魔王討伐隊
ついに妖精に連れられて異世界へ。
さあこれでいい。これで目的が果たせる。
目的って言うのはもちろんあれのこと。魔王様になってストレス発散。
「どうした? 急にいなくなったと思ったら」
どうやら勇者に戻ったらしい。魔王様に戻りたかったのにな。
せめて姫にでも戻れていたら楽しい生活が送れそうなんだけど。
それなのに予定通り勇者に転生してしまった。
あーあ何だよこれなら急ぐ必要ないじゃないか。
えっとここはどこだっけ?
妖精の姿が見えない。
どこだ? ここはどこだ? 俺はどうしたらいい?
それにしても妖精との相性ってよくないよな。
「もう何をしてるのよあんた! 」
目を凝らさなければ見えない。存在感のない妖精。
この異世界の道案内役。口うるさくて敵わない。
「ほらこの人についていきなさいよ」
この世界について詳しく知りたいのに具体的なことは一切語らずにただ命令する。
やっぱり相性最悪だな俺たち。
「へーい」
列の最後尾に着ける。
妖精はまるっきり当てにならないから前の男に聞くことにする。
「なあ俺たちどこに向かってるんだっけ? 」
怪しまれたくはないが前回の続きなら問題ないはず。
村を出て仲間を見つけたばかりだろうから別におかしくない。
ただちょっと物覚えが悪い奴とでも思われるだけ。
ここは積極的に行こう。
「まったく何度も説明させるなよ。俺たちは今魔王討伐に向かってるんだろうが」
うわどうでもいい。しかも大変な上に疲れそうだし面倒なのは間違いない。
「ええ魔王ってあの怖い顔した女好きの? 」
ついさっき見て来た光景が脳裏に浮かぶ。
「ははは…… 女好きかまでは分からないが相当醜く恐ろしい化け物だと聞く。
しかもこいつの倒し方は国王様以外知らないというから厄介だ。
会っても決して戦おうとしてはいけないと隊長が言ってたぞ。
ただ女好きは初耳だ。お前面白いこと言うな。そう言うの嫌いじゃないぜ」
「それであんた誰だっけ? 」
「また忘れたのかよ? トレードだ」
どうやら隣村の奴らしい。
「ああ…… トレードね」
「まったく大丈夫かお前? それでは戦えないぞ」
「どっちだっていいさ。それよりもっと有意義なことしよう」
つまらないことに時間は使いたくない。できるならもっと楽しいことがしたい。
前回お預けを喰らったからな。
「ははは…… 何を言うんだ。魔王討伐は誉なこと。
民からの尊敬も得られるし何と言っても姫様をお守りする意味もある。
だから怖気づいて逃げるのは情けないぞ」
「いや…… 怖気づいたとかではなくもっと有意義にさあ…… 」
「それが怖気づいてると言うんだ! 」
うわ何を言ってるんだこいつは? 俺は絶対に間違ってないぞ。
勇者なんて古いんだよ。ここは楽しまなくては損。名誉も姫もどうだっていい。
「あんなに勇敢だと噂のお前が。やはり口だけなのかお前も? 」
奴は真面目で勇者の鑑だがこれでは己を見失ってしまう。
「ははは…… 気楽に行こうぜ」
「お前おかしいぞ。いいから早く来い! 」
そう言うと無理やり引っ張っていく。勇者仲間だからってそれはないよな。
「ねえこれどう言うこと? 」
妖精は他の者から姿が見えない。
理由としてはこの世界の生物ではないから。
俺も少し前まではそうだったがこの世界の住民になり勇者にまでなった。
「あんた何を嫌がってるのよ? 」
怖い顔の妖精さん。俺はただ従うのみ。
「だって面倒だからさ。せっかくだったらもっと自由に楽しく行きたいよ」
我がままかもしれないがこれくらい当然の権利だ。
「好きにしたら? 誰も知らない異世界で自由に暮らすにはお金が掛かるけどね」
妖精は身も蓋もないことを言う。
これはファンタジーの世界なんだからその辺適当でいいと思うんだけどな。
「でも…… 」
「ほら早くしなさい勇者さん。お仲間が呼んでるわよ」
情けないが妖精に説得されて前に進むことに。
「大丈夫。役割果たし世界が平和になったらあなたの言う自由な生活が待ってる」
妖精はやる気を削がないようアドバイスを送る。
「本当かよ? 」
「いい? あなたは女神様の善意で転生を果たしたんだから感謝して励みなさい」
「おい置いて行くぞ」
仲間に急かされ後ろについていく。
「なあこれからどこに行くの? 」
「あんたが勇者ならこの後はお決まりの国王挨拶。後は国王にでも聞けば? 」
やる気のない案内役の妖精。
やっぱり面倒臭いな。この辺で昼寝でもしたいな。
悪い。ここで抜けるぜ。
「ちょっとあんた何をやってるのよ? 」
妖精はカンカンだがまだ眠気が取れてない。
勇者は危険と隣り合わせ寝不足は命取りになる。
早く戻るように促す妖精を無視して戦線を離脱し草原でひと眠り。
では異世界でのんびりしますか。
まったく誰が勇者なんかやってられるかよ。
この辺で単なる村人として暮らせばいいさ。妖精の言うことなんか聞くもんか。
俺は自由だ。俺は自由なんだ!
おやすみなさい。
続く