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レイナ《リリナ視点》

「ごきげんよう」

「ごきげんよう、殿下」


お父様を交えての話し合いから数日。

あたしは美鶴に突っかかることをやめた。


『話をしよう、里々奈』


一夜明けてから、どこか吹っ切れたような、壊れそうな笑顔で美鶴から切り出された。再会してから二回目だ、リリナではなく“リリナの中にいる里々奈”を見て名前を呼ばれたのは。

思えばあたしはミツルではなく美鶴ばかり見ていたな、と思い至って自嘲するしかなかった。

すぐにでも話し合いの場を設けたかったけど、学園祭を控えたこの時期は忙しく、話し合いは週末にということになった。

上手く話せるだろうか、という不安を胸に見送った背中が遠くなる頃、入れ替わるように婚約者がやって来る。


「ミツルと何かあった?」

「ええ、少しだけ」


ルドは優しい。

些細な変化にも気付いてくれるし、きっと本当にあたしを愛してくれていることにも気付いていた。

あたしは――いや、わたくしはこの人と生涯を共にする。それがわたくしの“今”である。

もうそろそろ、鳴木(なるき)里々奈との決別をしなくてはならない。

……――その為にも、わたくしは“あたし”と決着を付けなくては。


「でも、良い方向に進めそうなんですの」

「そう」

「見守ってくださいますか?」

「当たり前だよ、リリナ。僕はいつだって君の味方だ」

「……ありがとう、ルド様」


この優しさと、努力で勉学も剣術も常に一番であり続け、未来の王配に相応しくあるようにとするその献身に報いるためにも。


「そうだ、ヴァンが君のことを探していたよ。この後時間が欲しいって」

「予算のことかしら。何か新しい催し物をやりたいと言っていたし」

「何だっけ、集え!筋肉!肉体美コンテスト!

……だっけ?」

「誰の入れ知恵か大方検討が付きましたわ……」

「キーリィも出場させようとしてるらしくて」

「止めて差し上げて」

「案外行けるんじゃない?」

「もう」


ゲームでは断罪されて死を迎える運命だった悪役王女、リリナ。

けれど此処は現実で、これはわたくしの人生。ルドだって生きている、一人の人間だ。

――あたしの地獄、など甘えた現実逃避はやめにしよう。


「ヴァン、備品庫に居るって言ってたよ」

「ありがとうございます。行ってまいりますわね。ルド様、また後で」


ルドと別れて備品庫へ向かう。

扉を開ければ空気は埃っぽく、看板用の板など、学際前で様々な物品が運び出されているせいだろうか。配置が乱れている。


「ヴァン?居るの?」

「あ!殿下〜!ごめんなさい、わざわざ来て貰って」


押したら崩れるのではないかと不安になる程積み上げられた箱の奥から、ひょっこりと水色の髪を揺らしながら目的の人物が顔を出す。


「いいのよ。

それで、話があると聞いたのだけれど」

「うん!そうなの。

でも、用があるのは殿下じゃないんだ」


可愛らしい笑顔を浮かべながら、ゆっくりとヴァンが近づいて来た。

見慣れた顔だと言うのに、何故だろう――この胸騒ぎは。


「わたくしではない?」

「……誰だと思う?」


目の前で立ち止まると、勿体ぶるように人差し指を口元に当て、首を傾げる。


「からかって遊ぶつもりなら、帰りますわよ。忙しいのだから――……」

「ヒント!

……もっと考えた方が良いんじゃない?

お姉ちゃん」

「……は」


その言葉はリリナ(わたくし)に向けられたものではないと理解した瞬間、猛烈な吐き気に襲われた。


『今が楽しければ良いって、馬鹿らしい。

もっと考えた方が良いんじゃない?お姉ちゃん』


だって、それは――あの子が、妹が、里々(あたし)に、軽蔑の目と共に散々突き付けて来た物だ。


「……麗奈(れいな)?」

「正解!……って、まあ僕はレイナじゃないんだけどね」


にっ、と歯を見せて笑うヴァン。

顔は同じなのに、それは記憶の中の妹そっくりだった。


「お姉ちゃん」


どろり。

麗しい少年の皮膚が溶けて、(れいな)と混ざり合って行く。空色の瞳が零れ落ちて、追いかける様にやって来た、焦げ茶色を垂らした白い球体がぴたりと嵌った。

新しい眼球はぐるぐる回ってから、こちらを捉える。

半分が麗奈――そう称するにはあまりにも(おぞ)ましく歪な顔貌に、今度こそ胃液が迫り上がって来た。


「うっ……」


耐え切れずに口元を抑えて蹲れば、“それ”もしゃがみ込んで、楽しそうに笑っている。


「レイナね、お姉ちゃんみたいに転生は出来なかったんだぁ。でも、気付いたらヴァンの身体に入ってたの!素敵でしょ?

これって、神様がくれたチャンスだよね!」

「チャンス……?あんた何言って」

「お姉ちゃんから先輩を奪うの!

ううん、奪うんじゃないよね。守るんだ!

今度こそ、上手くやるんだから!ヴァンだって協力してくれるって、素敵だよね!」

「奪うも何も!あたしと美鶴は恋人でも何でもない、聖女と王女が結ばれる訳がないで――痛っ」

「うるさいなぁ!」


髪を捕まれ、強制的に目を合わせる形になる。どろどろに溶けた顔はヴァンに成ろうと、麗奈に成ろうと蠢いていて、直視出来たものではなかった。

しかし、これだけは解った。


「黙れよ!

お姉ちゃんがミツル先輩を殺したくせに!」


――妹は、里々(あたし)を殺しに来たんだ。


読んで頂きありがとうございます!シリアス回でした!

評価、ブクマなど本当に励みになります…!リリナ達の物語はもうしばし続きます!お付き合いくださいませ(*´ω`*)



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