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ガラスの靴

深夜十二時。

長居し過ぎたみたい。

急いで待ち合わせ場所の教会に向かうもツンデーラの姿はどこにも。

恐らく二人でもう……

ツンデーラもこれでようやく自由になれる。

でも最後にもう一度会いたかったな……

おっと感傷に浸ってる時じゃなかった。さあボクも戻らないと。


ようやく解放される。草取り姫・ツンデーラはこれでお終い。

三人を入れ替わるのだって大変なのにもう一人増えて一人四役。

もう自分が誰なのかまったく分からない状態。このままだとボロが出るかも。

最悪アーノ姫の時ならどうにかなるでしょうが……

勇者・ノアや魔王様の時はそうもいかない。

ああそうだ。すっかり魔女のことを忘れていた。


魔女もツンデーラが心配だったのか会場の外で待機。混乱の渦の中。

「ちょっと何するんだい! まさか私を妃にするつもりじゃないだろうね? 」

「馬鹿を抜かせ! そのヘンテコな馬車で来たと言う目撃がある。

ツンデーラはどうした? 隠したらためにならんぞ! 」

王子がボクを求めてる。でもどうすることもできません。

もうあなたのツンデーラはいないんですよ。残念ですがそれが運命なのです。

ここは心を鬼にして見守るしかない。


「うるさいよあんた! 王子なんだろ? もっと冷静でなくちゃ! 」

イライラしたのか一国の王子に突っかかっていく。

魔女ですから怖いものなし。でも少しは状況判断するべきではないかと。

「王子に何を言うか! この無礼者が! ひっ捕らえろ! 」

混乱の中で皆冷静さを欠いている。

「へへん! 捕まえてみな! 」

魔女は挑発するだけしてごめんだとばかりにその場を去っていく。


「待て! 逃げるな! 」

「嫌だね。誰が待つかい! 」

ふう…… 醜い追いかけっこはどこまで続くのでしょうか?

人混みに紛れ宿屋へ逃げ込んだ魔女。これで追跡から逃れたよう。

仕方ない。ボクも後を追うことにしましょう。

本当に世話が焼けるんだから。

あの王子はしつこいからこのままただでは済まないでしょうね。

こんなところで呑気にしていて大丈夫かな?


「お泊りですか? 」

「そうではなく…… いや泊って行こうかね」

「では一名様ご案内! 」

魔女にしろ宿屋にしろ大声だから助かる。

ではボクも。夜は何かと物騒なので一泊することに。


「あんたも一人かい? 」

「今夜は? 」

「悪いね。今のお客さんで満杯になったわ。どうする相部屋で構わないかい? 」

「それは困るので空いてるところをお願いします」

「だったら超豪華な四人部屋。四人分請求するけどそれでもいい? 」

うわ…… 足元を見られる。足元…… そうか。

「お金はありませんがこのガラスの靴片方で相当な価値があるかと。

これでお願いできませんか」

宮殿に戻ればいくらでも返せるでしょうがここはどうにか切り抜けるしかない。

「あー分かったよ。だったら特別だからね」

こうしてぼったくりだか善意だか分かりにくい宿屋で一泊。

おやすみなさい。



馬車にて。勇者・ノアのターン。

幼馴染と二人っきりでのんびり旅行に出かけることに。

「どうしたの。さっきから黙ったままだけど? 」

「いや久しぶりだから緊張しちゃって」

確かブシュ―だったと思うけど…… あれブッシュだっけ? それともブス……

まずい。どれか分からなくなった。どうしよう? 間違えられない。

最初に浮かんだブシュ―が正しいと思うんだけど…… いや待てよ。

裏の裏を読んでブスにしよう。


まったくなぜこんなことで悩まなくてないけないのだろう?

普通この手のトラブルは序盤の序盤でしょう?

今が終盤とは言わないけど。大体まだ三分の一だって過ぎてないのにさ。

  

「どこに出掛けましょうかあなた? 」

適当に方角を示し馬車を走らせたが果たしてどこに行こうかな?

本当はこんな呑気なことしていられない。

勇者として魔王軍をどうにかする使命がある。

何と言っても隊長を任された訳だから。その自覚はある。

それとどうにかこの世界を救わないといけない。

そのためにやれることといったら今は姫にも魔王にも会わないことぐらい。

ただそれだけではダメで。この手で倒す必要がある。

魔王だけならまだしも姫まで手にかけるなど果たしてできるのか?

どうにかして突破口を見つけなくては。

この旅の目的はそれを見つけることにある。


「ほら険しい表情しないの。私といて楽しくない? 」

「いやブ…… そんなことは…… まだ着かないの? 」

本当は一緒にはいたくない。この女のことは何一つ知らないからな。

ボロが出る前にどうにか逃れたいのだがそうもいかないし。

馬車で二人きりでは当然か。


「どうしたのさっきから難しい顔ばかりしてさ。息抜きに行くんだよ? 」

「ボグ―! 」

まずいまずい。魔王様の口癖がつい…… 気をつけないと。

どうやら怪しまれてなさそう。

「もうそんなに緊張して。そう言えば昔からそう言うところあったよね…… 」

まったく記憶にない。それはそうだろ。最近転生したばかりだからな。

少しは過去の記憶があるはずなんだが。元の男の記憶力が低いとそうも行かない。

よく思い出そうとしても昔どころか一か月前の記憶さえない。

あるのは残業続きの過酷の日々。そして睡眠不足でなぜか女神に叱られるところ。


「実は君に話しておきたいことがあるんだ」

真剣な表情で見つめるとなぜか照れる困った彼女。

「今いきなり? もう少し雰囲気のいいところで…… 」

何を勘違いしてるのか真面目に聞く気がないならやめておくか。

どうせこの世界が滅ぶと言ってもいたずらに恐怖心を煽るだけだからな。


消滅予定都市・ザンチペンスタンの運命の日まで残り僅か。


                続く

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