賭け
引き続き宮殿地下。勇者・ノアのターン。
暇なので孤独な見張りの話を聞いてあげることに。
何でも今ここは敵の攻撃を受けてるそう。
どうやら小国の王の部隊が攻め込んで来たらしい。
奇襲攻撃で対応が後手に回ってるのだとか。
元隊長としては気にならないはずがない。
ただこれも予定通り。カンペ―キに任せておけば心配ない。
「心配するな! 突破されることはない。明日には解決してる」
「ははは! それはどうかな? 儂は奴らにやられると思うがな」
隣の牢の爺さんは負ける方に賭けるそう。無謀な賭けだこと。
「爺さんがそう言うなら俺も! 」
面白そうだと二人が爺さんに乗る。
残った二人はそんなお遊びに付き合ってる余裕がないのか寝てるのか反応がない。
「バカか? こっちは勝算があって言ってるんだ! 元隊長を舐めるな! 」
ここは強く出る。すべて事前に聞かされていたこと。慌てることもない。
国王様にも念のためにお伝えした。問題ないだろう。
「よし面白い。だったら負けたら飯抜きだからな! 」
反対派はなぜかボクの処遇についてのみ言及する。
冗談じゃない! そんな無意味な賭けを誰が! 話にもならない。
いや待てよ…… 意味はないがもしかしたら意図があるのか?
「お前らは仲間にここから救い出してもらいたいんだろう?
要するにお前ら三人は裏切り者ってところか? 」
「想像に任せるよ。それより飯抜きは守ってもらうぜ」
つまらない約束を迫られ辟易。
「だったらボクが賭けに勝ったら子分になってもらうぞ。
しかも絶対服従の子分になってもらう。それでもいいならその勝負受けて立つ!」
一応は腕っぷしと諜報活動に精通してるはずだから役に立つだろう。
ただし裏切ることもあるのでそこは慎重に。
「いいぜ。でも逃げ帰ったら俺たちはそのまま薄暗い牢獄の中」
賭けになるのかと心配してくれる始末。
「それはどうでもいい。子分として忠誠を誓え! 」
「まあそこまで言うなら受けて立つ! 」
こうして暇つぶしの賭けに興じる。
退屈していたところ。これくらい問題ないさ。
「お前らいい加減にしろよ! 」
見張りに睨まれる。
「よいではないか。ほれあんたもどっちかに賭けてみい」
爺さんが見張りを引き込む。
「そうだな…… さすがに襲撃が成功したら俺の身も危ない。
当然この元隊長さんに賭けるさ」
散々バカにしておいて俺につくとは情けない。
まあいいか。それが賢い選択だ。
こうして無為に過ぎていく。
夕暮れ迫る大地に二つの影。
はあはあ
はあはあ
魔女は行きとまったく同じルートをたどる。
さすがに気づかれてはまずいので魔女の後ろを歩く。
しかしそれではどうやっても先回りできない。
危険な近道へ。
獣道となっており何がいるか分からない。
前後左右の確認は怠らない。それでも危機を回避できるとは限りませんが。
どこからか遠吠えがする。
近い。どんどん近づいている。どこ? どこなの?
オオカミ? 野犬の群れ? その他の動物?
前にばかり気を取られて後ろから迫る獣への反応が遅れる。
情けない。でもお姫様ですからこれも仕方ないことです。
うがあああ!
何と後ろから追いかけて来るのはクマ。
しかもかなりのスピード。
こちらが走っても走っても追いかけて来る。
崖に追い詰められた。どうやらもう逃げ道はないらしい。
ここは思い切って体当たり? でもそれでは確実にやられてしまう。
ボクはか弱いお姫様。あちらはお腹を空かせた野獣。
後退りをしたところで崖から大小の石が転がっていく。
絶体絶命の大ピンチ。姫様は果たして逃げ切れるのか?
バサバサ
バサバサ
突如上空からクマめがけて化け物が突撃してくる。
その存在に気づいたのか全速力で逃げ帰っていくクマ。
ふう危なかった…… どうやら助かったみたい。
「まったく何をしてるんだこの姫様はよ! 世話が焼けるぜ」
ここぞとばかりに嫌味を言うモンスター。
そう命の恩人はまさかのクマル。
らしくないとかそう言うレベルじゃない。
モンスターが人間のためにクマに襲い掛かるなんて常識では考えられないこと。
「ありがとう。クマル」
「あれ俺の名前知ってたっけ? まあいい。婚姻の儀式まで大人しくしてろよな」
意外にもクマルがまともなことを言う。
「はい…… それであなたは何をしに来た訳? 」
「それはお前には関係ない! 極秘命令で動いてる。余計な詮索はするな! 」
怒らせてはいけない。せっかくの命の恩人。丁重に扱わなければいけませんね。
「分かった。それでクマルは何をしようとしてるの? 」
「だから魔王様の命令で宮殿襲撃…… おっと調子に乗るな!
早く帰れっての! まったく世話の焼ける女だな」
「今度は失敗しないようにね」
「クソ! 早く帰りやがれ! 」
そう言って去って行った。
どうやら明日にでも宮殿を襲撃するのでしょう。
でもきっとクマルのことだからどう足搔いても失敗するのは目に見えている。
今から言い訳が楽しみ。
廃屋へ。
急いで戻るもあとちょっとのところで間に合わずに明かりがともる。
裏口に回って事なきを得る。
「あれ姫様…… いつの間に? 」
「あなたが帰ってるところが見えたのでいたずら心で隠れてみた」
どうにか下手な言い訳でごまかす。
「もう姫様ったら子供でもないのに情けないね。それからその格好は何? 」
着替えてる暇はなかった。クマに追いかけられ必死に逃げたので泥だらけのまま。
「いいでしょう? 暇なんだから」
「はいはい。それで誰か訪ねて来なかったかい? 」
「知らないわよ! 」
「本当に世話の焼ける…… さあ一緒にシャワーでも浴びようかね」
うわ…… 嬉しくない誘い。
「一人で大丈夫。ついてこないで! 」
こうして魔女追跡の旅を終える。
続く




