精霊アーノ姫とせっかち魔女
引き続きアーノ姫のターン。
現在北の山の山小屋で雪女らしき人物と接触。
その正体は山の精霊だとか。
最後に確認。
「いつも普通に振る舞ってるの? 」
ここまで恐れられてるのはおかしい。絶対に余計なことをしてるに違いない。
「うん。普通に見つめてる。山の上からずっと見つめてる」
それが正しいと思い込んでるみたいだけど見かけた者からしたら恐怖でしかない。
一体何を考えてるの? 困った精霊さんだこと。
「それが恐れられてる原因でしょうね。もう少し何とかならない? 」
「でも…… その後キチンと話しかけてるから…… 」
自信なさげ反論する精霊。
相手をよく見て話す。決して間違っていません。
ですが話しかける前に相手はもう恐怖でいっぱい。
そんな彼女を誰が相手するのでしょう? 一目散に逃げるだけ。
ついて行けば危険だと。相手にしたら精気を抜かれると。
そんな風に思われても不思議はない。
可哀想な存在ではあるが自業自得な気もします。
改善するに越したことはないですが果たしてうまく行くでしょうか?
もう畏怖の対象でしかない季節外れの雪女。
この後どう変わろうと人間は相手にしないだろうな。
そうするとずっとこのまま一人寂しくこの山で暮らすことになる。
それでは彼女の望みが叶えられない。
「大丈夫。任せて! 何とかしてあげるから」
「本当? 」
「心配しなくていい。ボクは何と言っても魔女の弟子ですから」
勝手に使いから弟子に昇格。
「ありがとう魔女の弟子さん」
うーん。安請け合いだったかな? ちょっぴり後悔してる面もある。
「ところであなたは妖怪の類? 」
「いえ精霊です! 当然悪さなんかしません。ただ見守るだけです」
精霊としてのプライドがあるらしい。
まあいいか。何とかなるでしょう。たぶん……
「任せておいて! さっそく行って来るね」
行動開始!
ドンドン
ドンドン
行動開始しようとした時に訪問者が。
「ちょっといいかい? あんたが…… 」
まずい。魔女が訪ねてきてしまった。こんな最悪のタイミングで。どうしよう?
もう本当に間が悪いんだから。宿でのんびりしてればいいのに。
せっかちに急ぐからこんなことに。
精霊には隠れるように指示しボクは急いで変装。
予備の白装束を貸してもらい服に合わせて顔を白く塗る。
これでどこからどう見ても季節外れの雪女。
ドンドン
ドンドン
「ちょっと早く中に入れなさい! 寒いでしょう。居留守を使うんじゃないよ!」
激しい催促にあう。
少しぐらい待てない訳? こっちだって取り込み中なんだからさ。
ブツブツ文句を言っても無駄でしょうが。
「どうぞ。よくいらっしゃいましたね魔女さん」
どうにか笑顔で出迎える。
「十分以上も待たされたよ。ふざけた娘だよ。少しは年寄りを労われってんだ!」
強烈な取り立てにさらされながらも動じない。それが姫様。
冷えた白湯を出す。
これも彼女のスタイル。もし魔女が調べてたらすぐにおかしいと気づかれるから。
疑われる前に手を打つのがボクの切り抜け方。
こう言う危なっかしい綱渡りをするのも醍醐味で楽しみの一つ。
誰にも理解されないでしょうね。なんだか気持ちが高揚する。
ああ…… もっともっと。どんどんおかしな感情に。
「さっそくなんだがね。あんた人間から嫌われてるんだろう? 」
「はい。それで同じく嫌われ者の魔女さんにアドバイスをと思いまして」
どうやら魔女は依頼人について詳しくないらしい。
ただの降って湧いた依頼だから。当然と言えば当然かな。
「あんた弁が立つね。でもそれはあまりに失礼だろ? 」
叱責する困った魔女。
「失礼しました。ボク…… 私ったらとんでもないことを…… 」
落ち込んで見せる。少しはこちらの話を信じてくれたかな?
「ハイそこ落ち込まない! 協力してやらないとは言ってないだろ? 」
いかにも面倒だとばかりにため息を吐く。
どうやらうまく演じられているよう。
ついいつものボクが出てしまいそうになるがどうにか堪える。
「それであんたは何? 」
「私は精霊です。ただ人間と仲良くなりたいだけなんです。
だから魔女さんの力を借りて…… 」
精霊をどう演じればいいか実際よく分からない。
「だったらその服を着替えな。それからこの冷たい水を出すんじゃないよ! 」
それが常識だよと怒る。やっぱり冷めた白湯が問題だったのかな?
「ですが…… これしか持ってなくて…… ごめんなさい」
少々大げさに謝ってみる。
「うーん。何でもオーバーなんだよね。まるで我が担当の姫みたいだ」
知らないところで悪口を。どうやらボクは信用されてるみたい。
しかしこの茶番にいつまで付き合うべきなのでしょう?
「さっそく服を用意してやるからね」
「ちょっと待って! そのステッキでどうにかならないの? 」
その杖はただの飾りではないでしょう?
空を飛ばずモノも出せなくてはただのゴミでしかない。
「悪いね。これは調子が悪いんだ。ツンデーラって子の時に失敗してね。
だから我慢しな」
魔女は根掘り葉掘り聞いて改善策を示そうとするがボクのと大して変わらない。
これなら誰でも構わないのでは?
魔女は必ず持ってくるからと出て行ってしまった。
あれ…… 何でボクこんなことしてるんだろう?
精霊の振りをして遊んでたらこんなことに。
まあいいか。それではボクもこの辺で。
魔女は徒歩で下山。それを見届けてから山頂へ。
そろそろクマルが戻って来る頃。
ホラやっぱりいた。何だか不機嫌そう。
「そこにいやがったか。さあ帰るぞ! 」
「その前にお願いがあるんだけどな。かわいらしい服と靴を用意して欲しいの」
魔女には頼れない。どうせ今日もあの宿に泊まるんでしょう?
こっちは大急ぎで。
「はあ何を言ってやがる? 」
「いいからお願い! 」
「分かったよ。まったくとんでもない女だなお前は」
文句ばかりのクマルは再び大空へ。
さあこれでいい。
クマルが戻って来るまでこの辺をゆっくり散策でもしてましょう。
続く




