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クマル三兄弟

宮殿にて勇者・ノアのターン。

隊長に復帰してすぐに魔王軍を迎え撃つ。

「隊長! 」

「お前たちは来るな! ボク一人で何とかして見せる」

宮殿を離れクマルを探しに行くことに。


部隊を引き連れて行けば余計な混乱を招くことになるからな。

だからここは一人でと思ったのだが肝心のクマルの奴が遅れている。

もう昼過ぎたと言うのになぜか一向に襲撃してこないクマル。

これではまるでボクが嘘を吐いてるみたいで落ち着かない。


充分あり得ることだがただ失敗するだけでなく宮殿にさえ辿り着かないパターン。

それがクマルだとしても不安は尽きない。早く攻めてこいと言いたい。

宮殿まで来なければ犠牲はないのでありがたいのだが拍子抜けするよな。

一体どこで道草を食ってるんだか。痺れを切らし見に行くことに。


確か…… こっちが魔王様の隠れ家がある洞窟方面だよな。

とにかく進む。すると突然上空から叫び声が。

何と上空で羽を広げた化け物たちが言い争いをしているではないか。

慣れないと恐怖で身がすくむが相手があのクマルだからな。怖くない。

そもそも隊長が怖いなどと言ってられない。


うん? クマルが三匹? これは一体どう言うことだ? 

分裂でもしたか? それとも三つ子? 

双子は現世では日常的に見ていたが三つ子となると珍しい。

ははは…… クマル三つ子説を唱えるとしよう。


いや待てよ…… そう言えばボクも三つ子みたいなものか。

見た目も性別も種族さえも違うが精神的には同じ存在。記憶を共有している。

おっと…… 今はくだらないことを考えてる時ではないな。

仕方ない止めてやるか。


「おい! お前ら何をやってる? 早く襲撃しないか! 」

隊長としてと言うよりも魔王様として叱りつける。

だが聞いてる様子もなく言い争いは収まりそうにない。

明らかに雰囲気が悪い。どうしたと言うのだろう? 

士気を高めてるようにも見えないし。ただの言い争い? 喧嘩?

まったく見てられない。


「お前は誰だ? 」

ようやくこちらの存在に気づいた生意気なクマル。

調子に乗って吠えるんだから。魔王様の前だと震えてロクに口も利けないくせに。

仕方ない。どうせクマルたちなら適当に自己紹介しても大丈夫だろう。

「ボクは魔王討伐隊のリーダーのノアだ! ついでに魔王様も兼ねている」

困った現状を正直に伝える。

国王にも一応は告白したが無視して話を続けられてしまった。

ではクマルだったらどうか実験することに。


「お前が魔王様であるはずがない! 魔王様を騙る不届き者め! 」

怒り狂う魔王様の忠実なしもべ。

それでこそクマル。立派だけどこっちの立場もあるからね。

「まさか魔王様を疑う気か? ううん? 」

プレッシャーをかける。

「いえとんでも…… ふざけるな! 」

どうやらまだ疑ってるらしい。まあいい。好きにさせておけばいい。

半信半疑ってところだろう。だがこれで少しは耳を傾けるはずだ。


「お前たちは言い争ってるみたいだが? 問題でも? 」

「お前には関係ないだろ…… 」

「魔王様にその態度は何だ! まあいい。それでお前らは何をやっていた? 」

目の前にクマルらしき物体が三匹。しかも言い争ってるから訳が分からない。

三匹いる種明かしを早くしてもらいたいもの。


「ははは! こいつらが先だと聞かないのさ。兄の俺が先頭だと言ってるのに」

クマルに兄弟がいた? 初耳だな。

意外にも兄として振る舞っている。そうするとこの弟たちはクマル以下?

いやいやそんな決めつけはよくないか。

「兄ちゃんがいつもおいしいところを取っていくから今日ぐらい! 」

「そうそう。僕たちただついて行くだけじゃん」

クマルに負けず劣らずの存在。

不満を述べる二匹のクマルもどき。どうやらこの様子だと兄弟喧嘩らしい。

襲撃直前に三兄弟で喧嘩とは何て情けないのだろう。

期待はしていたが想像以上とは恐れ入る。

クマルにどう命令したら作戦が成功するのだろう?


「情けない。このノア様が蹴散らせてやる! 」

プラチナソードを抜く。あの盗賊団を蹴散らせた代物。

切れ味は間違いない。さあクマルを仕留めるとするかな。

いつも余計な一言で魔王様を困らせるクマルにはきついお仕置きを。


「うわやめろ! 」

そう言って慌てたクマル兄弟はバラバラに動いた影響で翼をぶつけてしまう。

どれだけ間抜けなんだよ。

「痛いよ兄ちゃん! 」

「おい静かに! 」

クマルが兄らしく振る舞う。

翼が傷ついたことで戦意を喪失するクマル兄弟。


「おいトマル! イマルを泣かせるなよな。みっともない! 」

「でも…… 」

チームワークは最悪でバラバラ。

弟たちはもう帰りたがってる様子。

これでは襲撃などできるはずがない。

ではここで引き返してもらうかな。


「ボクは魔王様だ! それでも歯向かうつもりか? 」

クマルは考え込む。それでもボクは魔王様。その事実は変わらない。

「お前何を…… 何を言ってるのですか? 」

もはやクマルはどう反論していいのか迷っている。


「ボグ―! 」

つい怒りに任せいつもの口癖を。これでクマルも己の愚かさを思い知るはず。

「ひいい! 滅相もございません! お前らも謝れ! 」

「僕悪くないよ…… 」

「そうそう。この人が悪いんだって」

「そうか。だったら俺も…… 」

「するとお前らは魔王様が悪いと言いたいんだな? 」

怒り心頭気味の魔王様風の勇者・ノアを見て固まる三兄弟。


「では引き返してくれるな? 」

「仰せのままに! 」

こうしてクマル襲撃は兄弟喧嘩と魔王様の力でどうにか阻止。

大人しく帰って行った。

平和的に話し合いで決着がつき一安心。

これでいい。これでボクも再び国王からの絶大な信頼を寄せられるだろう。


宮殿に戻ると大歓声と拍手で迎えられる。

うんうん。これで隊長の意地は見せられたかな?


                続く

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