アーノ姫新たな冒険 草取り姫編
魔王様の隠れ家。
「魔王様! 魔王様! 」
情けないことにいつの間にか眠ってしまったらしい。
眠り病がどんどん進行しているようだ。それとも別の何かか?
「ボグ―! 」
もう口癖に。手下たちもこれを聞かないと始まらないのだとか。
「クマルが戻って参りました」
「よし通せ! お前たちは下がっていろ! 」
こうしてクマルと二人っきりに。
「それで首尾はどうだ? 」
宮殿襲撃の指揮を任せている。
戻ってきたからには作戦は成功したのだろう。
「はい? いえ魔王様が戻れとそうおっしゃって…… 」
下手な言い訳を始める。まったく困った奴だな。
もし本当にこれほど使えないならばもっと前に処分されていただろう。
だがこちらにとってはうまく失敗してくれるありがたい存在。
嫌味ではもちろんない。命令通りでなくても思惑通り動いてくれる訳だから。
助かっている。しかし大っぴらに褒め称える訳にも行かない。
傍から見ればただ失敗してるだけの奴だからな。
調子に乗られても困るしな。さあここはどうするかな。
魔王様の腕の見せどころ。
「ボグ―! 」
「あれ…… 俺間違っちゃいました? 」
笑ってごまかそうとするクマル。
間違ってうまく行くならいいがクマルだから当然悪化するだけ。
もう慣れたのか震えてもいない。この魔王様を舐めてるのか?
「戻ってこいなどと言った覚えはないが」
「ですがあの敵のリーダーがそう…… 魔王様兼の…… 」
間抜けな答えだからもう笑うしかない。でも魔王様の威厳がある。
「ボグ―! 」
「魔王様? 」
「お前はからかわれたのだ。そしていいように丸め込まれた」
「ではあの男は魔王様ではないと? 」
真剣に問うクマルに呆れる。もちろん事実そうだが立場的には違う。
そんなおかしな主張をすれば魔王様まで頭がおかしくなったと思われる。
そうなったら最後。従うこともなく追放の憂き目に遭う。
仮にモンスターを支配する絶対王である魔王様であっても免れない。
それほど魔王軍は弱肉強食。すぐに取って変わられる。
新たな魔王様の誕生となる。
もちろん悲観的に見ればだが。ただクマルと心中するつもりはない。
魔王様とて危険は冒せないのだ。
「ボグ―! 」
「ひええ…… どうかお許しを! 」
すぐに土下座を始めるクマル。
こいつにとって土下座は大した意味もないのだろうな。
それでは何の謝罪にもならない。でも思惑通り動いたからな。
本当はもっと堂々としてればいいんだがそう伝える術がない。
だから見守ることにする……
「もういい! お前は姫の護衛に回れ! 」
「ええ何で俺が? あの女生意気なんですよね…… 」
まさかの愚痴。魔王様の御前で? 何て野郎だ。
「ボグ―! ボグ―! 」
「はい。もちろん喜んで! では失礼します」
慌てて逃げていく哀れなクマル。
姫の護衛を頼んだぞ。
これもある意味公私混同かな?
魔女の家。
「ちょっと出掛けてくるよ姫様。今日もお留守番お願いするね」
魔女はやる気を失っている。
もう魔王軍から狙われることもなく敵も追い払った。
後は国王からぐらいですが大体の居場所を知らせてる上に帰還命令もない。
今は宮殿よりも安全なここが一番だと国王であるお父様も考えているのでしょう。
だから平和。危険なのは森の動物ぐらい。
でも大丈夫。夜さえ避ければどうにでもなる。
そもそも夜は寝てますし。睡眠不足はお肌に大敵。
もしもの時には恐らくクマルが駆け付けてくるでしょう。
役に立つかはその時にならないと分からないのが情けないですが。
魔女も暇で平和な現状に自分の用事を優先し始めた。
元々魔女はお助けキャラ。でもやる気がそこまであった訳ではありません。
それにボクを家に閉じ込めておけば問題ないと考えてるよう。
でも暇だから出掛けることに。魔女の思い通りにはならない。
さあ後をつけるとしましょうか。
最近歩くことが多い魔女。
なぜ飛ばないのか聞いてみた。
答えはかなりシンプルなもの。
歩かないと体に悪いのとどうしても飛ぶ時に前屈みになるから負担が大きいそう。
しかも最近腰の症状が悪化したのだとか。だから近くは歩くそう。
反対に足やヒザは調子がいいみたい。
私としても後をつけられるので大助かり。
魔女の後を付けてちょっとしたクエストに飛び入り参加する。
ちょうどいい暇つぶし。
さあ今日は何をするつもりなのかな?
毒リンゴを持っていかなかったのでそれほど悪いことはしないでしょう。
でも気をつけないと罪なき人が犠牲になる。
それを事前に阻止するのもボクの役目。
外は爽やかな風が吹いている。暑くもなく寒くもなく気持ちがいい。
ハイキングにはもってこいの陽気。
ですがこれは魔女に気づかれてはいけない極秘ミッションで油断できない。
魔法の杖を突いて歩く魔女。
見た目は百歳を超えるお婆ちゃん。実際は何歳なのか?
聞いてもはぐらかすし。やはり女性に年を聞くのは失礼なのでしょうね。
妖精をお姉様と呼ぶんだから妖精も相当。
後ろを窺う様子はなく無警戒。
はあはあ
はあはあ
一体いつまで歩かせるつもりよ? もう三キロは歩いたでしょう?
そろそろ着いてもいい頃。いえ着きなさい!
願いを込める。
一軒の屋敷が見えてくる。これはすごい。
魔女は中に入るでもなく外で草取りしてる女性に話しかける。
一体何の話かな? ここからではまったく聞こえない。
「いいね? 迎えに行くからね! 」
最後の一言しか聞こえない。どうやら今夜待ち合わせするらしい。
何だつまらない。ただのお友だち?
それにしても若いような気もする。私と同じぐらいでしょうか?
魔女は立ち去る。まだ家に戻る気はないらしい。
どうやらお食事に向かった模様。しばらくはこの街にいるようだ。
さあではさっそく話を聞いてみますか。
「あの…… 」
「何でしょうか? 」
草取り娘がほほ笑む。この屋敷のメイドでしょうか?
続く




