていて良かった。
『ガルツと違って教えたら理解するし、教会の教えも覚えてるみたいなんだけど』
呆れ顔のルドを思い出して、少し申し訳なくなる。
『面倒くさがりなんだね、ミツル……』
『ええ、そうなんです……昔から』
ついでにリリナも額を抑えていたので、その後はちょっとくらい真面目にやろうと思ったのだ。
(今回は近くに召喚魔法の使い手が居たから宿主にされちゃった……って、とんでもない貧乏くじ引いたなあ)
相変わらず目の前で湿っぽい音を立てているレイナは動かずにこちらを見ている。
あの叫びは鳴木里々奈の後悔。きっと麗奈が私を好いていたのも本当だし、私が死んだ後姉妹で相当ぶつかったのだろう。
「お開きにしちゃうんですか。
もっとお話しましょうよ!」
一向に攻撃を仕掛けてこない所を見ると、望んでいるのは私から罰と――。
「例えば、先輩が死んじゃった後の話とか」
その後は同じ様に過去に囚われて生きていくことだけ。
「遠慮しとく」
突き放すように肩を強く押して、距離を取る。
「何で拒絶するの、先輩、酷い、悲しい」
――階段から落ちた時点で佐良美鶴の人生は終わった。
今この場所に立っているのは、ベル・ドット王国に生まれたミツル・サラだ。
「ええと、ゲームのステータスだと……。
魔法は――神秘のカテゴリだっけ?」
何か一々厳ついというか、難しいんだよな。乙女ゲームなのに。
「――ので、対抗手段は一つ」
私の適正は聖女、全ての初期値は高いが実際の所膨大な魔力で底上げされているに過ぎない。浄化の魔法も術式自体はシンプルなのだが、必要な魔力は高位魔法の比にならないくらい多い。
これが聖女が聖女である所以だ。
神から賜った魔力、それをどう使うかはその時代の聖女次第。
「神秘には、物理!!」
――私が伸ばしたステータスは物理。
(魔力生成を行う……ええと、何だっけ、なんとか器官が丁度その辺りにある――から)
意図した訳ではないが、こればかりはガルツに感謝しなくてはならないだろう。
「レイナのこと拒絶しないでって言ってるじゃない!!」
「拒絶?愛だって――の!!」
思いっきり踏み込んで、鳩尾に魔力を乗せた拳を叩き込んだ。
「――……!」
ごぽ。
口から黒ずんだ血液と共に、粘性を帯びた塊が溢れ出す。
(よし――!剥がれた)
すかさずヴァンの身体に修復魔法をかけて、破裂した内臓や骨を治す。
大雑把で良い。時間との勝負だ。
黒い塊は恨めしげに頭をもたげ、再び宿主を求めて這いずる。
「観念し――……!?」
今度こそ消滅させようと浄化の魔法を放とうとした刹那、ヒュン、と鋭い音を立てて――金色が横切って行った。
「……嘘ぉ」
驚愕する私の視線の先。
瘴気の塊を斬撃で消滅させたであろうルドが立っていた。
瞳孔は開いており、怒りを通り越した姿は正しく修羅である。
「それ、ただの魔力込めた斬撃で斬れるもんじゃないんだけどな……」
かくしてこの一件は、石畳の上で伸びているヴァンと――。
(ちょっとあわよくば、玉砕する時に選んでもらえないかな〜……とか思ってたけど。
魔王じゃん……、無理だわ)
たった今彼をラスボス認定した私を置いてけぼりにして幕を閉じた。
読んでいただき誠にありがとうございます!Happy!
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物理で全てをどうにかする脳筋聖女、愛でその上を行く魔王。書いてて楽しかったです。




