王家と聖女《前編》
リリナの訪問頻度は減ったが、全くなくなった訳じゃない。
だから、いつかバレるのではないかと思ってはいたのだ。
誰に?――王様に。
「聖女よ、良く来てくれた」
人払いをした謁見室、上等なソファには国王陛下とリリナが並んで座り、私は机を挟んだ正面に腰掛けていた。
王妃がいないのはおそらく配慮だろう。
これから問われる“罪”の予想はついている。
「単刀直入に訊くが、リリナと閨をともにする仲であるというのは事実か?」
「お父様……!」
――やはり。
聖女の屋敷は王城の敷地内にある。
屋敷といってもこじんまりとしているので、侍女はいないし、着替えを始めとした身の回りの世話は自分でやっている。
掃除も生活魔法でどうにかなるので誰かに頼むことはないのだが……ここの所やたらと王女付きの侍女達が私の屋敷にやって来ていたのだ。
それも、リリナが居ない時にわざわざ私の世話をしに。
それが関係に探りを入れるためであることは薄々気付いていたので、大して驚きはしなかった。
何ならリリナが付けた跡を侍女に見えるようにしていたくらいである。
――いつかは、終わらせなくてはならないのだから。
「事実です。
どんな罰でも受ける覚悟でございます」
「……はは!」
覚悟を決めた私に反して、陛下は目元を手で覆って笑った。
「良い、良い!実に潔い!
堅苦しいのは抜きにしよう。罰も与えんよ」
「……は、はあ」
「お父様……?」
「今日は王としてではなく、リリナの父として話があったんだ。楽にしてくれ」
緊迫した空気は一気に崩れ、陛下はまだ笑っている。
リリナも私も状況を飲み込めていない。
目を合わせて、困惑を共有するばかりである。
「いやな、侍女を遣わせたのは聖女が本当に“女”であるかを確かめるためだったんだ」
「女ですが?」
「そのようだな。あまりにも娘が君にお熱で……。
まあ、親心だよ」
陛下の話を聞いて少し理解した。
父親として娘の恋路を応援したかった……いや、そんなに簡単な話ではないか。
王は男でなくてはならないという決まりはない。しかし、女というだけで良からぬことを企む輩は後を絶たないだろう。
メル公爵家との婚姻はリリナの身を守ることにも繋がるし、後ろ盾は必要だ。
「お父様、もし彼女が殿方だったなら……婚約者を変えるおつもりだったのですか?」
「いや?それはない」
「では……」
「まあ、お前達が想い合っているのならルドくんと決闘でもして――くらいは考えたが」
「私、今心の底から女で良かったと思いました」
ルドは強い。魔法に関しては聖女は所謂チート級の力を発揮するが、決闘となれば話は変わる。
ルドの剣技は騎士を志すガルツをも上回るのだ。純粋な力比べならガルツに軍配が上がるが、鮮やかな剣さばき、身のこなし――学園でルドの右に出るものは居ない。これも、彼の努力の賜物だ。
「ただ、聖女が生まれた代は王家に迎え入れるのが通例なんだ」
「お父様、わたくしも聖女様も……」
「そう、女だ。だからこそ」
陛下の表情が変わった。
それは真剣に、父親として娘に向き合う目だった。
「お前がどんなに聖女を想っても、結ばれることはない」
「それ、は……」
「知っていたんだよ、リリナ。
聖女の部屋にお前が通っていることも、立場上断れない聖女がそれを受け入れていたことも……全部」
――ああ、やっと終わる。
陛下の言葉に、どこか安堵している自分が居た。
読んで頂きありがとうございます!
10話で終る予定だったんですが超えました。