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正ヒロイン

私がリリナに口付けで魔力を送り込んで、浄化をしたことに、キーリィは怒らなかった。一言『殿下の危機を救って下さり、感謝致します』と、深く礼をしただけ。


「……――ここ、任せて良い?」

「これはこれは……身に余る光栄ですね」


生気を取り戻したとはいえ、弱った彼女を一人にすることは出来ない。

本当は目を覚ますまで側に居たいけれど、早く行かなくては。

キーリィは私の言葉に、いつもの調子で厭味ったらしく返してくれた。


「嫌な奴!」


そう言って走り出した私の背に向かって『そんな笑顔で言われても、説得力ないですよ』と小さく投げられた言葉は聞かなかったことにしておこう。


(嘘から始まった関係だけど、目を見ればわかる……その通りだ)


走りながら考えていた。

昔の――佐良(さら)美鶴(みつる)鳴木(なるき)里々(りりな)のことを。


(里々奈のしたことを全て肯定するわけじゃない。最低だと思うことだってある。

でも、彼女達はちゃんと“恋人同士”だった。

それは確かだ。

私は……美鶴は、里々奈が大好きだったなら、向き合うべきだったのに)


決着を付けに行かなくてはならない。

再会しようが、別々の道を素直に歩く選択も出来たはずなのに。

未練ったらしく、誘われたからと言い訳してまで抱いて、あわよくば奪おうとした。

最低なのは私だってそうだ。


『里々奈さぁ、まだ別れないの?』

『先輩言ってたんだけどさぁ、やらせてくれないーって』


蓋をした記憶を辿って笑ってしまった。

だって今と同じことをしていたんだから。

ただあの頃は、チートじみた聖女でもなかったし、同性どころか誰ともと付き合ったこともない。教室の端で本を読んで、放課後はキャンバスに向かって絵を描くだけの地味な女だったから。


『……最近、グループの子と上手く行ってる?』

『美鶴が気にすることじゃないよ。

それより、もう一回しよ』

『はいはい、本当に好きだね』

『あんただからっての……』

『へえ』

『美鶴だってあたしのこと好きじゃん』

『自信満々、その心は?』

『――目を見れば、分かるのよ』


心配する素振りは見せながら、その実どんな手を使ってでも繋ぎ止めたかった。


(悪戯っぽく微笑む瞬間が一番可愛いんだよな、全部可愛かったけど……)


里々奈の居場所だったはずの一軍グループから、彼女を引き離したくて必死だったのだ。


(ださいなぁ……。

まあ、タチの才能があったのは良かったかも)


離れられないくせに自己嫌悪に陥っては、冷たい言葉で突き放すのを止められずにいたんだから、もうお相子だろう。

しかも、死んだのだって本当に事故だ。


『誰にでも股開く女のくせに、今更清楚ぶっても遅えんだよ!』


里々奈が学校の外階段に呼び出されたと聞いたから急いで向かったっけ。運動なんて普段しないのに無理して走って、勝てもしないの三年の――何部だっけ、忘れたな。とにかく馬鹿みたいに大きな、運動部の男の前に飛び出して。


『美鶴!!』


庇って殴られたら、そりゃ階段からは落ちるでしょ。打ち所が悪くてそのまま死んだんだった。

みっともないくらい息も上がってたから酷い顔してただろう。


(本当に、本当にださい。

死にたい。……もう死んでるけど)


今は全然、そんなことないけどね。

聖女の力も、ガルツと一緒に鍛えた身体もある。

だから――愛しの彼女は置いてきたけど、精一杯格好良くやってやろう。


「最終ステージがここなんだっけ?」


辿り着いたのは学校で一番高い場所にある、星読みの広間。

広間といっても塔の屋上であり、暮れる前の太陽が白い石畳をオレンジ色に染めていた。


「思ったより早かったね」


そこに立っていたのはヴァン・ロッソの皮を被った“少女”。


「美鶴先輩」

「――麗奈」


肉と皮が混ざり合い、どろりと溶けた顔。

頭蓋の上をキャンバスにして“少年”と“少女”、どちらを描こうかと迷いながら蠢いている。

すでに目玉がこぼれ落ち、ぽっかり空いた真っ黒な眼窩――それでも確かに“目が合った”。


「……じゃ、ないね」


だから確信したのだ。


「実のところ、半信半疑だったんだ。

ここに来るまで。どっちだろうなって」

「何でそんな悲しいこと言うんですか?

ほらレイナですよ。

あなたの、可愛い可愛い後輩の」

「そうだね。

お前が可愛い可愛い、本物の後輩ならどうしようかと思ったよ」

「先輩」


麗奈にもヴァンにも成れない溶けた肉は、記憶中の麗奈と良く似た声を出す。


「声だけは良く似せたね。

顔は全く似てないけど……ヴァン、結構頑張って抗ってるんじゃない?」

「先輩、先輩、先輩。

何で?わたし、レイナ、レイナだもん」

「お生憎様。お前が麗奈でもヴァンでもないことくらい」


じゅるん。


「――目を見れば、分かるのよ」


見破られて慌てたか。

湿っぽい音を立てて焦げ茶色をただ一滴垂らしただけの乳白色の球体が姿を現すが、もう遅い。


「聞いてたラスボスとは全く違うけど、まあなんとかなるでしょ」


不憫にも依り代にされたヴァンも、さっさと救ってやらなくては。


「正ヒロインで聖女だし」


というか何でこんな事になってるんだこの男は。


読んで頂き誠に!誠に!ありがとうございます!

ブクマ評価!リアクション!励みになります。

そろそろクライマックスです。

全て思いつき、ノリと勢いで書いているので、さっくり!楽しんでくださいませ!

完結したら番外編でちょっと補完したいですね。


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