カンペ―キな交渉術
引き続き勇者・ノアのターン。
現在カンペ―キ洞窟。間抜けにもモンスターに捕まり幼馴染と共に監禁状態。
「早くカンペ―キを! お前たちのリーダーを呼んで来い! 話がある」
モンスターの脅しに怯まずに積極的に動く。
「お前自分の立場が分かってるのか? イカレタことを言いやがって! 」
憤慨する。さすがはカンペ―キ。尊敬されているのがよく分かる。
それに引き換えクマルは…… 上から下からもバカにされて……
おっと今はそんなことを考えてる場合じゃないな。
おい! おーい!
誰か! お願い!
相手にされないのでブシュ―と大騒ぎしてカンペ―キを誘い出す作戦。
果たしてうまく行くだろうか?
もう本当に時間がない。
「静かにしろ! 食われたいのか? 」
騒々し過ぎて無視できない状態。
お決まりのワードで震え上がらせようとする。単純だからな。
しかしそれはボクには通用しない。慣れたからまったく怖くない。
「ホラ早く呼んで来い! そんな脅しに屈するか?
そもそもボクは魔王討伐隊の隊長なんだぞ! 」
「うるさい! 今カンペ―キ様は手が離せない。我慢しろ! 」
もっともらしいこと言うが話を通してないのが丸分かり。
つまらない言い訳で時間稼ぎするから嫌になる。ちっともやる気のない奴らだ。
「おい聞いてるのか? カンペ―キを呼べと言ったんだ! 」
もう遠慮はしない。ここは来るまで騒いでやる。
「まったく本当にどうしようもない野郎だな。仕方ない。お仕置きだな」
何一つ話を聞いてないのかボクは魔王様の生まれ変わりだと言ってるのに。
まさか本気で魔王様にお仕置きをするつもりか?
気は確かか? 後で取り返しのつかないことになるぞ。
逆にここで大人しく言うことを聞き取り計らったら好印象を与えられるのに。
戯言だと思われてるんだろうな。やはり口だけでは信じてもらえないか。
「ほういい度胸だな? 名前は何と言う? 」
脅しを掛ける。これで少しは言うことを聞くか?
「俺は…… 」
「何だどうした? 」
カンペ―キが姿を見せる。
「いえ…… こいつらが騒ぐものですからお仕置きをと…… 」
ついに親玉登場。
と言ってもカンペ―キだからな。扱いはよく分かっているつもりだ。
奴がどういう考えなのか? 何を一番嫌がってるかもお見通し。
「お前がここのリーダーか? 」
一応はまだ迷い人の振り。騒がしい囚人を演じる。
「うるさい静かにしろ! 」
静けさを好むカンペ―キ。思い通りにならなければ怒り狂うことも。
「ならば一つだけ。ここを脱したい」
カンペ―キは黙り込んでしまう。
「お前は一体何者だ? 」
「魔王様の生まれ変わりだ! 」
正直に話してみる。
「ははは…… 冗談はそれくらいで」
「笑うなカンペ―キ! この魔王様の命令が聞けないのか? 」
喋り方だけでも真似る。
と言うより本人だから真似るも何もない。ただの注意のつもりなんだが。
「魔王様のお許しでも出たら考えてやらんでもない」
「待て。もう命令したはずだが。まだ届いてないのか? 」
「何を? それでは我々が無能みたいではないか?
どこの誰であろうと我々を侮辱することは許さん! 」
ダメだ。話にならない。ここは一つ奴らに思い知らせるしかなさそうだ。
「ボグ―! 」
つい禁断の手を使ってしまう。
「魔王様…… のはずないか。騙されんぞ! 」
生真面目なカンペ―キ。自分の役割を全うしようと必死。
それはとても素晴らしいこと。しかしこちらとしては迷惑でしかない。
「だったら魔王様しか知らない情報を特別に伝えてやろうか? 」
びくっとなる。どうやら多少は気づき始めてる?
「好きにしろ! 」
突き放すカンペ―キ。
「ちょっと…… 」
ブシュ―が騒ぎ出した。
「これ以上怒らせたら食べられちゃうよ」
恐怖に支配された彼女はひたすら首を振る。
「大丈夫だって落ち着けって。こいつらは何もできやしないさ」
納得してもらう。
ちょっと強引なところがあったかな?
でもこれ以上横から言われるのは勘弁。
大人しくなったところでカンペ―キに向き合う。
「お前のライバルのクマルについてだ」
一応はライバルのはず。どこまで相手にしてるかにもよるが。
どう考えてもカンペ―キの方が優秀なのは誰が見ても一目瞭然。
クマルを優遇している魔王様でさえもさすがにクマルが上とはとても言えない。
「クマル…… クマルだと! 」
どうやらこのワードは禁句だったらしい。
あっちもあっちで意識していたようだがこちらはもっと酷い。
認める認めないとかではなくもう嫌で嫌で仕方がないのだろう。
その言葉を聞くだけで嫌気がすると言ったところ。
「おいおいそんなに興奮するなよ。たかがライバルだろう? 」
思いっきりカンペ―キを挑発する。
「いい加減にしろ! そのおぞましい存在を思い出させるな! 」
毛嫌いしてる模様。
前から多少のライバル関係に。最近になって張り合う機会も増えた。
魔王様が明らかにクマルを優遇するからカンペ―キは面白くないのだろう。
多少のわだかまりはあるかなと。でもまさかここまでとは思いもしなかった。
カンペ―キの意外な一面が垣間見れる。
まあどちらかと言えば内に秘めた思いなのだろうが。
「クマルでは不満か? お前のライバルだろ? 」
「うるさい! 二度とその言葉を口にするな! 反吐が出る」
潔癖なカンペ―キにはクマルのいい加減さが目に余るのだろう。
それでいて取り入ってるようにも見えるのだろうな。
何だかここまで来ると哀れな気もする。
「分かった。だがボクが魔王様に関係あることも精通してるのも分かるだろう?」
カンペ―キにとって衝撃のはず。ここまでしなければ奴を信用させられない。
何とも情けない。
「ここから出してはくれないか。これも魔王様の命令だと思ってさ」
おかしな交渉に出る。
「そんなこと言われても…… 」
動揺している。かなり動揺してるのが見て取れる。
あと一押し。もう一押しでここを脱出できる。
そうすれば奇跡の生還を果たすことになるだろう。
「まあお前にはそこまでの判断はできないさ。
それができるのはやはりクマル。お前は奴ほど有能でないと言うことだな」
クマルをダシにカンペ―キを操る。これは危険な賭けだ。
でも思ってる以上の成果。
「どうだカンペ―キ? お前を充分評価してるつもり。なあここは見逃してくれ。
それがボクにとってもお前らにとってもプラスに働くぞ」
適当なことを言って従わせる。
「よしもう勘弁してやる。どこにでも行くがいい。
但し今度邪魔をしたり間抜けにも捕まったらその時は容赦なく切り捨てる」
カンペ―キは取引に応じてくれた。
「ああその条件を呑むよ。助かったよカンペ―キ」
こうして俺たちは無事解放されることに。
実に完璧な交渉術だった。
続く




