言いつけを守らないと恐ろしいことに
異世界・ザンチペンスタン。王宮殿。
「起きてくださいませお嬢様。
本日は国王様とともに勇者をお迎えすることになっております」
どうやら今度は姫になったらしい。
コロコロ変わるからどうも実感が湧かない。
夜明けだかお昼寝明けだか知らないが用があるそう。
「ううん? うるさいな。だから行きたくないって俺…… 」
まずい…… ついさっきまでのことでイライラしていたものだから反射的に……
「お嬢様? 姫様? 誰かお嬢様が変です! 」
大騒ぎするものだから周りにメイドが集結しだした。
「姫様! 」
まずい。教育係が飛んでくる。
「ボク眠いんです」
「ボク? その言葉遣いは何です? またテリーヌの真似して本当に困った姫様」
テリーヌを知らないが恐らく近所の悪ガキだろう。
「ボクではだめなの? 」
「また我がままを言う。分かりました姫様。ボクで構いません。
ですが言葉遣いにはお気を付けください」
意外にもすんなり受け入れる。この程度で引き下がるか?
どうやら教育係も姫様には相当手を焼いてるのだろう。
「はいはい。それでボクはどうすれば? 」
「夕刻に魔王討伐隊が謁見に参られるのでそこで姫様もご出席なさるように」
「分かりました。夕刻にですね。それまでは暇なので寝てましょうか? 」
「またふざけて。お昼をお呼ばれしてますのでそうはいきません」
「それでお父様は? 」
「ですからその代わりだと何度申し上げればよろしいのですか? 」
初めて聞いたのだから仕方ないだろ?
お姫様に転生してもいいことないな。
教育係がガミガミうるさいし。息が詰まりそうだ。
せっかく異世界でのんびりしようと思ったのに。これではやることが多過ぎる。
「ではさっそく支度を済ませ馬車にお乗りください」
早くせよと有無を言わせない。これは怒ってる? それともいつもと変わらない?
自分はしっかり姫様を演じられてるだろうか?
不安で仕方ないし面倒臭くもある。
「まさか一人? 」
「いえお付きの者が一名と護衛が一名。ご心配なさらずに」
これではどうやら逃げられそうにない。
まあいいでしょう。謁見までには時間がある。
こうして馬車でご招待されたお屋敷まで。
馬車に揺られて眠るのも悪くありませんね。
一つ気がかりがある。
このままだと魔王討伐隊と顔を合わせてしまう。そこには当然勇者・ノアがいる。
もう一人の自分がいる訳。そうするとどう言うことに?
うーんよく分からないが…… 勇者の自分と姫の自分が顔を合わせたらどうなる?
もし接触自体が危険ならやはり会ってはまずいよね。
女神様にしろ妖精にしろそんなこと一つも説明してくれなかった。
何て不親切な…… ああそうか…… 夢を見たことを伝えてなかったんだっけ。
女神様の言いつけを守らずに三度夢を見た。
その結果勇者だけでなく姫様にも魔王様にまでなってしまった。
しかもいつどう変化していくか不明。
この異常事態に自分一人でどう対処するばいい?
まあいいか。そう深く考えなくても。何とかなるでしょう。
では……
馬車に揺られて夢の世界へ。
うわっぷ気持ち悪い。
始まりの地。
あれここは?
見覚えがあるぞ。確か女神様のお部屋。
どうやら強制的に連れて来られたようだ。
<あなたは言いつけを守れませんでしたね? >
静かにだが怒りが伝わってくる。失望させてしまったか?
これはまずい。逃げなければ。だがどこへ?
急いで部屋を出て逃走を図るが……
<お待ちなさい。一体どこに逃げようと言うのです? >
ここは世界と世界を繋ぐ異空間。だからどれだけ逃げようとも無駄。
ただ広い世界で行き倒れるだけ。逃げるのは愚行でしかない。
それが分かってるから女神様は諭すが。
でもそんなこと言ってられない。
ただひたすら走り続ける。
しかし異空間である以上すぐに捕らえられてしまう。
<落ち着きなさい。そして謝るのです。さすれば許される>
「申し訳ありません女神様! 俺が! 俺がすべて間違っていました。
どうかどうかお許しください! 」
土下座で誠意を見せる。
これは怖い人系に絡まれた時に発動する身を守る行動。
または浮気した時に…… ああ俺まだ独身だったけ。
女神様はその慈悲深さからお許しになられた。
当然だよな。俺は反省してる訳だし。あっちにも責任の一端があるのだから。
それに会社でだってまだ……
うおおお! 会社でも土下座したことないのに!
おっとついつい感情的になってしまった。
ちょっと古かったかな……
<ではお部屋に戻りましょうね>
常にやさしく包んでくれる女神様。ああ心が洗われていくようだ。
<落ち着きましたね。それでいいのです>
「女神様。ああ女神様! 」
あれもう一人? 嫌な予感。
妖精が姿を現す。
「あんたね! 女神様が許しても私は許さないんだから! 」
そう言って迫る優しくない妖精さん。
まずい…… どうしたらいいんだ?
続く