雪女伝説
引き続き勇者ノアのターン。
現在温泉から旅館に戻るところ。
はあはあ
はあはあ
歩くと寒いので走るが恐怖のあまりどんどん駆け足に。ああ情けない。
「置いて行かないで」
足が震えてうまく歩けない彼女を抱える。
明かりを求めてひたすら前に。
別にボクが怖いんじゃない。彼女が可哀想だから急いでいる。ただそれだけ。
「あの…… 」
「ぎゃあああ! 」
あまりに突然なのでつい叫んでしまった。
「遅いので迎えに行こうかと」
心配してくれたらしい。だからって真っ暗な中いきなり声を掛けて来るなよな。
雪女だと思うじゃないか。
あれ…… もし我々がもっとゆっくりのんびりしていたらこの男に覗かれた?
いやいや…… 考え過ぎか。善意なんだろうけど違和感がある。
大体ライトは何のためにあるんだ? そこまで遅くないだろ?
「お客様も見ました? 実はここ出るんですよ」
ただの見間違いだと思ったのに宿屋の主人がいい加減なことを言って脅かす。
「ははは…… 本当かな? 信じられないな」
「はい。どうも雪女のようで。この辺りの山に住み着いたとか。
聞いて行きますか伝説の雪女の話? 」
そう言ってまた脅かす。ボクが怖がると思うのか?
これでも勇者なんだぞ。しかも魔王討伐隊の隊長でもあるんだ。
この程度のこと恐れるに足らず
「それはまたおかしな現象で。見間違いか何か? 」
絶対に認めない。いるはずがないんだ。
別にいたって構わないさ。でも今いられては困る。雪などどこにもない。
「ははは! そんなに構えなくても襲っては来ませんって。
ただ山の方からじっと見下ろすだけ。害はありませんからそこまで気になさらず」
雪もないのに雪女? もはや雪女でさえない気が。山の神。または山女。
「でもおかしくない? 」
「北ですので冬はよく雪が降るんですよ。
だが雪のない時は出てこないんだがな…… 出る時期を間違えたかな? 」
「怖い…… 」
彼女は震えている。
「だから怖くないって。ただ見守ってるだけさ。守り神みたいなものだよ」
「その通り。そんな真剣に悩まなくても」
季節外れの雪女の影。一体何が起きてるのだろう?
「ちなみに魔王様についてはどう思いますか? やはり存在すると」
雪女が実在するなら会ってみたいもの。魔王様もだがボクでは無理なんだろうな。
「ははは! それを信じるのは子供ぐらいさ。いるはずがない」
断定する。この男は信用ならないな。魔王様は実在する。
なぜならボクは毎日鏡越しに嫌と言うほど見てきているのだから。
モンスターにしろ魔王にしろあの醜悪な面をいきなり見せられると叫びたくなる。
「ではあなたは魔王様もいなければ魔王軍も妄想だと? 」
念のために聞いてみる。
「ははは…… いるならぜひ会ってみたいね。でもきっといないよ。
恐怖によって作られた産物なのだから」
どうやらどこまでも否定的な立場らしい。
そうするとなぜ雪女だけは認めるのだろうか?
「ボグ―! 」
「はいはい。それくらいで。もう日も暮れたことですし外出は控えてください。
聞いた話によれば…… 」
どうやらこの地域に伝わる伝承みたいなものがあるのだろう。
語りたくて語りたくて仕方ないのだろうが聞いてやるものか。
これ以上無駄に怖がって堪るか。
「もう寒くなってきた。戻りましょうノア」
「そうだな。湯冷めたら元も子もない」
こうして宿に。
「ごめんね…… 」
まだ決心がつかないと訳の分からないことを言う。
そんな風に真顔で言われたら傷つく。ボクは大丈夫。問題ない。
「また明日」
そう言って勝手に行ってしまった。
これでゆっくりできる。さすがにこれ以上一緒にいるとボロがでるしな。
ボクはここに羽を伸ばしに来たんだからさ。
余計なことは一切しなくていい。でも少し残念だった気もする。
おやすみなさい。
こうして波乱の温泉旅一日目を終える。
明日からは本格的に始動だな。それが旅のもう一つの目的。
急に一人になると寂しい気分になる。ボクは彼女を求めてるのか?
いやそんなことはない。何と言ってもボクはアーノ姫一筋なのだから。
ああ何だか寒気まで。一体どうしてしまったのだろう?
まあいいさ。俺には使命がある。勇者としての使命があるのだ。
それとは別にこの世界の滅亡をどう防ぐという難題も。
その頃魔王様ご一行。
カンペ―キの見つけた結構大きめな隠れ家候補。
なるべく人間の来ない場所にと注文をつけておいた。
そう言う意味ではここは完璧。
ただ入り口が見えにくいだけで決して入れない訳ではない。
こんなところにまで来てしまう愚かな人間も僅かながらいる。
そう言う奴は決してモンスターに怯まないし自分勝手だ。
最悪始末するしかない。できれば穏便に済ませたいが魔王様の立場もあるからな。
まずはカンペ―キから話を聞くことに。
「お待ちしておりました魔王様! 」
畏まるカンペ―キ。どうやら順調らしい。
「うむ。出迎えご苦労」
カンペ―キの指示でダンジョン内を作り変えている。
別に自然のままそのままでもいいと言ったがカンペ―キはそれを許さない。
自分に厳しいモンスター。
頼りにはなるしいいのだが周りが見えずに暴走する場合もある。
優れている分だけクマルよりも扱いづらい。
「どうだ進んでいるか? 」
暗くてよく分からないが快適な住まいにしようと取り組んでいる。
手下をかき集めて目下改造中。
完成形を早く見てみたいものだ。
「それでどれくらい進んいる? 完成までどれくらいだ? 」
矢継ぎ早に質問をぶつける。
「お任せください! 必ず三日後には完成させて見せます」
自信満々。これは期待できるな。
ではさっそく見せてもらうとするか。
続く




