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限界ギリギリ 幼馴染だからいいよね?

引き続き勇者・ノアのターン。

現在幼馴染と二人っきりで登山の真っ最中。

「あれま。お客さんでないかい? 」

苦行と化したのんびり温泉旅。

幼馴染の我がままもあってすべての荷物を持つ羽目に。

そんな時後方から人の声が。

どうやら宿屋の者が偶然通りかかったらしい。


「まさかあんたらお客さんかい? 今日は泊りで? 」

「ハイそうです」

元気いっぱいの田舎育ちの幼馴染。彼女にとっては軽めのハイキング。

でもこっちはそうもいかない。重い荷物を抱えての登山。

笑顔など浮かべようがない。

「そうかい。だったらこっちだよ。ついて来な」

ラッキー! これで地獄から解放される。

重くて仕方なかったんだよね。手は痛いし足は違和感があるし。

せっかくの国王からのお暇を頂いたのにこの惨状。

なぜこうなってしまったのかボクにもよく分からない。


早く着かないかなと思ってたんだよね。

または姫か魔王様にでもチェンジすればと思っていた。

でも肝心な時には入れ替われずにまったく役に立たない。

これってファンタジーじゃないの?

もう少しだけでも楽であって欲しい。過酷な旅はこの世界観には相応しくない。


「ほら早く来てよね! もうみっともない! 」

散々な言われよう。でもいい。どれだけ罵られようと構わない。

これで解放されるのだから。

「では宿まで案内しますね」

そう言うと二人はボクを置いて先に行ってしまった。

冗談でしょう? 非情過ぎる。お客さんはまだここにいますよ。


十分後どうにか宿を発見。

まったくどうなってるんだろう。

宿に着くなりあの女はボクを引っ張って行こうとするしさ。

「ちょっと待ってくれって! もう疲れたよ」

本当は反論する気力もないが放っておくと何をされるか分からないからな。

ここは強めに言っておこう。


「ほら温泉に行くよ! 」

こちらの意見は一切聞かず無理やり従わせようとする。

「温泉ぐらい一人で行けよ…… 」

別に二人で行く意味などない。ゆっくり自分のペースで入ればいい。

もちろん本気ではないんだけど疲れからどうしても我慢できなくなってしまう。

「何か言った? 」

うわ…… 機嫌がすこぶる悪い。これは反抗しない方がよさそうだ。

「いや…… 何だか寒くないか? 」

「ううん全然。さあ行きましょう」

人の話をまったく聞かず否定しかしない困った幼馴染。


「でも着替えも荷物もまだでさ…… 」

荷物は部屋まで運んでくれるそう。

だったらもっと前に言ってよ。ここから部屋なら大した距離じゃないじゃないか。

もうボク限界なんですけど。


急いで支度をし後を追いかける。

ごねてもよかったんだけど。ボクも男だから見たくない訳じゃない。

本来なら幼馴染と言えばもう嫌と言うほど見て来てるはず。

ただボクに限っては新鮮な体験。さあ行ってみますか。


「ほら夕日きれいでしょう? 」

ここから見る夕日がとても素敵だと教えてもらった。

何だ…… 急いでた目的はこれか?

確かにきれいだ。でもこの夕日も後どれくらい見れるのかな……

おっといけない。何を悲観的になってるんだ? 消滅を阻止すればいいだけさ。


「きれいだ! 本当にきれいだよ! 」

「ありがとう…… 」

そう言って恥ずかしそうに俯く。

いや違う。きれいなのは夕日であって君じゃない。

まさかこんな絶景美が見られるとは思わなかった。

心が洗われる。だからとても感謝してる。でもだからってきれいなはずないだろ?

「さあ夕日も沈んだことだしそろそろ行きましょうか? 」

手を繋いで仲良く一緒に天然温泉へ。


天然温泉は貸し切り状態。

そうか今は町からの団体さんも僅かだと言ってたっけ。

やったね! これで思う存分満喫できるぞ。

「ねえ知ってる? ここって雪女が出るんだって。地元では有名らしいの」

ボクを怖がらそうとはかわいい奴め。でもボクはそんな手には引っ掛からない。

雪女などいるはずないじゃないか。


「雪女! 」

「ぎゃああ! 」

「いや! 抱き着かないでってばもう! 」

そう言うが満更でもない様子。

「済まない! 」

一応謝っておくか。後が怖いしな。

「ではそろそろ入りましょうか」


やっぱりそうか。ボクをまだ幼馴染のノアだと思ってるな。

事実そうなんだけど。でもちょっと違うんだよな。

肉体的にはそうでも精神的には違うと言うかちょっと難しい。

精神的には独立した存在とでも言えばいいんだろうか?


「待ってくれ! 念のために温度を測ろう」

大体でいい。手を入れてみる。ちょっとした時間稼ぎ。

うわ熱い。これは火傷レベル。五十度かそこらだろう。六十度行ってたりして。


ではかき混ぜますか。

「そこら辺に混ぜる棒みたいなのはない? 」

「そんなの持ってきてないって! だったらこれはどう? 」

プラチナソードを見る。

おいおいこれはまずいだろ? 肌身離さず携帯したもの。

国王からの頂きものでもあるのでさすがに粗末には扱えない。


「ちょっとこれはまずいって…… 」

「大丈夫。この程度でどうにかならないでしょう? 」

そう言うと躊躇うことなく投入。

うわあああ! 何てことをしやがる。

勇者の魂だと言うのに困ったな。溶けて使いものにならなくなったらどうする?

こうしてかき混ぜ棒となったプラチナソードで湯加減を調整する。

さあこれくらいでいいだろう。ちょっと熱いぐらいが適温さ。


うん…… 待てよ。

これってまさか…… 必死に考えないようにしてたけどかなり危険な状況では?

どうしたらいいんだ? このまま身を任せるしかないの?

幼馴染と二人きりでお風呂。しかも開放感抜群の天然温泉と来てる。

もうボクたちの前には遮るものなど何もない。


「では入りましょうか」

そう言って躊躇なく脱ぎだす。

いや待ってくれ…… ボクはどうすればいい?

「ほら早く脱ぐの! 」

うおおお…… もうどうにでもなれ!

興奮が止まらない。うん興奮? これってまさか……

またいつものパターンらしい。


                  続く

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