後悔の先を行け
聖女が贖罪の為に祈る。
過去の愚行に対して祈りを捧げて償う。
供物はこの膨大な魔力を命尽きるまで続けるなら聖女だ。
『私達はかつて世界を血と汚泥塗れにした罪人ですよ、だから祈りなさい』
こんな感じだろうか。
初代聖女が作り上げた贖罪という名の“浄化システム”は、なるほど、それは続く訳だ。
維持装置である神殿と共に、罪の意識で混沌とした時代から、ここまで人々を導いてきたのだから。
(でも)
――それが何になるのだろうか。
確かに過去から学ぶことは大切だ。
過去ばっかり見た結果が目の前に“在る”というのに。
「瘴気の原因はその場所に残った無念や負の感情。放置すればあらゆる方面に被害が出る。強い災害、精神汚染が代表的なものであり――まあ、とにかく物理的にも精神的にも干渉しまくってくるから早く処理しなさいってことだ」
「何言ってるんですか、先輩。
処理って?レイナのことですか?」
「何って?教科書に書いてあったこと話してるだけだよ。
じゃ、続き。大体の精神干渉は嫌な記憶なんかを増幅させておかしくさせるとか――昔、皆狂っちゃってずっと争ってたってやつ。その原因だったりするわけ」
麗奈、改めレイナはぐじゅぐじゅと音を立てながら段々と警戒する態勢を強めていく。
「で、稀に強い後悔を持った人間の感情に引き寄せられるケースもある。
こうなると一番厄介だ。精神干渉じゃなくて、強い感情を介して力を得た瘴気は何と吃驚。実体化すると来た」
瘴気が実体化したもの、それを私達は魔物と呼ぶ。
一つの個体として自立する完全型と、不完全な形で生まれた寄生型の二つに分類され、目の前に居るレイナは後者に該当する。
――『被疑者に検討がついた』とはこれのことだ。
リリナ・ベル・ドットの中にある鳴木里々奈の記憶。強い後悔から生まれたのがレイナという魔物だ。
「リリナの胸元にあった傷、あれがなかったらもう少し騙せたかもね」
胸に秘めた想いが爆ぜて、溢れ出した瘴気は魔物に変わる。
完全型は媒介者を食い破って独立した個として生まれ、寄生型も生まれ落ちるまでは同じである。しかし、そのままでは形を保つことが出来ない寄生型は、媒介者から少しずつ極微量の瘴気を放ち、宿主の適性が高い者を探すのだ。
「騙す?」
リリナの身近にいる人物で、宿主の条件が揃っていたのがヴァン・ロッソだった。
とはいえ、何故――……。
「!」
考え事に気を取られている間に距離を詰められたらしい。
気付けば溶けた顔が間近にあった。
皮の下にある筋肉だったものや、脂肪が時折滴り落ちて石畳を汚していく様がはっきりと見える。口であろう箇所が開閉もせずに怒鳴り声を上げた。
「レイナは、レイナですよ。
先輩が大好きで、ずっとずっと好きだったのに罰ゲームなんかでお姉ちゃんが奪っていった!男好きで厭らしいことばっかり考えてるくせに!あのクソ女!!
すごく大事にされてたのに、結局自分ばっかり可愛くて、貴女を見殺しにした。
レイナね、知ってたんですよ。
お姉ちゃんのグループの奴らから、嫌がらせ受けてるの。あれもお姉ちゃんが先導してたんです。
気持ち悪いくらい頬赤らめて甘えて付き合い続けるのに、孤立するのは嫌で連中にはイキっちゃって。
あーあ、そうそう。あの陰キャが別れてくれないから、身の程を分からせてやらない?とかそんなこと言ってたかな……」
私はそれをただ黙って聞いていた。
それが鳴木里々奈の後悔だと分かっていたからだ。
「一人になる?笑っちゃいますよね。
だって、先輩がいたのに。
――……馬鹿な女」
この後悔の為に祈ることは容易い。
でもやっぱり過去しか見ていない。
もしこれを消しても、生きていれば罪悪感くらい抱くし、全てを上手くなんてことは不可能だ。
「言いたいことはそれだけ?」
私が正ヒロインで、歴代最高峰の聖女だというのならここで書き直してやろうじゃないか。
聖女の在り方を。
「日も沈むし、そろそろお開きにしようか」
お忘れだろうか?
『星キラステップアップ』の攻略の鍵は“ステータス”にあるということを。
そして私が今まで、何にそれを振って来たかということを。
読んで頂きありがとうございます〜〜〜〜!
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もう次の展開が大体読めたかと思います。
多分正解です。




