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十二時の鐘が鳴るまでに

成り行きで草取り姫・ツンデーラの身代わりをすることに。

なぜボクがこんな貧相なメイド姿を披露しなければならないのでしょう?

時間稼ぎにこんな格好させられたけどあまり意味がないような。

結局魔女に怪しまれるし。どうにかごまかしたが油断はできない。


魔女の本領発揮。

「もう舞踊会は始まっちまってるよ。さあボチボチ私らも出掛けようかね」

そう言うと市場で買ってきた巨大かぼちゃを馬車に変える手品を披露。

これは素晴らしい。拍手で称えることに。

「よし今度はその服を変えてあげようね」

貧相な身なりが突然ゴージャスなドレスに。

まるで夢のよう。でも現実なのですよね?

やる時はやるんだから。いつもこれくらい真面目にやってよね。


「すごい! すごい! すごい! 」

しっかり驚いて見せる。変装がばれてはいけませんからね。

それに恐らく草取り姫は初めてのはずだから。

これくらいオーバーな方が自然。ちょっとやり過ぎぐらいがちょうどいい。


「魔女だとは聞いてましたがまさかこれほどとは」

「あれ言ったかね? まあいいや。でも本当はこんなものじゃないよ。

今は封印してるけど大魔法だって扱えるんだよ」

気持ちよくなった魔女は秘めた力にまで言及。大魔法とは一体?


「おっとそうそうこれを忘れちゃいけないよ」

フリーマーケットで見つけたガラスの靴。

これを魔法で新品に戻しキラキラコーティングで輝きを加える。

「ほら履いてごらん。うん似合ってるよ」

「ありがとうございます」

「いいかい? タイムリミットは夜の十二時までだよ。

十二時の鐘が鳴ると一分以内に効力が失われるから気をつけな」

忠告を忘れない魔女。サポートはここまでらしい。


準備万端。

こうしてかぼちゃの馬車で王子のいる舞踏会へ。

ああ何てことでしょう? まるで夢のよう。

でも草取り姫自身は嫌がっていた訳で……

今どうしてるんだろう? 会えたかな?


舞踏会場に遅れること一時間。

遅れて来た麗しの姫に視線がくぎ付け。

あらあら…… 少々目立ち過ぎたでしょうか?

「ツンデーラ? 招待状はお持ちではないのですか? 」

トラブル発生。招待状は当然持ってない。

「はい。無料で踊れるんじゃないの? 」

面倒だから身分を打ち明ける? 一応は名の知れた国の姫ですからね。

ここの王子とは初対面ですが追い出されることはないはず。

「お持ちでない方の入場はお断りしております」

受付で拒否される。想定外の出来事。

「ああそうだ。家の者が…… お姉様とお母様が招かれています。確認願います」

「そうですか…… 少々お待ちください」

招待状がないと中に入れないなんて厳重なんだから。まったく嫌になる。


十分以上待たされてイライラ。もう限界って時に戻って来た。

「お待たせしました。確認したところツンデーラなどと言う娘も妹もいないと」

酷過ぎる。仮にも娘でしょう? 妹でしょう? 

仮にもとは実際ボクはツンデーラではないから。でもあまりにも可哀想。

「もう一度確認を! 」

無理を言って困らせる。


それから十分後。

まったく一体いつまで待たせるの?

姫だからそこまで我慢できない。贅沢な体になってしまったのは自覚してます。

でもおかしなもの。立派な姫になるようにと努力もした。

今再びツンデーラになるなんて。一人何役やればいいの?

暇だからって安請け合いするべきではなかった。

それにしても本当に遅いな。いつまで待たせる気?


ようやく戻ってきた。

「どうでした? 」

「それが…… まったく。ただ召使にツンデーラと言う者がいたようなと」

「何ですって! 」

「そう言うことですのでお引き取りください」

「ちょっと…… 」

抵抗するも男たちに腕を取られ連れて行かれそうになる。


「待て! 何をしている! 」

王子が姿を見せる。

「近づかずに! 危険です王子! 」

制止を振り切ってよろけた体を支えてもらう。

「これは失礼を…… 」

「踊っていただけますね? 」

強引過ぎる王子。もう仕方ないな。

一応は草取り姫ですが実態はほぼメイドのツンデーラですよ。

高貴な姫などではありません。


王子のエスコートを受けて踊る。

羨望の眼差しを向けられる。

あらあら美男美女で王子と姫なら何の問題もないでしょう。


「ちょっとあの人誰? 」

「いやー王子様! 」

届かない者たちが愚かにも騒ぎ出す。

その中に恐らく見覚えがあると思われる者が。

「ちょっとあれはツンデーラ? 」

「そうそう似てる! でもお母様が…… 」

「追い返したのにどうしてだい! 」

意地悪親子は怒りを隠せずに近づく。

「そこの者! 何をしている! 」

冷静さを失ったお母様たちは王子の命を狙う不届き者として囚われてしまった。

いい気味ですね。ほほほ……


「どうしたんだい? あの者たちが気になるかい? 」

微笑みかける王子の美しい瞳。

まずい。まずい。どうしたのでしょう? 動悸が激しい。

「いいだろう? 」

キスを迫る。何と女ったらしなのかしら? 

でも待って…… よく考えて欲しい。ボクって……

「王子あのその…… 」

いきなり大勢の目の前でしかもほとんどが嫉妬に狂った花嫁候補。

それなのにそれなのにキスを迫る。どういう神経してるの? 

「ホラ怖がらなくていい。恥ずかしがらなくていい」

いえ別に誰も怖がっていませんし恥ずかしがってなどいない。

ただ一応は姫としてのプライドがある。それに忘れてたけどボクって元は……


強引にキスをされもうどうすることもできずにただ固まる。

「どうだいツンデーラ? 」

まったくどこまで格好つけなのこの王子は?

思いっきり頬を張る。

「うわ…… 待ってくれツンデーラ! 」

きゃああ!


ゴーン! ゴーン!

大騒ぎで収拾がつかなくなった時に鐘が鳴る。

教会が鳴らす零時を告げる鐘の音。

まずい。急がなくては。

ちょっと踏まないで……

揉みくちゃにされて足を踏まれてしまい倒れそうになるもどうにか堪える。

しかしそのせいでガラスの靴が脱げてしまう。

まずい。拾えないじゃない。早く!

これでは混乱が収まるまでどうにもならない。

仕方ないここは諦めましょう。


急いで舞踏会場を抜ける。

ああもう間に合わない。最後にツンデーラに報告しようと思ったのに。

長居し過ぎたらしい。


                   続く

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