逆転の発想
引き続きノアのターン。
現在幼馴染と伝説の宝探し中。
「ねえもう帰りましょう。疲れちゃった」
我がままを言うブシュ―。かわいくない訳じゃないんだけど……
昨夜もいい感じに。でも何か違うんだよね。
ブシュ―はどうもアーノ姫に対抗意識を燃やしている気がする。
だから疲れたと言ってみたり歩けないと言ってみたり。
真似しないでありのままのブシュ―でいてくれないかな。
「宝探しなんて子供じゃないんだから。ねえノアってば! 」
「おいおい。それはないよ。ボクたちはそのために来たんだろ? 」
「そうだけど…… でもどうせ解けないんじゃない? 時間の無駄だと思うの」
適当なことを言って像の上に座りだす。
何て行儀の悪い。座るならその辺の地べたにでも。
「おいダメだって! 地元民にでも見られたらどうする気だよ? 」
「大丈夫。今は誰もいない。心配しないで。彫刻の上じゃないから」
台座に乗ってるだけだと主張する。言い訳ばかり。
うんバランス悪い。ここだと……
「うわ滑る! つるつるしてかなり滑りやすくなってるみたい」
「おい気をつけろって! 転ぶぞ! 」
「もう心配性なんだから。これくらいどってこと…… きゃああ! 動く! 」
飽きてイライラ気味のブシュ―。神聖な石像を蹴り飛ばす。
ただ像の上に座るだけでなくバランスを崩し堪えようと蹴り飛ばすのだからな。
なぜ座る? なぜ蹴り飛ばす?
下は草。怪我する恐れはないんだからそのまま落ちろよな。
像は百八十度回転して止まった。
これはどう言うことだ? 固定されてるんじゃないのか?
改めて像を動かしてみる。
するとギギギっと音を立てて回転。
うーん。どうやら固定されてるのではない。仕掛けが施されている。
作った当初は当然のこと宝を埋めた時もこの状態。
しかし逆にした後に地元民のシンボルとして誰にも近づかせないように。
そのためにおかしな石碑ができあがったと推測。
現在の位置だったのを見つかりにくくするためにあえて回転させた可能性もある。
どうであれまっすぐ歩けとは目の前へ進めではなく反対へ進めだったらしい。
やった。これで宝の在り処に大きく前進したぞ。
「さあ行こうか? 」
「ちょっと待ってよ。なぜ助けないの? 」
「一人で立ち上がれよ! 」
神聖な像を蹴り飛ばし落ちただけの者を助ける義理はない。
「だから手を貸しなさいよ! 立てないでしょう? 」
一人で立ち上がろうとしないので仕方なく手を貸す。
結局甘やかしてしまうんだよなボクって。分かってるんだけど逆らえない。
こうして二人は川とは真逆に進むことに。
その頃魔王様の隠れ家。
「どのようなご用件でしょうか? 」
クマルが跪く。
「お前を処分しろとうるさくて敵わない。どうするよクマル?
カンペ―キは優秀だから成果を上げたぞ。そろそろ新たな隠れ家の完成だ」
ライバル心を利用して挑発。これでやる気が出るといいのだが。
「そんな魔王様。俺は命令に従ってるだけで…… 」
「あれだけ差をつけられて悔しくないのか? お前は襲撃に失敗したろ? 」
どう出るクマル?
「それも魔王様の指示だと…… 」
戯言を述べたのは隊長のノア。即ち魔王様と言うことになる。
だからクマルは決して悪くない。
追い込まれていくクマル。可哀想だがこれくらいしなくては魔王様ではない。
ただの女神様になってしまう。それではいつ正体がばれてもおかしくない。
「言い訳は沢山だ! お前はそうやって騙されたんだ。悔しくないのか? 」
「ですが魔王様…… 」
クマルは文句があるらしい。それはそうだろうな。
ほぼ想像通りの動きをしてくれるある意味優秀な人材なのだから。
「口答えするな! ボグ―! 」
怒りのボグ―で震え上がらせる。
「恐れながら魔王様。すべてあなた様の指示です」
まだこの魔王様のせいにしようとする。本当に困った奴だな。
責任を取れと言ってるのに。転嫁するんだからな。
「いいかクマルよ。お前は忠実な僕だ。しかしミスが多いのも事実だ。
もうこれ以上はお前を庇い切れない。理解してくれるな? 」
「はい。ではどうしろと? 」
「自分で考えるんだな」
突き放し自らの頭で考え決断するように持って行く。
「それが一番難しいんですが魔王様…… 」
「まずはミスしないだがまあ無理だろう。だったらライバルを蹴落とすぐらいか」
弱ったクマルを唆す。クマルとカンペ―キの戦いが見てみたい。
結果は初めから見えているが。
きれいに散る姿を見せて欲しいものだ。それが魔王様へのせめてもの償い。
もうクマルを庇いきれない。だから突き放す。これでいい。これで。
「まさか俺に奴をやれと? 」
慌てるクマル。魔王様にすべてを聞いてどうする?
「そんなことは言ってないだろ? 自分で判断をしろと言ってるんだ」
「自ら判断ですね。分かりました」
「ふふふ…… 楽しみにしてるぞクマル」
「ハイ何がですか? 」
この期に及んでもまだやる気が感じられない。
魔王様の逆鱗に触れたいのか?
「だから今後の活躍を楽しみにしているぞ。なあクマルや」
これで少しは伝わったかな。でもクマルのことだから……
「一応確認するがこの後どうするつもりだ」
「それは…… 予定がないのでゆっくりします」
「馬鹿者! この役立たずが! 」
つい怒りのあまり罵倒してしまう。でもこれが本来の魔王様だよな?
沸点の低いいつも不機嫌で見た者を威嚇するそんな残忍で冷酷な魔王様。
そんな魔王様像を俺は果たして守れているのか?
「まあ好きにするがよい。それと姫のお守も忘れるなよ」
本当に言いたかったのはこれ。それ以外はどうでもいい。
「ははあ! 仰せの通りに! 」
こうして再びクマルは任務に戻る。
どうせこいつは動きはしない。
あーあ困った奴だな。ははは……
続く




