ロクデナシ、聖剣を売りに行く
どうも、相変わらず名前すら名乗る気がないロクデナシです。
今回は、魔法の剣を金に換えようとしたら、なんか色々と巻き込まれてしまいました。
勇者だの、封印札だの、バーサーカー少女だの……もう放っておいてくれって感じなんだけど、人生そう簡単には逃げられないらしい。
あと、出てきた女騎士、地味に怖いです。
朝っぱらからついてねぇ。
魔法の剣を拾ったかと思ったら、どこぞの変な声で「勇者よ……」とか言われて、何か背中がモヤモヤするし、親父と殴り合いの喧嘩はするし、飯は食いそびれるしで、イライラが止まらねぇ。
だから、ついやっちまったんだ。
――盗みをな。
武器屋に向かってる途中、目の前を通りすがった甲冑ガチャガチャの騎士が、いかにも重そうな袋を腰にぶら下げててさ。どう見てもパンパン。これは絶対金が詰まってる。ほら、俺、悪人だから? 迷いなんてなかった。
すっと近づいて、ひょいと引っ張って、ダッシュ。
……する予定だった。
「ん、あ?」
手応えが妙に重いと思った瞬間、後ろから腕をガシッと掴まれた。
「ちょ、離せこの……うわ、腕強っ!? 痛い痛いっ!」
「ちょっと待ちなさい! それ、返しなさいよコラ!!」
その声、意外と高かった。
もがいてるうちに、相手の兜がガコンと外れて、中から出てきたのは――
「……女!?」
「アンタこそ泥棒でしょ! 女だと舐めんじゃないわよッ!」
なんか意地でも引き下がる気がなかったので、俺も負けずに引っ張り合う。
で、最終的に、袋は俺がもぎ取った。超逃げた。マジで全力疾走。
……で、裏路地に入って、ようやく袋を開けたら。
「……なんだこれ?」
中身は金貨でも銀貨でもなく、妙な紙きれの束。
「……お守り? 呪符? いや、呪ってんのか俺を!? なんだよこれぇ……」
仕方ねぇから、せめてこっちで稼ごうと、俺は聖剣を担いで武器屋へ向かった。
◆ ◆ ◆
「へぇ……なかなか立派な剣だねぇ」
武器屋の親父は、俺の目の前で聖剣をしげしげと眺めたあと、鼻で笑った。
「で、いくら?」
「んー……そうだなぁ。2銀貨ってとこかな」
「は?」
……いやいや、聞き間違いかと思ったわ。
「2!? 2!? 銀貨2枚!? それ駄菓子でも買う気か!?」
「だってこれ、魔力ないし、刃も妙に固いだけで、実戦じゃ使いにくいし……飾り用の安物にしか見えねぇなぁ。うちは引き取るだけマシだよ」
言い終わる前に、俺は机をひっくり返して叫んでた。
「ふざけんな! それはな! 神聖な勇者の剣でな! ……って、うわ、衛兵来てる!?」
「器物損壊と営業妨害だ! こいつを捕らえろ!」
「あっ、やっべ、逃げ――」
◆ ◆ ◆
そして俺は今、牢屋の中。
聖剣はどこかへ持っていかれた。メシはまずい。床は臭い。なんなら壁もしょっぱい。
「はぁ……死にてぇ……」
鉄扉の向こうから、誰かの足音。カツン、カツンと、甲冑の靴音が響く。
覗き窓がカシャッと開いた。
そして――
「「あーーーーっ!!」」
お互いに叫んでた。
「あんたは、あの時の泥棒!!」
「てめぇ、あの女騎士!!」
鉄格子の向こうに現れたのは、さっきスった相手――っていうか、俺が勝手にスッたから悪いのは俺だけど――あの女だった。
「あんた自分の立場がわかってるの?私はセシリア。セシリア様と呼びなさい」
「やなこった」
ちょっとまずいかもしれない。
目が笑ってないどころか、完全に殺気立ってる。
「ふふ……運命って、あるのねぇ……」
「待て待て待て、なんでそんなホラー顔してんの!? 怖い怖い怖い!」
騎士の女はにっこり笑った。怖さ倍増。
「安心なさい。今日から、たっぷり反省してもらうから」
「や、やめて……俺まだ更生する気はない……!」
鉄格子の外で、女騎士――いや、「セシリア」と名乗ったらしいその女が、腕を組んで俺を睨んでいた。
「まったく……この国の治安が悪い原因、今わかった気がするわ」
「……俺だけで判断するなや」
「じゃあ教えてちょうだい? なんで人の荷物を盗んだの?」
「そこに……重そうな袋があったから……」
「正直でよろしい。でも減刑はしないわよ?」
「えぐっ!」
セシリアはふうとため息をついた。
「それにしても、よくあんなの盗んでいったわね。中身、見たでしょ?」
「見た。紙しかなかった。お守り? あれ、なんなの?」
「『封印札』よ。かなり強力な魔術で封印された、特級危険物を押さえるための札」
「特級ぅ?」
「……まあ、いずれわかることになるかもね」
あれ、なんか急に雰囲気変わった。セシリアは鉄格子越しにじっと俺を見つめてくる。
「あなた、本当にただの浮浪児?」
「なんだよ、改めて言われると地味に傷つくな」
セシリアは小さく首を振った。
「……今朝、魔力測定器が反応したって報告があったの。封印された『何か』が、動き出した可能性があるって」
「へぇ。で?」
「それが、あなたがいた市場のすぐ近くだったのよ」
「……ま、まさか俺のことじゃ――」
「可能性は低い。でもゼロじゃない。最近、魔王復活の兆しもあるし……」
「魔王って、おとぎ話じゃなかったのかよ……」
セシリアは真面目な顔でうなずく。
「この国には、各地で異常魔力が観測されてる。そして……その中の一つ、南の辺境で最近、バーサーカー化した少女が暴れているって報告があった」
「……バーサーカー?」
「制御不能の暴走状態。自我を保てるかどうかも危うい。でも、誰も止められないほど強い。しかもその子、どうやら勇者の血を引いている可能性が高いの」
「……勇者って、俺もなんかそれっぽいこと言われたんだが」
「は?」
「いや、あの剣から、『勇者よ……』って、謎ボイスが……」
「…………」
セシリアは、ものすごくイヤな顔をした。
「ちょっと待って。それ、すごく面倒な話じゃない?」
「俺もそう思ってる!!」
二人して鉄格子越しに、頭を抱えた。
……そしてその夜、牢屋の中で一人、天井を見つめながら、俺は思っていた。
(……バーサーカーな少女って、どんな奴なんだ? 勇者の血? 俺と関係あるのか?)
(――いや、関わりたくねぇな。絶対ヤベぇ奴じゃん)
でも、俺の思いとは裏腹に。
その少女――後に「フィオ」と名乗ることになる破壊の暴風は、すでにこの世界を大きく揺らしはじめていた――
お読みいただきありがとうございました!
今回はセシリアとの本格的な出会いと、ちょっとだけ世界の裏側をチラ見せする回でした。
まだまだ主人公はクズだけど、ちょっとずつ運命が動き出していきます。
そして次回、あの牢屋からどう出るのか?
主人公とセシリアの凸凹パーティ(仮)がスタートするのか?
そしてバーサーカー少女・フィオの暴走は……?
よかったら次話も覗いてやってください!