魔王様の恐ろしさ
山小屋にて。アーノ姫のターン。
ドンドン
ドンドン
山小屋に一日ぶりのお客様が。魔女だ。魔女が戻ってきた。
素直な魔女はボクの変装を疑わない。
今回もボクがこっそりと。どうやら尾行にはまだ気づかれてない。
疑う素振り一つ見せないところを見ると追跡作戦は大成功と言える。
今度の旅も飽きさせることなく楽しいひと時を与えてくれた。
もし大人しく留守番していたらこんなハラハラドキドキの体験できなかった。
だから魔女には感謝しても感謝しきれない。そんな風に思ってる。
そのお礼ではないですが最後まで山の精霊を通そうと思う。
それが優しさでありすべてを穏便に済ますことにもなる。
下手をすれば失望させてしまうかもしれない。
せっかくボクのためにしてくれたんだからこれくらい。
「どうぞ。遅かったですね」
「苦労したんだからあんた。服はその辺に落ちていたので間に合わせたよ。
それから靴は新たにガラスの靴を」
クマルと大差がない。せめて服ぐらい買ってもいいでしょう?
町に行けばそれくらい……
心の中で文句を垂れる。だがもちろん笑顔で受け取ることに。
もう何でこんな服を着なくてはならないの?
ボクはそれなりに名の通った国の姫。さすがに粗末な服では耐えられない。
「ありがとうございます。さっそく着てみようかな」
「そうかい気に入ったかい? それはよかった」
そう言って帰ろうとするがすぐに踵を返す。
「うーん。どこかで見たことがある顔なんだよね。
私らどこかで会わなかったかい? 」
鋭い…… さすがに大した変装もせずに山の精霊と偽るのには限界があるか。
リスクは承知の上。それでもボクは山の精霊を通そうと思う。
「ねえ聞いてるのかい? 」
「気のせいですわ。ではありがとうございます」
無理やり追い返す。
「でもやっぱり覚えがある。うーん最近だ。どうしてかね? 」
粘る魔女。いい加減にしてよと言いたいがここは我慢我慢。
どうやらそろそろ悪ふざけもお終いにしないとダメらしい。
「ああそうだ。何か困ったことがあったら言うんだよ。
いつでも駆けつけるからね」
親身になってくれる魔女を無理やり追い出す形になるのはとても心苦しい。
しかし最後の最後で気づかれては今までのことが無意味に。
ここは心を鬼にして追い返す。
「ありがとうございます。それでは」
「ちょっと待ちなよ! 」
「またお願いします」
有無を言わせずお帰りになってもらう。
こうしてどうにか魔女を送り出し事なきを得る。
本当に危なかった。どれだけ危険なミッションでしょう?
さすがにもう潮時。ここは早いところ撤収すべき。
魔女を送り出し肝心の精霊に人間との接し方や服装に仕草等を指導。
「ではこれで終了。後はあなたの努力次第。頑張ってね」
こうして精霊を特訓し人間らしさを身に着けさせてから別れる。
たぶん彼女なら大丈夫でしょう。
今まで誤解されていただけ。よく見れば幼気な女の子。
山の精霊ではなくただ山に居ついた女の子として接すれば歓迎されるはず。
もうこれで二度と雪女と騒がれることはないでしょう。
急いで魔女を追いかけなければ。
随分先に行ったようだ。ここはまた例の手で乗り切ろう。
クマル! クマル!
大声で呼びかけるもちっとも反応がない。モンスター笛も反応がない。
これはまた監視をサボってどこかでお昼寝でもしてるな。
どうしよう困ったな。急がないと魔女が戻ってしまう。
疑われたらまずいんだから早くしなさいよね。
お願いクマル! 早く! 」
願いが届いたのか遠くの空からクマルが舞い戻って来た。
「遅くなった。よし送り届けてやるぜ」
こうしてクマル飛行で徒歩の魔女を追い抜く。
さあ急いでお出迎えの準備をするとしましょう。
その頃魔王様の隠れ家。
手下のモンスター三名がヒソヒソ話に興じる。
どうやらこの魔王様への疑惑らしい。
地獄耳だとも知らずに愚かにも話に勢いがつく。
「何だか最近の魔王様おかしくないか? 」
「俺もそれ思ってたんだ」
「おいお前ら本当かよ? もしかして何かあるんじゃ? 」
いつの間にか魔王様への疑問を口にする集団が形成される。
「お前どう思う? 」
「おい! 聞こえるって! 」
どうやらこの魔王様の噂で持ち切りのようだ。
コソコソとどうでもいいことを。
仕方ない。ここは恐怖に震えてもらうか。
「ボグ―! ボグ―! 」
「どうなさいましたか魔王様? 」
「この魔王様の悪口を言う奴がいる。これは放ってはおけん! 」
「まさかそのような愚かしい真似を…… 」
「被害妄想だと言うのか? 魔王様は信じられんと? 」
「いえまさか」
「そこ! お前らだ! さっきからヒソヒソと。弛んでいるぞ! 」
コソコソと悪口を言う三人組。
「それはこちらで処分しますのでご勘弁を! 」
何とこいつまで魔王様を舐めているのか?
「とにかくそこのお前たち。申し開きをしてみよ」
一応は理由があるなら許してやるがただの悪口だからな。
「いえ魔王様…… 私たちは決して魔王様を陥れるつもりはありません」
「そうです。どうぞお許しください! 」
「申し訳ありません。こいつらが…… 」
自分だけ助かろうと罪を擦り付ける。
どうやら三人とも自覚があるようだ。
「消えろ! 」
人のせいにする愚か者を有無を言わせずに存在ごと消す。それが魔王様のやり方。
「いいかお前たち。魔王様は腰抜けでもなければ慈悲深くもない。
勘違いするな。ただ無駄な力を使いたくない。ただそれだけだ!
今回のことをしっかり心に刻みつけるんだな。
今回はこれで許してやる。だがもう次はない! 」
生意気な態度の奴を震え上がらせる。
非情な魔王様の演出は完璧だろうか?
一匹を排除して奴らに魔王様の真の恐ろしさを見せつける。
今まで紳士に振る舞ってたのは情けないからでもなければ情け深いからでもない。
ただ婚礼まで余計なことをせず相応しい振る舞いを心掛けていたからに過ぎない。
それを勘違いして魔王様を疑うとはどう言うつもりだ?
モンスターは魔王様の手下であり手足となって戦うべき存在。
何も考えずに言われたことに集中すべき。
それができずに浮つけば最悪あのような結果に。
「魔王様! 」
混乱の中で大慌ての手下が。
どうやらまたトラブルが発生したらしい。
続く




