醜い擦り付け合い
妖精が姿を現す。
「女神様が許しても私は許さないんだから! 」
そう言って真っ白な壁に押し付けられ往復ビンタを喰らう。
「おいちょっと待ってくれよ。だって女神様が…… 」
「女神様が許しても私の気が収まらないの! 」
鼻血が出るほどの勢いで繰り出す妖精ビンタ。
頬を張られて真っ赤に腫れあがる。
「うががが…… 」
「これくらいで勘弁してあげるわ。感謝しなさいよ」
「でも女神様が…… 」
「まだ言うのこの男は? 」
<それくらいでおよしなさい>
女神様もあまりの勢いに止めに入るのが遅れる。
「これくらいにしておくわ。次やったら容赦しないからね! 」
慈悲深い女神様と容赦ない妖精さん。
どうしてここまで違うものなのか?
ついに始まりの地にて真実の一部が明かされることに。
<どうして言いつけを守らなかったのです? >
女神様は心が読めると言うのにこの俺を信用して話を聞く。
そのせいで想像以上の事態になっているのが分からない。
問い詰めれば俺だって吐くのに。へへへ…… 甘いな。
「それは…… 眠くてつい。三日ほど寝ていなかったから」
転生前の記憶を手繰り寄せる。思い出したくもない現世での出来事。
あの不慮の事故も原因は寝不足にある。
<お可哀想に>
慈悲深い女神様はこんな俺にも同情してくれる。
ありがたい。そのお言葉だけでも救われた気持ちになる。
ここですべてを告白できたらな。そんな風に思う。
でもまだ女神様たちにもたどり着けない真実がある。
「ここに来ても眠気は取れず我慢できないで夢を見てしまったのです」
改めて経緯を語る。これで少しは誤解も解け真実が伝わったはず。
<何と罪深いのでしょう>
「ちょっと夢を見ただけだって。女神様も悪いんですよ。その場を離れるから」
どうにか追及されないように言い逃れる。
ただそのために女神様を責め立てる形に。
あれだけよくしてくれた女神様に何と言うことを? 俺は鬼か?
だが気持ちとは裏腹に言葉がきつくなる。
<それは妖精が遅れて…… こちらも忙しかったものですから>
らしくなくしどろもどろの女神様。下手な言い訳に終始する。
もしかして今妖精のせいにした?
結局そちら側の不手際。俺はちっとも悪くない。
大体妖精が遅れたのが原因なのだから俺と女神様は悪くない。
妖精を睨みつける。
「もういいわ。すべて水に流しましょう。
二度とこのようなことが起こらないように気を付けるのね」
妖精はまずいと思ったのか自分のことを棚に上げて俺だけのせいにする。
確かに俺が寝たのが悪いけどさ。でもそれは睡眠不足が主な原因。
だから根本原因が俺にあるならそれは会社にある。
もし訴えれば労災だって認定されるだろう。
結局三者ともに非があった。
俺は夢を見ると言う失態。
女神様はその場を離れる失態。
妖精はそもそも遅れて来た。
三つのミスが重なったせいでこのような事態を引き起こした。
もしヒューマンエラーだと言うなら俺が全責任を負う。
ただビーナスエラーだと言うなら女神様だけのせい。
そもそもフェアリーエラーだと言うなら妖精が悪いに決まってる。
真実がどうであれ誰かに擦り付けるのは建設的ではない。
「どうしましょう女神様? 」
この手のトラブルは珍しいらしい。妖精も慎重になっている。
<そうですね。恐らく今のところ問題ないと思いますが様子を見るとしましょう。
改めて何か分かったらお知らせします。それまでは待機と言うことで>
経過観察らしい。ならば今のところ大した問題じゃない。
てっきり何かとてつもないトラブルに巻き込まれたと思ったがそうでもなかった。
「そのことなんですが…… 勇者と姫が出会うのはまずいかと」
恐らく二人は考えもしないだろう懸案事項を伝える。
<そうですね…… 何が起こるか分かりません。できるだけ会わないように。
その辺のこともこちらで調べておきますのでどうぞお戻りください>
どうやら許された。一時はどうなるかと思ったがこれで何とかなった。
だがまだ二人には隠し通している真実がある。今告白すべきか迷っているところ。
もう充分に叱られ攻撃も受けたのだから今はまだいいよね?
次の機会。次に語ればいいだろう。
「ホラ行くわよ。まったく人の仕事を増やして」
どうにか妖精にはフォローしてもらう。そうして辻褄を合わせることに。
ふう危ない危ない。では戦線復帰と行きますか。
この流れだと恐らく……
魔王軍の隠れ家。
「どうでしたか魔王様? 充分楽しまれたと思いますが」
「ボク…… 」
「ボクですか? 」
ボク―!
「ああ雄たけびを上げられたんですね。それでいかがでしたか? 」
「そうだな…… 」
クソ! せっかくのチャンス。ちっとも覚えてない。
それもそのはず。今までお説教を喰らっていた訳で。
しかも魔王様になったことで隠していた真実が白日の下に。
あーあやってられないな。
まさか女神様も俺が姫だけでなく魔王様にまでなれるとは思ってないだろうな。
続く