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ダンスパーティー

引き続きアーノ姫。

現在魔女尾行中。

暑くもなく寒くもない絶好のハイキング日和。尾行にはもってこい。

少しぐらい歩いてもいいのかな? でも姫様ですから無理は……

そんなことを知ってか知らずか対象はどんどん先へ行ってしまう。


魔女を追いかけて一軒のお屋敷へ。

そこは手入れの行き届いたお洒落な庭園で現在青と黄色のバラが咲き誇っている。

「家の人を呼んで来てくれませんか? 」

メイドが一名対応するのですがどうも話が通じない。

「はい。ここの家の者ですが」

「失礼。メイドさんではなくて? 」

「ここにはメイドはいません。私がこの屋敷の雑用係を任されてるんです」

草取り娘は鎌を高く掲げて胸を張る。

立派だと思います。もう草から生まれた草取り姫と呼んでもいいぐらい。

あるいは草刈り姫でしょうか?


鎌が太陽に反射して煌めく。 

それをまさかボクに振り下ろすつもりではありませんよね?

放置すれば血を見ることになる。ここは緩い異世界のはずですが……

「任せるって…… そう言うのをメイドって言うのでは? 」

「違います! 私はここの家の末娘です。ただ私一人母が違って…… 」

草取り姫は会ったばかりのボクに悩みを打ち明ける。

複雑な家庭環境。随分重めの内容。

継母と意地悪な姉から酷い仕打ちを受けてるとか。何て可哀想なのでしょう。

しかしボクにはどうすることもできそうにない。ただ勇気づけるぐらい。


「随分苦労されてるんですね」

「はい。でも今日その苦労が報われるんです」

何と素晴らしい。今日が記念すべき解放日だとか。

ふふふ…… だったら相談するなよと言いたいですが心に留めるだけにする。

だって鎌を持ってるんですもの。抵抗はしない。


ボクも姫様だから苦労が絶えない。でもこの子はその比ではないのでしょうね。

さあ優しい言葉をかけてあげよう。その鎌の餌食になる前に。

「よく今日まで頑張りましたね。それであなたのお名前は? 」

「ツンデーラ。意地悪なお母様とお姉様のお世話になってます」

嫌味だか何だかよく分からない。

屋敷ではなく馬小屋横の離れで一人寝泊りをしてるそう。


「それで今日宮殿でダンスパーティーが…… 」

「はいはい。王子様と踊りたいんでしょう? でも連れて行ってくれないと」

「あなたはまさか占い師? 」

「いえ…… ただの暇を持て余してるだけの旅の者です」

ちょっと格好をつけてみる。


ツンデーラは王子との幸せな結婚生活を思い描いてるのでしょう。

それがあったからこそ酷い仕打ちにも耐え忍べた。そうに違いありません。

ツンデーラの告白が胸に刺さる。何とかしてあげたい。

こんな風に思ったのはいつ以来?

どちらかと言えば姫ですからするよりもしてもらっている方。


「分かりました。ボクも協力します。どうせ暇ですから」

こんなことしてて本当にいいのかな? まあでも面白そうだからいいよね?

「ありがとうございます! 」


「ではまず王子様に気に入られるように練習してみましょうか」

姫ではあるがすぐに逃げ隠れしたせいで姫らしいことは何一つやって来なかった。

でも男に気に入られるにはどうしたらいいかぐらいは分かる。

まずは王子がどのようなタイプかを知ることが重要。

でもボクだって会ったことないしな…… きちんとアドバイスできるかな?

「いえ王子はいいんです」

いきなり冷める草取り姫。どうしたのでしょう? あれだけ喜んでくれたのに。

気でも変わった? その辺りは我がままで姫っぽいからプラス材料?


「王子様に気に入られたいんでしょう? 」

「いいえ! もうあのお婆さんも勘違いしてるんだもんな…… 」

「お婆さんって魔女? 」

まずい。つい口が勝手に? この草取り娘からバレてはこと。

ここはいっそのこと口封じを……

「お知り合いですか? 」

「いえ…… さっき見かけたからもしかしたらと…… 」

適当にごまかす。無理がありますが気にしてる様子もない。

たぶん大丈夫でしょう。口封じの件もなかったことに。


「これは絶対に秘密にしてくださいね」

前置きをする草取り姫。暗に言い触らせと?

仮にそうでも今のボクにはそんなこと…… 

「もう大げさなんだから。それでツンデーラはどうしたいの? 」

この子は辛い仕打ちを受けておかしくなってしまった。

王子様と結ばれる以上の幸せはないでしょう?


「今夜は意地悪三人が遠い宮殿に。その隙に彼と逃げるつもり。

十二時に教会で待ち合わせてるの」

どうやら駆け落ちするつもりらしい。思ったよりも行動的で考えてもいる。

「それで魔女はどうするって? 」

「何だか勘違いしてていくら言っても大丈夫だから心配するなって」

片手間に始めるからこんなミスをするんでしょうね。

ではボクが代わりに逃げる手伝いを……


「悪いけどあなたにはその魔女の相手をお願いしたいの」

「はあ…… 」

「宮殿で王子とダンス? 冗談じゃない! 私は逃げ出すんだから! 」

本性を現した草取り姫・ツンデーラ。意外にも大人な女性でした。

「分かった。どうせ暇だから代わってあげる」

ダンスパーティーも悪くない。

最近ご馳走にもありつけてませんからね。

クマルスペシャルには飽き飽きしていたところですからちょうどいい。

「ありがとう。では今晩またここに来て! 」

こうして一旦離れることに。


何だかおかしな展開になって来たな。

ボクはどうかな? 魅力的な王子様とその辺の冴えない男。

うーん考えるまでもなく王子様ですよね?

まさかここの王子様って不細工なの? それともとんでもない女好き?

どうであれ今夜会ってみれば分かること。


こうして魔女の行動を観察しつつ夜までのんびり過ごすことに。


                  続く

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