ロクデナシ、強敵と戦う
山をなめるな。虫が出るし、登るのしんどいし、だいたい滑る。
というわけで、今回の一行は山岳地帯を絶賛踏破中!
「山ってこんなにしんどいっけ?」と聖剣両手持ちの勇者(自称)が泣き言を言い、
「体力とは精神!」と女騎士が謎理論で乗り切り、
「Zzz……」とバーサーカーが寝ている、そんな楽しい山登りライフをお届けします。
もちろん、魔王軍も空気を読まずに登場。
幹部・獣獄のザバルさん、いらっしゃ~い(ただし滞在時間は約30秒)。
果たしてフィオは起きるのか? 起きたらどうなるのか?
起きなくてもたぶんどうにかなるけど、一応読んでください。
山だった。どう見ても山だった。しかもかなりの勾配。
登るなと言われた気がした。けれど道はそこしかなかった。つまりこれは「お前らの運命、こっちやで」と山が言っている。
「おい、セシリア。登る前に言っておくが、荷物持たないぞ」
「知ってる。あと、言われなくても見れば分かる。両手、剣だし」
ぐぅの音も出ない。主人公である俺の両手は、今や聖剣である。形状も完璧に剣。指も曲がらない。ツッコミもできない。
「フィオ~、山道って初めてか?」
声をかけたその少女は、既に岩の上で寝ていた。ワイルドバーサーカー、まさかの登山前にダウン。
「うわー……まじで役に立つの私だけじゃん……」
セシリアがため息をつく。いや、お前、騎士なのに道具の背負い方逆じゃん。
「セシリア。荷物、全部落ちてるぞ。しかも鍋、転がってってるぞ」
「うそ!? えっ!? まってまって、せっかく整えたのに!」
整えたのか、それ。
――というわけで、軽く全滅しかけながらも、なんとか山道を登っていく。セシリアは「女騎士ですから」と言いつつ、10分ごとに「ちょっとだけ休憩」としゃがみこむ。俺は両手が剣なので休憩中も水を飲めない。フィオは背負われて寝ている。
歩きにくい岩場、崩れかけた吊り橋、唐突に現れるスライムたち(セシリアにすべて丸投げ)、そしてようやくたどり着いたのは、岩と風に囲まれた小さな平地。
「ここで、今日は野営だな。魔物の気配も薄いし……」
そういえば金あったっけな。
俺は聖剣の柄で腰袋をひっぱり出し、中身を確認した。
銅貨が数枚。……なんとかなる。たぶん。いや、ならないぞ。
「なにそれ、買い食いでもするつもり? 山だよここ、山」
「いや、万が一に備えてな」
――そして、今夜はこの山中でキャンプ。
だが、この後、一行は思いもよらぬ“強敵”と遭遇することになるのだった。
――山の静寂が崩れたのは、夜も更けて焚き火が小さくなった頃だった。(この焚き火用意するの大変だったんだぜ)
「……なんだ?」
セシリアが耳をすませ、剣の柄に手をかける。
森の奥、風の音とは違う――重たい、踏みしめるような音が近づいてくる。
「まさか、夜襲!?」
「いや、違う。あれは……」
茂みが割れ、現れたのは黒いフードの男。そしてその背後にぞろぞろと現れる異形の魔獣たち。二つ頭の狼、巨大な羽虫、うろつく骨の獣。
「へっへっへ……ようこそ、旅人ども。俺様のペットたちが腹をすかせててなぁ」
「誰だよお前!」
「魔王軍幹部・獣獄のザバル様だァ!!」
名乗りと共に魔獣たちが咆哮。一瞬にして周囲が戦場に変わった。
「えー・・・。めんどくさい」
「お前は勇者だろゥ!!魔王様に代わって息の根を止めてくれる!!」
「いや、だってめんどくさいものはめんどくさいじゃん。俺勇者の実感もあんまりないし。あ、そうだ!お前金持ってるか??」
「金ェ?まあそれなりには持ってはいるが」
「よし、じゃあ俺が勝ったらそれいただくぜ!!セシリア、構えろ!」
「言われなくても!」
セシリアが一歩前へ出て、魔獣の群れと斬り結ぶ。剣筋は鋭いが、数が多すぎる。
「くそっ、俺も何か……いや、両手剣じゃ何もできねぇ!」
そのとき、背後からのけ反るようなイビキ。
フィオだった。地面にごろ寝したまま、あくびをかき、ぐいっと片目だけを開ける。
「んぅ……うるさいなあ……ぶっ飛ばすぞ……」
その声とともに、気配が変わる。
風が逆巻き、空気が震える。
「え、ちょっ……フィオ? おい、待て、今は寝てていいから!」
「うるっせえぇぇぇぇえええええええ!!!」
フィオ、全力覚醒。いや、寝ぼけたままバーサーカー発動。
次の瞬間、音が消える。
気づけばザバルの部下魔獣どもが、次々と地面に埋まっていた。壁に叩きつけられ、空を飛ばされ、爆発四散。
「な、なにィィ!? 俺の魔獣たちが……ッ!」
「うるさいって言ってんだろオォォォ!!」
突撃、回転、拳撃、爆裂。
獣獄のザバル、姿もセリフも残せず地平線の彼方へ吹き飛ぶ。
あ、俺の金が飛んでいく・・・。
しばらくの静寂。そして……
「……すぅ……」
その場にうつ伏せで倒れたフィオは、また寝た。
「……なにこの……なにこれ……」
セシリアは剣を持ったままフリーズ。俺も聖剣のまま無言で頷く。
夜明け前の山は静かだった。
吹き飛ばされた木々と魔獣の残骸を背景に、俺たちはただただ呆然とした。
「……とりあえず、魔獣の皮とか剝いでおくか……」
とにかく、山は危険だ。今後、登山に行く人には、心から「やめとけ」と言いたい。
だって、魔王軍の幹部が出てきて、結局問題解決したのは寝てたフィオだし。
こんなことがあるなら、寝るのが一番だって気がするよね?
それにしても、寝ぼけて敵を倒すって、どんな理屈だよ!
起きて戦ったらどうだったかなんて想像するだけで怖いけど、フィオが寝てるおかげで助かったってことだよね。
……って言いたいけど、次はどうなるかわかんねぇな!
だって、あの聖剣の力だって、まったく信じられないくらい無駄だし、
あと、セシリアももしかしたら「生活魔法」で周囲にカオスを作るのかもしれないしな。
とにかく、読んでくれてありがとう!次回も、もう少し真面目に進むつもりだから、期待しないで待っててくれ!
(やっぱりダメだな。次回もどうせギャグ路線だろうけど)