宝探し
北の山の温泉宿にて。
勇者・ノアのターン。
幼馴染とのんびり温泉旅のつもりが夜になり雲行きが怪しくなる。
謎の老女の登場で館内が一気に凍り付く。
「きゃあ! 」
女の悲鳴が館内に響き渡る。
「どうした? ブス! 」
「だからブスじゃないって言ってるでしょう! 」
可哀想に恐怖と怒りで情緒不安定になっている。
「そんなことより一体何が? 」
「あそこに人影が…… 見えた気がしたの」
窓の外に人影を見たと主張する。
「ははは…… たぶん勘違いかモンスターかのどれかだよ」
笑ってその場を収める。たぶん迷ったクマル辺りだと推測する。
「ひひひ…… それは雪女ですな。こんな夜中に他はあり得ません」
いつの間にか駆けつけていた主人。これは油断ならないな。
結局人影の正体は分からず仕舞い。何事もなく朝を迎える。
「よし行こう」
温泉も充分満喫した。
話好きの主人から貴重な情報を得る。
何かと言うと伝説のお宝が埋まってるそう。
これは物凄く興味深いな。
でもボクには時間がない。消滅が寸前に迫っている。
そんな時に呑気に宝探しなどしてていいものなのか?
「ねえ本気なの? 」
幼馴染のブシュ―がしつこく迫る。
一日一緒に過ごしてようやく彼女の名前を思い出せた。
思い返せば何度酷い目に遭わされたか。
まあボクが悪いんだけど。でも意地悪せずにしっかり名前を教えて欲しいよな。
とは言え思い出せずに幼馴染には可哀想なことをしたかな。
「本当だって。疑わないで行ってみようぜ」
今回の旅は激戦の疲れを癒すためのもので国王様のご厚意。
ないがしろにはできない。それともう二つだけ目的がある。
一つは宮殿から離れることで魔王や姫から逃れること。
二つにはおかしな行動を取る村人を捕まえること。これは女神様命令。
ただ捕まえるだけ。それ以上は今のところまだ。
女神様の指示を仰ぐことになるのだろうな。
地図を用意してもらった。
「その地図あってるの? 宝の地図なんて怪し過ぎ」
ズバズバと意見を言う。まあ俺だって信じていないさ。
見つかるといいな程度。
「うーんそうだな。神のお導きだとでも思えばいいさ」
「ええ冗談でしょう? もう本気なの? 」
移動には馬車が必要不可欠なのだが今のところ見当たらない。
仕方なく歩き始めるが三キロも歩いたところで後悔。
ブシュ―がもう歩けないと怒り出す始末。
「せっかくだからもう少し歩こうよ」
まだ昼前で疲れるほど歩いてないんだけどな。
「嫌! 疲れた! 」
我がままを言うブシュ―。それが許されるのはアーノ姫のような本物でないと。
ブシュ―は田舎出身だから体力に自信はあるはず。
か弱いお姫様のように振る舞っても騙されないぞ。
やる気のない幼馴染の戯言を無視してお宝が埋まってる場所を探す。
この地図だともう少し北に行ったところのようだ。
いかにもな場所までやって来た。
お宝ともゴールドとも分からない謎の宝の正体は?
トントン
トントン
「ああん? 何だお前らは! 」
まずは第一チェックポイント。
恐怖のお兄さんから宝のありかを聞き出せれば成功。
その前に逃げ出したら失敗。
「済みません。あの…… 」
「だから何者だ? どんな用で来やがった! 」
脅しには屈しない。逆に質問を返す。
「この辺でお宝が埋まってると聞いたんですが? 」
一応は案内役なので失礼のない様に心がける。
しかし相手は本物だからなどうしよう?
「宝を探しに」
「ああだったらいいところを紹介するぜ」
意外にもあっさり教えてくれる。拍子抜けするほど。
「こっちだ着いてこい! 」
大人しく従うことに。
「そうだ自己紹介はまだだったな。俺はペイ。
この辺りを支配している」
その言い方だと暴力で支配してるように聞こえるが違うんだろうな。
「ペイさん。具体的にお宝の内容を教えてもらえませんか? 」
「ああん? 舐めたこと抜かしてるんじゃねえ! 」
ダメだ。常にケンカ腰。これは骨が折れるな。
「お願いペイ。こっちは時間がないの」
うわ…… その言い方は危険だ。いつ豹変することか。
「お宝って言うのは金でもなければ女でもない。
それを手に入れたら願いが叶うって代物だ」
大げさに言うのが癖になってるよう。本当に信じられるのか?
金ならここではどれくらいの価値か知らないが採れても不思議じゃない。
でもその手のものじゃないと断言する。
「よっしこっちだ。確かこの辺に…… ホラあった! 」
おかしな像が立っている。
これが何かはよく分かってないそう。でも動物のような見た目だからな。
「犬ですか? 」
「きっとネズミじゃない? この感じは…… 」
「いや正体不明なんだ。像が何かはどうでもいい。違うか? 」
大人しく従うのがいい。
余計なことは口にせずただ頷くに留める。
「何か彫ってあるだろう? それがお宝につながると言われている」
「それで何て書かれてるんです? 」
ブシュ―は怖いもの知らず。
「それは…… まっすぐ歩けだな」
目の前には川が流れている。
このまままっすぐ歩けば間違いなく溺れてしまうだろう。
「ここって深いの? 」
「いや深くはないがやめておいた方がいい。命を落とす者が後を絶たない。
恐らく見えないところで渦を巻いてるんだろうな」
地元の者のアドバイスはしっかり聞いといた方がいいよな。
「しかしこれはどういう意味で? 」
「さあな。すべてを解き明かすと願いが叶うと言う話らしい。
兄貴も謎を解明しようと果敢に挑戦したが散ったな。ははは! 」
「そうするとこの川にはその宝はないと? 」
「まあ俺はそう思うが…… 後は自分で判断してくれ。
これは単なるまやかしかもしれない」
像を凝視するが特に変わった点はない。
気になるのは位置がずれてることぐらい。
少しだけ右に傾いてるんだよな。気のせいかな?
「誰かこれに触った者は? 」
「いや村のシンボルだからそんな罰当たりな奴はいないさ」
と言うことは誰も動かしてないことになる。
そもそもこの像は動くのだろうか?
「まあいいや。後は好きにしてよ。俺は仕事に戻るわ」
ペイは行ってしまう。
こうしてブシュ―と二人っきりに。
続く




