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ガラスの靴で登山

アーノ姫のターン。

現在ロイド山入り口。

ロイド山を登ったところにロイデン村が。

魔女の調べでは村まで約十キロもあるそう。

しかも肝心の馬車が封印され歩くしかない。


ガラスの靴で登山開始。

「ガラスの靴はちょっとやそっとでは壊れませんから。ただ…… 」

「うわ重い! 」

何でよりによってこんな重いガラスの靴で登らないといけない訳?

一応はボクは姫様なんですよ? 何の冗談? まさか嫌がらせ?

今までのいたずらがすべてバレて怒ってる? 仕返しのつもり?

 

「重いかい? うーん。少々頑丈に作り過ぎたかね。

これも姫様をお守りするためさ。我慢しな。さあ歩くよ」

そう言って先に行ってしまう。これはもうほぼ確定でしょう。

でも何も言わずにただ笑うのみ。無言でプレッシャーをかけ続けている?

何のために? ボクからの告白を待っているとか?


どうであれよく考えて欲しい。

仮に冗談でも嫌がらせでもやっていいことと悪いことがある。

本当に考えて欲しい。このガラスの靴は相当重い。

ボクは当然か弱いお姫様。いつもの倍以上の体力が要求される。

これで十キロ歩けと言うのでしょうか? 正気の沙汰ではありません。

こんなの姫でなくても無理。


「そうだ。もうあと一キロも歩けば登りだから気をつけるんだよ」

振り返って叫ぶ。当然聞こえてますが頷くのさえままならない。

もう疲れて疲れて。しかも最悪のことに水は魔女が管理。飲めない悲劇。

ああ誰でもいいからボクに命の水をお恵みください。


「もう疲れた! 休憩しましょう! 」

「ダメだって。まだ一キロも歩いてないでしょう? 」

鬼のような魔女。これならクマルを連れてくるんだった。

留守番させたのは魔王様の判断ミス。ちっとも楽ができない。


「分かりました。認めます。すべてボクが悪かったんです。だからお願い! 」

もうここまでされたら告白するしかない。ちょっとしたイタズラじゃない。

根に持つんだから。

「はあ? 何を言ってるんだい? さあ行くよ! 」

どうやら魔女は知らない。あるいは知らないスタンスで行くらしい。


「せめてその魔法のステッキで! 」

「無理だって! 馬車はこれ以上進めないんだよ。それが決まりさ! 」

魔女は下調べを完璧にしたらしい。

「分かってます。ただの杖として貸して! もう嫌! 」

どうにか魔法の杖を貸してもらえた。

さあこれを突いてロイド山を登るとしましょう。


ああなぜこんな目に合わなければならないのでしょう? 日頃の行い?

いいえ。そんなはずありません。姫様として恥ずかしくない行いを心掛けている。

これは試練。立派な姫様になるためにボクに課された試練。そう考えるしかない。

か弱い姫だけではこの試練に立ち向かえない。だからきっと助けが来る。

ボクを救ってくれる救世主。きっと……

もう早く来なさいよクマル!

 

こうして本格的に登山を開始した。

伝説の不老不死の実?

魔女はそのことで頭が一杯のようですがボクは違う。

女神様からの命を受けロイデン村の例の村人に接触しようと。



魔王軍移動中。

クマルにしろカンペ―キにしろモンスターには羽が生えている。

だが肝心の魔王様には背中に羽がない。

これを悲劇と見るか普通と見るかで考え方が変わって来る。

とにかく移動時に不便で仕方ない。ただ魔王様はあまり移動しない。

その場でどっしり構えるのが魔王様。

それから魔王様を移動させないように取り計らうのも重要。


歩く訳にも行かず飛ぶ訳にも行かず人間の真似をして馬車でロイド山を目指す。

「お客さんどこに向かいましょうか? 」

随分とくたびれた感じの老人。本当にこれで大丈夫か心配になるレベル。

ただこの仕事を始めて五十年を超えると言うから超が付くほどの大ベテラン。

頭が下がる限り。


「南に行くとロイド山があると思うんだが…… 」

モンスターたちを先に行かせてから手下を二名伴い馬車に乗り込む。

飛べばすぐのところで無駄な時間を要してしまう。

これも魔王様の道楽だと思えばイライラせずに済む。要は気持ち次第。

「ああそれなら前に何度か行ったことがあるさ。お客さんも大変だね」

どうやら男は里帰りだと勘違いしてるらしい。

「いや…… 我々は観光で」

手下にすべて任せゆっくり寛ぐ。

「見栄張りたいのも分かるがね素直にならんとまた不幸が訪れるさ」

知ったようなことを。一体我々の何を知ってると言うんだ?

これ以上余計なことは言わない方が利口だ。命がいくらあっても足りないぞ。

「あれま怖い顔で。まあいいさ。では出発だ! 」

こうしてロイド山へ。


人間のように振る舞うのはどうも苦手で。つい表情に出てしまう。

何と言っても背格好も見た目も大きさも全然違うから溶け込むのが至難の業。

変装はするがあくまで形だけ。

馬車はロイド村に向かって南進。

「お疲れですのでお休みください」

恐怖でモンスターを支配しコントロールするが当然彼らには彼らの役割がある。

魔王様のお世話係であり万が一のために体を張ることも。

「しかし…… よし分かった。着いたら起こすんだぞ? 」

ではせっかくなのでゆっくり寝るとしようか。


ガタガタの悪路では五分ごとに起こされてしまう。

ボグ―! ボグ―!

怒りの雄たけびを上げるが笑っている肝の据わった男。

この中で唯一の人間。

下手に振る舞えば気づかれる恐れがある。

「お客さん大丈夫ですか? 揺れるでしょう? 」

問題ない。ただ心配してるだけだ。


さあまずは今回の旅の目的をはっきりしておかないとな。

第一にロイド山で伝説の不老不死の実を探し出し姫へのプレゼントにする。

これは姫の希望と言うことになっている。

もちろん完全な出任せではない。実際姫はこの不老不死の実を求め動き出した。

第二に山奥のロイデン村で例の男探し。手がかりは男と言うだけ。

特に第二の目的は女神様から。探さない訳にも行かない。


さあここから人探しが始まる。 

姫もいることだし慎重に行動しなければ。

ばったり会ってしまえばシャレにならない。


                 続く

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