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ガラスの靴の行方

魔女の帰還。

トントン

トントン

「はいどちら様ですか? 」

「そこを開けておくれ。あんたの魔女だよ」

ついに魔女帰る。ボクもさっき戻ったばっかり。

前回とは違いしっかり迎えることができた。


「もう! どうして帰って来なかったの? 」

「ああ済まないね。昨日は忙しくてさ…… 」

それは理解してるつもり。後をつけツンデーラに成り代わり同じ宿に泊まった。

これ以上ないぐらいの理解者でしょう。


「もう心細かったんだから。それにつまらなかった! 」

「そう駄々をこねないの。ほらこれお土産だよ」

宿屋に置いてあったお菓子。

これおいしくて昨日全部食べちゃったやつだ。

お土産って…… 持ってきただけでしょう? 絶対に買ってない。

でもそんなこと言えない。ボクが後をつけたのがバレてしまう。

だからここは大げさに喜ぶとしましょう。


「まあおいしそう! どこで買ったんですの? 」

「町でね…… 」

それ以上詳しくは語ろうとしない。これは本当に部屋のを取って来ただけだな。

うん? もうシケてるじゃない。こんなのお土産に持って来るんだから。

ふう…… お婆ちゃんだから仕方ないか。


「それで姫様は退屈しなかったかい? 」

本当は興味はないでしょうに。確認のつもり?

もしかして気づかれた? 魔女ですからあり得ないことでもない。

「いいえ。優雅に読書を。何だか夢の世界に没入したみたい」

「それはよかったね」

まさか本気でボクのこと疑ってる? でもなぜ?


「どうしたの? 帰ってから何だか変」

「実は…… 姫様みたいな娘がいたような気がして…… 」

どうやら確信まではいってないらしい。あくまで疑いだけ。

「それは見間違いですわ…… たぶん旅で疲れてるんでしょう。もう年だから」

「人を年寄り扱いするんじゃないよ! 」

まずい。怒らせてしまった? もう! 年取ると怒りっぽくなるんだから。


「実はもう一人。町で知り合ったツンデーラって娘が姫様に似てる気がしてね」

どうやら魔女はボクに違和感を持って接していたらしい。

「ツンデーラ? 誰ですその人? 」

顔に出ないように必死に平静さを装う。これはバレたかな?

でも確証はないはず。ここは最後までシラを切り通そう。

「もういいわ。姫様が無事ならそれでいいよ」

そう言うと部屋に引っ込んでしまった。

さあ今日はどうするのかな?



その頃宿屋では……

「いらっしゃい。何名様ですか? 」

「いや違うんだ。人を探していてな。うん? このガラスの靴は? 」

「ああそれは昨日…… 」

「このガラスの靴はあなたのですか? 」

「ええ…… まあそうですね。はい私のです」

「では昨日舞踏会に? 」

「はいはい。そのおかげでお客が…… 」

「ちなみにお年はおいくつでしょうか? 」

「失礼ね! これでもまだ三十…… 」

「大変失礼しました! ツンデーラ様。王子がお待ちです」

「ツンデーラ? 私はその…… 」

「では宮殿に! 」

「ははは…… ツンデーラが参ります」


こうしてガラスの靴を手掛かりにツンデーラは無事発見される。

偽ツンデーラは王子と幸せに暮らしたとさ。

ちなみに本当のツンデーラは消息不明。恐らくどこかで幸せに。



勇者・ノアのターン。

馬車はスピードを緩める。

「あの…… お休みのところ申し訳ねえですが着きましたぜ」

北へ向かへと。近くに温泉があれば案内するよう頼んでいた。

どうやらここには天然の温泉があるそう。


「着いたぞ! 起きろって! 」

涎を垂らしてイビキを掻いているうら若き乙女。

もう置いて行こうかな? かわいくない訳ではないけどさ。

ではそろそろ一人で……


「つーかまえた! 」

置いて行こうとしたら捕まってしまう。抱き着いて放そうとしない。

「ほら一緒に行きましょうね。ダーリン」

うわまだ寝ぼけてる…… 誰かこいつの世話をしてやってくれよ。

馬車の手入れ中の男を見るが視線を合わせようとしない。

もう役目を終えたと自分の世界に没頭している。


「ではこれで。ゆっくりして行ってくださいな」

馬車が行き二人っきりにされてしまう。

今日はもうクタクタ。さっそく温泉に浸かって溜まった疲れを取るとしよう。


「おい離れろって! さっきからうっとうしいぞ! 」

ずっと腕に絡むから重くて仕方がない。

「もう恥ずかしがって…… 」

彼女はまともに取り合ってくれない。

「いやそうじゃなくて重いんですけど」

「うん? 何か言ったのかな? 」

うわ…… これ以上文句を言えば怒るんだろうな。顔に出てるよ。

「何でもない。よし行こうぜ! 」

「はーい」

余計な荷物をって言ったらぶっ飛ばされるんだろうな? 分かってるんだよね。


「そうだ。余計な荷物ついでに俺たちの荷物は? 」

中にはプラチナソードが。

「ううん? 余計な荷物ってどう言うことかな? 

荷物ならその辺に投げ捨てられてるでしょう」

馬車があった辺りの物陰に乱雑に置かれていた。

ボクの荷物が二つと彼女の荷物が三つ。その中にはプラチナソードも。


「自分のぐらいは持ってくれよな! 」

「ええ冗談? 」

「冗談じゃなくてさ…… 大体ボク一人では全部持てないだろう? 」

「文句言わないで持ちなさいよ! あなた勇者でしょう? 隊長でしょう? 」

痛いところを突いてきやがる。これだから嫌なんだよな……

「ふう…… これだから」

「何か言った? 早くしなさいよね! 」

結局全部持つ羽目になった。

まさか冗談でしょう? なぜこんな酷い目に遭うの?


はあはあ

はあはあ

今はこんなことしてる時ではないんだけどな。

うーん。重くて堪らない。ああどうしよう。

「早く! あそこに看板があるよ」

この山を登ったところに宿があるそう。

「ほら急いで! 日が暮れる」


ボクは勘違いしてたらしい。幼馴染は心の優しい女神のような存在だとばかり。

でも違った。とんでもなく自分勝手で鬼のような存在。

せっかくの休息がただの重労働へと。力使いたくないのに。本当に困ったな。

それにしても疲れたな。これでは絶景もあったものじゃない。


「見て凄いよ! 」

一人お気楽に前を行く幼馴染。

普通体力不足で疲れ果てるのに田舎出身だから山は慣れているのか軽快だ。

だったら一個ぐらい持ってよね。


こうして幼馴染との登山は過酷を極めることに。


                  続く

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