アーノ姫を我が妃に!
宮殿にて。勇者・ノアのターン。
「隊長! よくやってくれた! 」
国王からありがたいお言葉を頂戴する。
皆から尊敬の眼差しを向けられ国王からは激励。
それもそのはず。敵を寄せつけずに魔王軍をも退けたのだから。
うーん。それにしてもこれほど心地よいものとは思いもしなかった。
意外にもボクって単純? そうだとしても別に何らに恥じることはない。
後はボクの今の境遇を理解し協力してもらえたらな。
それがこの世界の平和にもつながるのだから。
でも真実はどうしたって言えないよね。
「どうした言葉もないか? 」
「いえ…… 当然のことをしたまでです」
「ではさっそく褒美を与えたい。何がいい? ああ遠慮するでないぞ」
上機嫌の国王。それもそのはず。ボク一人で襲撃者を追い返したのだから。
褒美ぐらいどうと言うことはないだろう。でも…… ボクは別に何も欲しくない。
現状に満足してるがそれではつまらない男だと言われるだけ。
「アーノ姫を我が妃に! 」
本気ではない。でもボクがこの世界をかき乱さなければ恐らく今頃二人は……
だから元に戻ってもいいようにアーノ姫を求める。
ボクには責任がある。隊長の責任以上にこの世界を滅茶苦茶にした責任がある。
だからこそどうにかボクの手で何とかしたい。今はただそれだけ。
「アーノ姫か? 確かにこの度の働きはそれ程のものであった。それは認めよう。
国王としても是非にと思っている。しかし隊長。アーノ姫はものじゃない。
だから勝手にあげたり貰ったりできない。まずは本人に確認してからだ」
国王はうまくかわす。確かにアーノ姫の意思を無視して結ばれようとは思わない。
と言うか雰囲気で何となく要求したに過ぎない。
もし本物のノアだったらそうしていただろうなと思ったから。
本気かと言えば本気に違いはないがでも無理強いはしない。
「他には? 遠慮することはないぞ。多少のことならどんな我がままも許す」
随分と魅力的だな。それだけ姫は渡したくないのだろう。
「ではのんびりと疲れを癒したいのですが」
連戦の疲れで体はボロボロ。もういい加減にしないと体を壊してしまう。
牢屋は疲れを癒せるほど快適ではなかった。
ちょうどいいタイミング。ここはゆっくりしようかな。
「そうだな。魔王軍の動きも止まったようだしよかろう。
では今日から三日ほど暇を与えるとする。どこにでも好きに行くがいい」
こうして国王からお許しが。旅費を頂き馬車まで手配してもらう好待遇。
それほどボクの隊長としての能力を買っているのだろう。
「よし出発! 」
「ちょっと待ってよ! 」
どこで嗅ぎつけたのか幼馴染が駆けてくる。
嘘…… 聞いてないよ。
日も暮れ町は賑わい始める。
灯りも眩しいほどに。奏でるメロディーも軽やかで明るい。
それはいつもと変わらない町の風景。
しかし物足りない。賑わいには不足してる部分が。
町から若い女性が姿を消した。
主役不在に空回りしてるようで虚しい限り。
草取り娘・ツンデーラとの約束。それは魔女との約束でも。
「私だよ。開けておくれ」
しゃがれた声で魔女が叫ぶ。そして苦しそうにせき込む。
どうやら走ったせいで疲れたのかいつもよりも老けて聞こえる。
もしかして声を変えてる? それほどのことなの?
「はいどうぞ」
「あれ…… 昼間とは声が少し違う気がするんだがね」
さすがは魔女だけあって違和感があったのでしょう。
「ほほほ…… 気のせいですわ」
「そうかい。でもその声はどこか高貴でどこか品があるんだよね。
しかもそれでいて聞いたことがある声」
さすがは自称占い師で魔女だけある。
すべて見抜かれてる気分。ダメ。自信を持って接しないと逆に怪しまれる。
黙ってしまっては終わり。どうにか取り繕わなければ。
「ほほほ…… 気のせいだとさっきから…… 」
まったくどこまで鋭くてしつこいのよ。もう嫌になる。
「だがツンデーラはもう少し貧相で自信なさげ。今のあんたは逆に自信過剰気味」
しつこいんだから…… 一国の姫ですからね自信はあります。
それが個性と言うものでしょう?
「お婆さんは私にお話があるんでしょう? 」
こんな夜中に非常識な魔女。まさか毒リンゴを渡す気?
「そうだった。あんたも舞踏会で王子様と踊りたいだろ? 」
幼気な少女を誘惑する。
「別に! 」
「そんな我がままな態度を取らないでさ。なぜ腕を組むんだい? 」
魔女は変わりように違和感を覚えてるよう。
「別に! 別にいいでしょう? 」
追及されたら堪らない。別にの一点張りで。
「本気かい? 昼間はあれだけ楽しみにしていたのに」
ツンデーラの偽物だと気づかれないように慎重に行動する。
でもよく考えればツンデーラの振りをする必要などどこにもない気も……
どうせ駆け落ちするんだから。
「これじゃあ話が進まないだろう? 」
強引に先に進める魔女。さすがはベテラン。
「はい…… 」
押し切られてしまう。
「あんたが舞踏会に行きたいって言うから準備したのに。用がなければ帰るがね」
拗ねてしまった。まずいまずい。
「私を舞踏会に連れて行ってください」
ようやくまともに話せるようになったと安堵する魔女。
まったく何で私がこんな貧相な身なりに変装しなければならないの?
「もう少しかな。頼み方に真剣さがないよ」
ほらもう一度とやり直しさせられる。でもそんなこと言われても……
「私を連れて行って! 」
「ハイもう一回だよ」
「私を舞踏会に連れて行って! 」
「本当に舞踏会でいいのかい? どんな願いだって聞いてやるんだよ」
魔女は人間の中に棲む醜いものを吐き出させようとする。
「お願い。親切なお婆さん! 」
これで完全に演じ切れたかな。多少疑われてもいいようにはしたつもり。
「もう一度。あんたどうしても舞踏会に行きたいんだろ? 」
魔女はそう言いますが私自身ただの身代わりですから。
強い思いがある訳はない。
続く




