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新たな物語の予感 アーノ姫北へ

廃屋にて。引き続き姫様のターン。

クマルをからかって遊ぶのはいい暇つぶしになる。ああ癖になりそう。

ですがやり過ぎてはクマルも気を悪くします。

姫にあるまじき行為で下品でもありますから。ほどほどに。


「ふふふ…… どうせでたらめだが確認はしてやる。

もしウソだったら許さないからな! 」

あらあら大口を叩いて。クマルったら本当だったらどうするつもり?

「許さないからな? うん…… 」

「いえ…… 許さないと思われます」

しっかり訂正するクマル。ボクが魔王様? そんなこと普通はあり得ない。

だから疑う方がどうかしている。でもここは異世界。何でもあり。


「そうだ。魔王様はイライラしてるから気をつけて。今日は戻らない方がいい」

こうしておけば余計なこと言わないのでクマルに悩まされることもない。

クマルだって処分されずに済むんだから感謝してもらわなくちゃ。


「まあいい。何かあったら呼べよな。駆けつけるからよ」

そう言って行ってしまった。ちょっと待ってよ。まだ遊び足りないのに。

仕方がない。今日も魔女のお世話をしますか。

お年寄りのお世話をするは当然のこと。

一人ではどうにもならないところをボクが陰ながら助ける。

これが最近のボクと魔女との関係。

少しは感謝して欲しいですが本人はまったく気づいてないから。


クマルが行ってすぐに魔女が姿を見せる。

「出掛けてくるね」

魔女はまるで散歩にでも行くように自然で軽い。

ただこんな時こそ気をつけるべき。依頼があったんだろうなと。

自然なのですがあまりに自然過ぎるのが逆に違和感を覚えてしまう。


どうしても行かなくてはならない。

魔女の作ったもので迷惑が掛かるのではないかと心配で心配で仕方がない。

ただ暇だからってついて行きたい訳では決してない。これも使命だと考えてる。

腐ったリンゴで田舎娘を暗殺しようとしたのも事実。

あの時ボクの機転がなかったら田舎娘の命は失われていた。


「勝手に外出するんじゃないよ。すぐに帰って来るんだからね! 」

またボクを置いてどこかへ行こうとする。もう騙されないんだから。

ふふふ…… そんなこと言って一度だって騙されてませんが。

後をつけましたからね。

「ねえ今日はどこへ? ボクも連れて行ってよ! 」

駄々をこねてみる。ただ一度だって連れて行ってはくれなかったが。

だから勝手について行くんだけどさ。今回だって恐らく言い訳するでしょうね。


「悪いね。どうも今回は連れて行けそうにないんだ。寒いところは苦手だろう? 

本当は私だって行きたくないのさ。でもこれも依頼だからね」

説得し始める。そんなにボクを連れて行きたくないの?

確かに我慢するのは苦手で暑いのも寒いのも無理。想像するだけでも嫌。


「そんな寒いところに行くの? その格好で? 」

魔女は厚着をせずにいつもの汚らしい服でやせ我慢。

どうやら温度変化に強いのでしょう。

でもその薄汚れたマントぐらい脱いだらいいのに。鈍感な魔女だこと。

「はい。北ですから。だから留守番をお願い」

「北へ? まさか泊まりがけ? 」

「そうだね。姫には迷惑掛けるけど明後日には必ず! 」

もう危険はないと安心しきって放置している。

ちょっと待って! あなたはお助けキャラでしょう?

ボクが存在して初めて成り立つのにどうしてここまで放って置けるの?


「どのようなご用件? 」

「それは秘密。姫は大人しく留守番してればいいの! 」

しつこく聞くものだから我慢できずに大声を上げる大人げない魔女。

まだまだ人間ができてない証拠。

仕方ない。ここは従いますか。

下手にこじれて警戒されても困りますしどうせ後をつければいいんだから。

「はいはい。分りましたよ。読書でもしてます」

「夜は特に気をつけて。オオカミが訪ねて来たらいないと言うんだよ」

「分かったってば…… 」

オオカミが来るはずない。子ども扱いはやめて欲しい。

クマルなら来るかもしれないけど。


「では行ってきます」

こうしてボク一人残して行ってしまった。

ああまた一人寂しく泣いていなければならないのでしょうね。

どうして皆ボクを無視するの? 置いて行こうとするの?

かわいくないの? とっても大切な姫様なのですよ?

それが分からないとは思えないんですが。

国王にとっての弱点であり魔王様にとってもかけがえのない存在のはずなのに。


落ち込んでいても始まらないか。さあ急いで支度。

今度は酷く寒いらしい。なるべく厚着をして追いかけるとしましょうか。

絶対に気づかれないように慎重に後をつける。


ぎゃあぎゃあ!

さっきからクマがちょっかいを出して困ってる。

仕方ないのでクマルに任せることにした。

ボクの話は事実だったと確認したのか大人しく監視役に戻った。

「おいこっちに来るな! ほらこれをやるから」

クマに苦戦するクマル。

牙を剥いたクマと見かけ騙しのモンスターとの世紀の一戦。

見ものですが騒がれては魔女に一発で気づかれてしまう。


「ほらよ。これでも食ってくれ」

勝てないと悟ったクマルは仕方なく魚を与える。するとクマも大人しくなった。

ガオー!

「もうさっきからうるさいね! 静かにしてくれないかね」

文句を言いながら後ろを振り向く魔女。

今回も歩き。飾りとなっている代名詞のほうきを杖代わりにしている。


慌てて地面に伏せる。

ああ姫がこんな恥ずかしい格好に。もう情けない……

「まったく何だろうね。最近騒がしいんだよね」

セーフ。どうにかバレずに済みました。


町に入ったところでお食事。ボクも木の実で栄養補給。

さあ追跡再開。

今度はどんな旅が待っているのかな? 


                  続く

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