妖精からのプレゼント
引き続きノアのターン。
現在幼馴染とダンジョン探索中。
「ねえ今って昼なの夜なの? 」
怯えるブシュ―。時間の感覚がないそう。ボクは元からない気もするが。
困ったことに三体を駆使してると今がいつで何時頃なのか分からなくなる。
「まだ昼過ぎだろう。でもそろそろ夜になるかもな」
つい訳の分からないことを言ってしまう。
「脅かさないでよ」
極限の状態でピリピリしている。
気をつけなければちょっとしたことで我慢できず喧嘩に。
だから多少の我慢は必要。それが上手いダンジョンの攻略法。
「ねえ…… あれって階段? 」
どうやら先客が。せっかく世紀の大発見だと思ったのに違ったらしい。
まあ仕方ないか。ここは切り替えて探索に励むとしますか。
ブシュ―を安全地帯まで送り届ける義務がボクにはある。
この後何も起きなければいいんだが……
「きゃああ! 」
周りが静かだから響く響く。もし先客に気づかれたらまずいことに。
「おい静かに! 一体どうしたんだよ? 」
「化け物が…… 」
そう言って走り出そうとする。
ここがどこかも分からず勝手に動けば命取りだ。
まだ何の確認もしてないんだぞ。
何を考えてる? 化け物って一体?
とにかく急いで追いかける。
「おいその辺で声がしなかったか? 」
「まさかあり得ない。ははは…… 」
近い。近くに誰かいる。
まずい。この状況では気づかれる。
叫びながら走っていくブシュ―。恐怖でそうせずにはいられないのだろう。
これでは敵に居場所を教えてるようなもの。
さあどうする? これからどうすればいい?
未知のダンジョンで逃げるに逃げれない絶対絶命の状況に頭が回らない。
どうすればいいんだ? まさか置いて逃げる訳にも行かないし。
急いで彼女を止めたいがもはや追いつけやしない。
それほど彼女は必死。
うわああ!
つい堪え切れずに叫んでしまう。
情けないことに二人仲良く居所を示す間抜けぶり。
絶体絶命のピンチの場面で無情にも始まりの場所へと戻される。
始まりの場所。
「うわああ! 助けて! 助けてくれ! 」
悪夢は続く。戻ったと言うのに直前の記憶のまま。
「ちょっとしっかりしなさいよ! 」
妖精の一喝で我に返る。
妖精に叩き起こされるだなんて寝起きは最悪。
「あれ…… 何で俺はここにいるんだ? 」
「危なかったんだからね」
そう言って恩を売ろうとしているのが見え見え。
「俺は何でまた戻されたんだ? 」
<それは私からお話しましょう>
女神様もようやく落ち着いたのか微笑んでおられる。
ああ女神様! この迷える子羊をどうかお導きください。
「何か分かったんですね? 」
もう幼馴染のピンチのことは忘れて未来のことを考えよう。
どうせ切り抜けたところで戻されるのだから。
ボクが心配せずともどうにかなるさ。ははは…… たぶん。
<はい。大変な事実が分かりました>
「それは一体? 」
<落ち着いて下さい。まず初めに逃亡者を捕まえてくれたこと感謝します>
どうやら女神様は賞金稼ぎについて言ってるようだ。
奴はは異世界では俺と同じように異質な存在。
「あちらから近づいて来たので造作もありません」
<何と頼もしい>
これは大喜びのようだ。まさか何か褒美を頂ける?
だったら嬉しいかな。できたら皆のためになるものがいい。
へへへ…… 変だな。いつの間にか物欲がなくなっている気がする。
どうせ異世界の話。本当は充分今の現状に満足。
下手に不死身や復活やらを与えられてもさほど心惹かれない。
余計な面倒ごとに巻き込まれるだけ。
<ではお願い>
どうやら妖精からプレゼントがあるらしい。
何だかモジモジして気持ち悪い…… ではなくかわいいな。
後はもう少しだけでもその性格を直してくれたらいいんだけど。
でもそんな贅沢言ってられないか。
「本当に私が? 嫌なんですけど…… 」
なぜか拒絶する。何であれそれくらいやれよな。尻拭いしてやってるんだからさ。
<恥ずかしがらずに。これもあなたが招いたことですよ>
そう言われると妖精も納得したのか向かって来る。
別に無理に何かしてもらいたいとは思わないんだけどな。
ただ俺にあげたくないなどいくら何でも酷過ぎるし心外だ。
「女神様の命令だからとりあえず目を瞑って」
どうやらサプライズプレゼントがあるらしい。
手に持ってるのがそれかな?
一体どんなプレゼントが待っているのやら。へへへ…… 楽しみ。
言われた通り目を閉じる。
うーん。何だかすごく緊張してきたな。これっていつ以来?
貶されたことはあっても褒められることはあまりない人生だったからな。
ああ妖精が目の前に。何かしようと。
「ほら体に力を入れて」
おかしな指示をする妖精。
薄目を開けてみるが目敏く見つけられてしまう。
「しっかり目を閉じてなさいよ! もう最低! 」
「分かったから早くしろ! こっちだって忙しいんだぞ」
「ではこれをどうぞ」
そう言って迫る妖精。
ドン!
衝撃と共に耳がもげるかのような痛みが。
一体何が起きた?
妖精は力任せに殴りつける。
そんな光景を誰が想像できただろうか?
唖然とする。ただただ唖然するそんな一分半。
<何をやってるんです! >
どうやら女神様の差し金ではないらしい。
ビンタではなく拳を振るったのは妖精の判断。
何て恐ろしいことをするんだ。
「でも女神様…… 」
俺を殴りつけておいて嫌な顔をする。
ああ何てことしやがるんだ。この妖精は。俺に何か恨みでもあるのか?
ああそうか。今回の一連の事件を引き起こした元凶は俺じゃないか。
それは百も承知。
<いいから早くなさい! 先が進まないではありませんか>
反抗的で暴力的な妖精を従わす女神様。
やはりここでは女神様が上なのだろう。
妖精は歯向かうことはできずにただ言われた通りにする。
それがこの狭い世界の掟でありルールなのであろう。
当然逆らえない妖精は再び目の前に迫る。
恐怖のあまり後退りするもすぐに追い詰められてしまう。
ああまた殴らるのか。できたらビンタがいい。ビンタならご褒美にだってなれる。
<迷える子羊よ。そのような汚らわしい考えを捨てるのです。
それではいつまで経って立派な人間にはなれませんよ>
女神様の助言を受け入れ大人しくする。
「ホラ行くわよ! じっとしてる! 」
目を閉じ待つことに。
続く




