限界
宮殿にて。ノアのターン。
新隊長就任パーティーを終えると再び国王の元へ。
しつこくアーノ姫に会わせろと何度も繰り返す困ったお方。
「隊長。頼むから姫を取り戻してくれ。これは命令だ! 」
再び暴走を始めようとする国王。
それを止めるのが隊長の役目。これ以上好きにはさせない。
「いくら王命でもそれはなりません」
「なぜそのような寂しいことを言う? 国王の命令が聞けんと言うのか? 」
泣くでもなく喚くでもなく凄む国王。さすがにこれはもう限界かな?
でもここで食い止めないと益々やりにくくなる。
いい加減何もせずにじっとしてろと言いたい。
「残念ですが姫は諦めてください! 」
はっきり言ってしまおう。どうせ国王は分からず屋なのだから。
「何を抜かす! それが国王に対する物言いか?
平民の分際で舐めたことを抜かしおって! 二度と口にするでないぞ! 」
カンカンの国王。少々言い過ぎたかな?
でもこれくらい言わないと理解しないだろうしな。
たださすがは国王だけあって取り乱すもすぐに冷静さを取り戻した。
「ああアーノよ。お前は今どうしているんだ? 」
居ても立っても居られない様子。
部屋を行ったり来たりを繰り返す。
「自由な生活を満喫されているかと。このまま戻ってくるかさえ怪しいです」
魔王様から身を守るために隠れて暮らしてることを国王もご存じなはずなのに。
なぜか一向に理解してくださらない。
まさか復帰早々に国王のお相手をすることになるとは。
「一度。どうか一度でいいから姿を見たい! この国王に見せてはくれぬか? 」
無茶を言う。仲間にさえも漏らさぬ極秘の場所。
そんな隠れ家を教えればたちまち魔王様の知るところになる。
まさか姫をそんな危険な目に遭わせる気か?
ただもうとっくに知られてるのがこの問題の根深いところ。
姫に会うには一人ではダメ。国王の命令は絶対。
そうなると必然的に隊長であるボクがお供することになる。
だから隊長でいる間は決して会わせられない。
それは魔王様に対してもまったく同じ。
会いたくても会えないし会わせたくてもやっぱり無理。
会えばこの世界が消滅してしまう。
だからたとえ国王の願いであっても突っぱねればならない。
こちらの辛い立場も理解して欲しい。
これは冗談なんかではない。
大体どれくらいの距離を取れば安全かも聞かされていない。
何と言ってもこの手のことは稀。女神様もお手上げ。
どうしたって事前に安全策を講じなければならない。
ふう…… 分っていたことだが時が経つにつれて危険度がどんどん増していく。
この鬼のいない鬼ごっこをどこまで続ければいいのか。
もう限界は近い。
ちょっとしたきっかけで絶妙な三人の距離が一気になくなるかも。
いっそのことボクはここにいるとすべてを告白できたらどれだけいいか。
ボクはここにいる。
報われないうたかたの恋だとしても。
それでもアーノ姫と勇者・ノアは結ばれるべきだろう。
隊長であるボクこそが姫であり魔王様だと。
それが言えないから悩み苦しんでいる。
「国王様のお気持ちは痛いほど分かります。しかし今は…… 」
自重を促す。はっきり言って心苦しいがこれも国王を思ってのこと。
「アーノはな…… あの子はいつも優しく可憐な誰からも愛される姫だ。
しかもかわいい一人娘だ。どうしても一目見たい。少しでよいから元気な姿を」
国王の姫に対する強い思いは痛いほど。それでもどうすることも……
ごめんなさいお父様。もう前のアーノではないのです。
「分かりました。国王様の願いを叶えるのがこのボクの役目。
どうぞお任せください! 」
もう粘るんだもんなこの人。情に訴えられると弱いんだよな。
「うむ。それでこそ儂が見込んだ男だ」
ダメだ。もう国王は常軌を逸している。
とは言え気持ちは痛いほど分かる。
親子を再会させてあげたい。その気持ちにウソはない。
謁見を終える。
さっそく準備に取り掛かるとしよう。
問題はどこでどのような方法で二人を再会させるかだが……
下手は打てない。さあこの難問の解決策を見つけられるか?
二人を会わせてしまえばいい。
再会場所を設ければいいのだが……
問題は国王の安全が保たれてるかどうかも。
それは姫にも言えること。だからこそ今まで姫を放置していた訳で。
根本的な解決にはどうやらまだ時間が掛かりそうだ。
せめて二人の身の安全が図られればな…
あーあ安請け合いしたかな。
これも王命である以上逃れられない運命。
受け入れるしかない。
さあそろそろ手紙が届く頃かな。
「申し上げます! 魔王からの書状が届いております! 」
うん。いいタイミングだ。
魔王からの手紙。
今姫がとある場所へ向かっている。
我が魔王軍は優秀でね。すべてお見通しだ。
気をつけた方がいい。姫の安全が保障されてない。
これは国王への挑戦状だ。
魔王様が姫を奪う前に見事阻止するんだな。
それができなければ残念だが姫はお前の手から離れ魔王様のものとなるだろう。
さあこの挑戦状を受け取るがいい。
「ふざけおって! 何が挑戦状だ? 人の気も知らないで」
怒り狂う国王の声が外にまで漏れ聞こえて行く。
「どう致しましょうか? 」
「用意しろ! 今すぐ作戦会議だ! 」
ついに国王様は重い腰を上げられた。
これでこちらの思惑通り動くはず。
ただ慎重にやらねばニアミスしてしまう。
近づくのはなるべく避けたい。
認識できるまで近づかなければいいと妖精は言うが実際どうか?
ニアミスも重要なインシデントとならなければいいけれど。
姫が向かった先。それは南の果て。
続く




