ロクデナシ、野営をする
人間は火を使いこなしたことで文明を築いたという。
ならば火を起こせない人間は何だ? 原始人か? それともポンコツか?
――答え:女騎士である。
はい、というわけで今回は文明に挑む我々の姿をお送りします。
主人公は両手が聖剣で何もできません。
ヒロインは生活魔法が「気合で出す系」で火花を撒き散らすだけのギリ人類。
そしてご飯は焦げ、テントは曲がり、夜は長い。
あげくバーサーカーが乱入してキャンプを更地にしていくという、
まさに「寝かせてくれない回」になっております。
でも大丈夫!
どれだけ騒がしくても、最終的には仲間が増える……かもしれない。
では、前回よりさらにIQが落ちる旅の続きを、どうぞお楽しみください!
さて、旅に出たのはいいものの、当たり前のように日が暮れてきた。街道から少し外れた草原の端で、俺たちは初めての野営を迎えることになる。
問題は――俺の両手が聖剣なことだ。
「おいセシリア、火起こしとかできるか?」
「できるわけないでしょ。こっちは剣しか振れないんだから」
うん、知ってた。こいつ、生活能力ゼロ。今も鎧のまま木を折ろうとしている。いや、それ普通に無理だろ。
「生活魔法、なんか使えないのか?」
「……火花くらいなら、たぶん出せる」
「たぶんって何だよ」
俺は剣の手で頭を抱えた。もちろん実際には抱えられない。だってこれ、刃物だからな!うっかりやると顔切れるわ!
結局セシリアが「ファイアースパーク!」とか叫びながら地面をパンパン叩いて、ようやく小さな火花が出る。だが、それは一瞬のきらめきで、風が吹いた瞬間に虚しく消えた。
「ちょっともう!何で火が消えるのよ!」
「そりゃあ、叫んでるからだろ!その声で火も逃げるわ!」
そんなやり取りをしながら、俺は見てるしかできない。だって両手が剣。鍋も持てねぇし、テントの布も結べねぇ。ただの厄介なオブジェと化した。
「俺、ほんとに勇者か?」
「少なくともキャンプでは役立たずだってはっきりしたわね」
「まあお前も大差ないけどな」
数時間後、なんとか火だけは起き、テントも傾きながら完成。飯も焦げて炭と化していたが、二人とも疲れ果てて何も言えなかった。
「まあ、こんなもんか……」
「寝るしかないわね……」
そう呟いた時だった。
――ズドォォン!!!
ものすごい爆音とともに、森の奥から何かが猛スピードで突っ込んでくる音がした。
「な、なんだ今の音……!?」
「待て、くるぞ――!」
木々をなぎ倒しながら、突如現れたのは――赤毛で大剣を引きずるように持った、少女だった。
いや、少女?本当に?
彼女は目を見開き、涎を垂らしながら猛スピードで突進してくる。
「うわ、なにあれ!?なんか叫んでない!?」
「ぐがぁああああああッ!!」
「叫んでるよッ!!」
俺はとっさに後ろに跳ぶ。セシリアが剣を抜くも、バーサーカー少女の一撃で吹き飛ばされた。
「うわぁッ!?なにこのパワー!!」
地面に倒れたセシリアの隣に俺が滑り込む。両手が剣なので盾も使えないが、刃を交差させて少女の次の攻撃を受け止める。
「ぐぅ……!こいつ、本気で殺す気かよ……!」
しかし、次第に彼女の動きが鈍くなる。息が荒く、手が震えはじめている。
「……ぐ……う、うぅ……あたま、いたい……!」
ついにその場に崩れ落ち、気を失った。
「お、おい……今の、なんだったんだ……」
「たぶん、バーサーカー化してたのかも……」
セシリアが起き上がり、剣を収める。俺も剣の手でなんとか少女をつつく。起きない。
しばらくして、少女は目を覚ました。ぐったりとしながら、ボソッと呟いた。
「……おなか、すいた……」
なんだ、こいつ。
「名前は……?」
「フィオ……あんたたち、何者……?」
「俺は勇者だ。こっちはポンコツ騎士」
「うるっさいわね!」
フィオはボロボロの衣服を整えながら、黙って俺たちを見ていた。そしてポツリと一言。
「……ついてく。ひとり、もうヤダ……」
そういうと、フィオはその場に倒れこみ、盛大なイビキをかきだした。
あれ、バーサーカー?少女?もしかして
「なあ、セシリア。牢屋でなんかバーサーカー化した少女がどうのこうの言ってなかったか?」
「え、まさかそんなこと・・・あるのかな?」
それが、俺たちとフィオとの出会いだった。
もう余計なトラブルは勘弁してくれ!!
キャンプ、それは自然とのふれあい。
星を見上げ、焚き火を囲み、語らい合いながら眠りにつく――そんな幻想をぶち壊す40分でした。
「野営って、こんなにうるさかったっけ?」
「寝るどころか戦闘してたけど?」
「両手が剣のやつに指示されても説得力皆無なんだけど?」
そんな声が聞こえてきそうですが、読者の皆さん、これが我らの旅のリアルです。
ちなみにフィオちゃん、全力で暴れて全力で殴って全力で仲間になりました。
やっぱり友情って拳で語るものなんだね(違う)。
次回はいよいよ三人旅がスタート! やっとパーティが形になってきた感があります!
でも安心して、ぐだぐだなのは相変わらずです!
それではまた、次回もよろしくお願いします!
寝袋はちゃんと持ってきてね。あと、バーサーカー避けも。