現実逃避する女神様
魔王様の隠れ家。
「ボグ―! 」
「ああ目を覚まされましたね。カンペ―キが先ほど任務を終え戻って参りました」
「通せ! 」
現在非常に難しい舵取りをしている。
カンペ―キを使い宮殿襲撃の不届き者を追い払う。
そしてクマルを使って改めて襲撃する。
どう考えてもおかしく無理があるのだがカンペ―キは有能だから問題ない。
逆にクマルも無能だから必ず襲撃に失敗してくれる。
ライバル視してる二人が協力することもなく互いに連絡を取り合うこともない。
それぞれがきちんとこの魔王様の望み通りに動いてくれることを期待。
「魔王様。カンペ―キであります! 」
跪き忠誠を誓う男。
さすがはカンペ―キ。そつがない。
「おお戻って来たな。それで首尾は? 」
「はい。宮殿に向かった数名を除き蹴散らせてやりました。
本隊は離脱。一目散に逃げ帰った模様。残りの者を捕縛した次第です」
完璧だ。一部の隙もないカンペ―キ。まさかこれほどとは。
問題は捕縛者たちの行方。果たして奴らはどうなってしまうのか?
それだけが気がかり。戦利品としていつものように宴の材料となられても困る。
とにかく秘密裏に解放するとしよう。
「よくやったぞカンペ―キ! ゆっくり休むがいい」
「ははあ! 」
さすがだな。全滅させないところも考えてる。暗くなってから動いたのも立派。
我々が仲間だと思われては困る。決して奴らを守るつもりはない。
ただ契りを交わすまでゴタゴタは避けたい。その一心から。
当然本心ではない。しかし魔王様としてはこれが限界。
魔王軍にも国王軍にも真意を悟られてはならない。
問題はクマルの方だな。思い通りに失敗してくれるといいんだが。
まあいい。まだ眠い。もう一度眠りにつくとしよう。
始まりの地。
<迷える子羊よ。さあ祝福を受け取りなさい! >
いきなり始まった女神様の戯言。
<再び一つになるのです! >
ダメだ。無理強いされてもできることとできないことがある。
「女神様。何か分かったんですね? 」
<滅亡します。この世界は滅亡する運命なのです! >
とんでもないことはっきり言うよなこの女神様は。
そんなことぐらい言われなくても分かってるんだって。
「どうすれば…… 祈りを捧げればよろしいのでしょうか? 」
<それですと祈りを捧げてる間に滅亡してしまいますよ>
女神様は祈りを否定する。ではどうすればいい?
「何か新発見があったから呼び寄せたのではないのですか? 」
少しでも早くこのイカレタ世界を救えたらな。
今はそれだけを考えている。
<ああ迷える子羊よ。どうぞそのまま>
「女神様! 女神様! 」
いくら呼び掛けても答えはしない。
様子がおかしい。一体どうしたのだろう?
「ああ気にしないで。女神様は現実逃避を始めたのです」
妖精が代わりに説明する。
「自分のせいだとえらく落ち込まれて。それはそれは大変だったんだから」
「女神様なのに? 」
「女神様だからでしょう。心の澄んだお方でこのようなことに不慣れなところも」
「それで俺はここに戻って来たんだけど? 」
「それはあなたに注意を与えるため」
「注意? 」
「今日までは比較的時間通りに交代しましたがこれからはそうはいかない。
いつどこでどの順番かはもはや誰にも分からなくなっている。
短くもなるし長くも。時間や日にちもバラバラ。
今が誰でどの時間なのか大変分かりにくい。だからきちんと対策してね。
ある日を過ぎると交代できなくなるから気をつけるように」
「おいおい! ある日っていつだよ? 交代できなくなるってどう言うことだ?」
妖精に喰ってかかる。
「前にも言った通り。それ以上はまだ何とも…… 」
「でも交代できないってのは完成するって意味じゃないよな? 」
「恐らくこれが最後の交代。次はないと言う意味」
「益々分からないんだが? 」
「限界が来たの。次に移ると前の物体には戻れなくなる。
そうなってから二十四時間以内に歪なその世界は終わりを迎えることに。
その前に誰かを選択するしかない。これもすべて推測の域を出ない。
その日が来れば分かること。今は恐れずに精一杯生きるのです」
妖精が女神の代わりをする。
「しかし女神様! 俺はどうすれば…… 」
妖精では余計に混乱するので女神様に直接問う。
<迷える子羊よ。さあこの女神に飛び込むのです! >
ダメだ。女神様は完全に現実逃避している。もう戻って来ないかもしれない。
やはりもうボクたちに未来はないのか?
この世界に祝福を!
異世界消滅まで残り僅か。
新たな扉が開かれる?
魔王様の隠れ家。
「ボグ―! 」
「どうされましたか魔王様? 」
つい怒りによって目が覚める。
女神様たちが言うことは滅茶苦茶で理解しようにも無理がある。
現実逃避してるってどう言うことだよ?
おっと…… それはそれ。これはこれ。
でも待てよ。魔王様はイカレてるから世界征服でなく消滅させることだったよな。
それが何で姫と婚姻することになるんだっけ?
「おい! 我々の最終目的は何だ? 」
魔王様の目的が分からないので質問することに。
だが魔王様のプライドがあるからかどう聞いていいやら。
下手に出るのが苦手。これは自分ではどうすることもできない。
「それはもちろん世界征服でございます」
「うん? この世界をデストピアに変えるのだろう? 」
「おっしゃる通り。そのためにまず世界征服をするのです。
邪魔になりそうな者をあらかじめ排除する。それが今回の襲撃計画でございます」
さも当然と言った表情を浮かべる。
「であるならなぜ姫と結婚せねばならない? 」
結局はこれが問いたかったんだよね。
どうもこの辺りのことを誰も教えてくれないんだよな。
女神様にしろ妖精にしろ魔女にしろ。
続く




