アーノ姫新たな旅立ち 不老不死の実争奪戦編
引き続きアーノ姫のターン。
どう言う風の吹き回しか魔女は旅に出ようと提案してくれた。
これ以上一人にはしておけないと。
果たして魔女の思惑は?
「分かった。支度するね」
「では明日四時に」
まだ日が昇らない未明に出発するそう。
旅ですからね朝も早いのも納得しています。
でもボクは姫だから早起きは大の苦手。日が昇らずに起きろなんて冗談じゃない。
でもそんな我がままを言えばまた留守番させられる。
実際のところ一度だって留守番などしてこなかったですが。
「馬車は来ないと思うんだけどな…… 」
やんわりと提案する。怒って一人で行くとなったら厄介。
「そう。歩きで」
何のためらいもなく言い放つ魔女。
確かに元気で足にも自信があります。ですが歩くのはもう充分では?
そのホウキだか杖だかステッキだかを使ってもらえると助かるな。
「ウソ? ボクって姫なんですけど? 」
これは我がままではなく単なる事実。ですが魔女はムッとする。
「お留守番は勧めませんがそれでもいいと言うならどうぞ」
やっぱりボクが留守番疲れしてると思って気を遣ってくれたらしい。
でも実際は違う。魔女の後をつけて引っ掻き回していた。
そのことには一切気づかずにいる能天気な魔女。
ふふふ…… それだけボクの変装が完璧だったと言う証。
「分かった。歩きますって。ああでもクマルに送ってもらった方が…… 」
丁度いいのがいるのだから役に立ってもらわなくては損。
ただクマル飛行は一人が限界かな? 本人の気分次第ですが。
「そうは言うけど彼は魔王軍で一応は敵。
よくやってくれるかと…… それでも敵に変わりはない。
できるなら不老不死の実の場所を誰にも知られたくない。
悪用されては敵わない。姫ももう少しその辺り慎重になられた方が。
ただの荷物運びだと見くびっていたら大変な目に」
魔女はクマルをまだ信用してないらしい。
まあそれも当然か。今回のことも魔王様の指示で動いてるだけだから。
それにクマルは元々役に立つ方ではない。当てにしてはかわいそう。
こうして翌朝旅立つ。
その頃馬車が宮殿へ。
「何奴? 名を名乗れ! 」
すぐに取り囲まれてしまう。
宮殿はどうやら厳戒態勢を敷いているよう。
「おいおいまさかこのノア様を忘れたか? 魔王討伐隊の隊長を忘れたとでも?」
姫奪還が主な活動となった国王直々に作られた新設部隊。
このノア隊長不在時に代理を立て戦いを挑んだ愚か者ども。
クマル兄弟に蹴散らされて早々に逃げ帰ったのだろう。
ボクの元にも情報が入っている。
「失礼しました。情勢が悪化しておりますので何卒ご勘弁ください」
どうにか解放され宮殿内を自由に動き回れるように。
急いで謁見しなくては。
「あなた…… 今度はどこに参りましょうか? 」
幼馴染が悪ふざけを。満足した表情を浮かべる。
カンペ―キ洞窟から奇跡の生還を果たした。
その生き証人であるブシュ―。
無事戻って来たこともありボク以上に浮かれている。
「いやボクたちそんな関係じゃないだろ? 」
ただの昔からの幼馴染。そもそもボクは当時のことは記憶にない。
いやあるはずがない。転生前は普通のサラリーマンだったのだからな。
「もう照れちゃって。一緒に温泉に入った仲でしょう? ほら恥ずかしがらない」
抱き着いて放してくれない。
「ボクにはやることが…… お願いだから村に帰ってくれ」
しつこく迫る幼馴染に手を焼く。
嬉しいような嬉しくないような。でもボクにはアーノ姫がいる。
「お帰り元隊長様。ははは! どうした仲がいいな? 」
同部屋の仲間がからかう。
「ああそうだお前。何かあったのか? どうも物々しい雰囲気でさ」
「お前が呑気に出かけてる間に魔王軍へ攻め入ったんだ。
そしたら軽くあしらわれて追い返されたよ」
モンスターからの報告と同じだ。どうやら事実らしい。
「あしらわれた? と言うかなぜ無謀な戦いをする気になったんだ? 」
「堪えられなくなったのさ。お前の帰りを待たずして王命が下った」
しかし本気ではない魔王軍に追い返された。
本当に情けない。この展開は読めたのに誰も止める者がいなかったのが悲しい。
「それで今隊長様が報告に」
この言いようだとあまり気にいってないらしい。
「まったく少しは我慢しろよな。魔王軍は戦うつもりはないんだからさ」
「おいおいやけに魔王軍の内情に詳しいな。スパイでも潜入させてるのか? 」
鋭い仲間。さすがにそこまでできるはずもない。
「いや…… ただの感触だ。済まないが今のは忘れてくれ」
まずいまずい。余計なことを言えばこちらの存在と狙いに気づかれる。
それだけはどうしても避けねばならない。
「まあいいや。今隊長が国王様に報告してるところだ。
お前も急いだ方がいい。国王様は今回の件でも分かる通り痺れを切らしている。
それがどう言うことか分かるだろう? 」
まさかもう次の手を打つ気じゃないだろうな?
国王の暴走が国を亡ぼす。そんな話は過去にいくらでも耳にした。
ここは冷静さが求められる。
急いで謁見することに。
「戻りました国王様! 」
「おお隊長か。よし早く復帰してくれ。今の代理では役に立たん! 」
酷い言われようだがこれもトップに立つ者の宿命。
俺だって下手を打てば叱責され追放されるだろう。
この手の隊長ぐらいいくらだって調達可能。
「お任せください国王様! 必ずや姫様を救出いたしますので」
そろそろ国王も限界だろうな。
姫に会わせてやるとするか。でも待てよ。確か姫の居所は聞かされているのでは?
念のために確認する。
「ああ姫の無事は確認済みだ。しかしこの状態が長く続くと辛くてな。
もう問題がないなら早いところ取り戻したい。
そのために魔王軍に仕掛けたのだが不発だった。私はどうすればいい? 」
姫のことで頭がいっぱい。それ故に冷静さを欠きコントロールを失いかけている。
ボクがもっと近くにいるべきだった。
それなのにボクは幼馴染と呑気に温泉で骨休め。
ああ困った国王だ。そして役立たずの隊長代理だな。
言い過ぎだろうがこれくらいでないと隊長は務まらない。
こうして国王の要望に応え隊長に復帰する。
続く




