これが異世界転生ね。悪役王女が元カノね。
あ、転生した。
――そう気付いたのは、これから入学する王立魔術学院の門を潜った時だ。
正確には『転生した』ではなく『してる』だとか『していた』なのだけれど、そんなことはどうでも良い。
テンプレート通りであるなら、わたしはトラックに轢かれて、転生して――悪役令嬢になっていた!だとか、そういう流れになるのだろう。
「ミツル・サラ」
――私の名前だ。
漢字で書くと佐良美鶴である。
前世の名前そのままだ。
ちなみに、見た目にも大きな変化は感じない。もしかしたらあるのかもしれないが――黒髪ストレート、見慣れた顔、強いて言うなら瞳の色が金色であることだ。
「異国の地を引いて、聖女の力にも目覚めた平民」
概ね引き継いで新しい世界へ、なんてご都合主義なんだ。
それにしても校舎までの道のりが無駄に長いし、周りのガヤが怖いよ。
到着するまでたっぷり聞かされるのか。
まあ、後々困るかもしれないからちゃんと情報収集するけれど。
「この一貫校に編入だなんて」
高等部からなんて少ないもんね。
それにしても、王立魔術学院、一貫校、高等部から編入――ああ、何だかぼんやり思い出してきたかもしれない。
「ご覧になって!ルド様とリリナ殿下だわ!」
「金の髪が今日もお美しいわ……」
ルド……金の髪、そうだ。
内容はそんなに覚えちゃいないが“知人”の妹がハマっていた、所謂乙女ゲームという世界に酷似している。
『あたしと同じ名前だわ、うける』
それから“リリナ”という名前にも。
「里々奈……?」
見た目こそ違うのに、何故かはっきりと感じる面影。
たっぷりとした赤い髪を巻いて、気の強そうな瞳はエメラルドの様な深い緑。
ダークブラウンを基調とする、上品な制服が良く似合っていた。
「……美鶴?」
さて、この乙女ゲーム。最初のイベントは、悪役令嬢ならぬ悪役王女にヒロインが嫌味を言われるというコテコテのものであるが――
『目を見れば、分かるんだわ』
“知人”が言っていた。
今まではいまいちピンと来ていなかったが、確かにそうだ。
「――分かったわ」
テンプレートなイベントは、校舎まで木々や花々で美しく整備された石畳の上で、重厚感ある城のような校舎を背にしながらの“知人”――改め、元カノとの再会へと変わったのであった。
「リリナ?知り合いかい?」
「!え、ええ……以前街に出かけた際に、お会いしたのですわ」
鳴木里々奈、改めリリナ・ベル・ドット第一王女殿下は並んで歩いていた婚約者である、ルド・メル公爵令息の問いかけに飛んでいた令嬢としての意識を取り戻したようだ。
勿論、街で会っただなんて嘘に決まっているのだがリリナを見れば『合わせろ』と目で訴えて来た。
「道に迷ってしまったわたくしを、あの方が助けて下さったのです」
「君が道に迷う?珍しいこともあるんだね。いつも護衛を付けているのに」
「お恥ずかしながら……どうしても食べてみたいお菓子がありましたの」
「そんなこと、頼んでくれたら買いに行かせたのに」
何を見せられているのだろうか。
可憐に頬を染めるリリナと、肩を抱くルド。合わせろというが、口を挟もうにも二人の世界である。
「……あの時は、本当に助かりましたわ。ミツル様、これからよろしくお願いしますね」
「お菓子、お気に召して何よりです。
我が国の華、リリナ殿下。ご挨拶が遅くなったこと、どうかお許し下さい。
それから、メル公爵令息。
本日から学びを共にさせて頂きます、ミツル・サラと申します」
――と、思ったら急に振るな。
この世界の貴族マナーなど何一つ知らないので、出来る限り丁寧に礼をする。
「ミツル・サラ、君が聖女か。よろしく頼むよ」
朗らかに笑って返すルド。
それから一歩前に出て扇を広げるリリナ。
「助けてもらったけれど、忘れないでね?貴女は聖女とはいえ、平民。わたくし達とは身分が違うの」
――顔に書いてある。
イベントを今思い出しました、と。
「気安く話しかけないでちょうだいね?」
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百合が好きです。見切り発車!