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女の子の悲鳴

ドンドン

ドンドン

魔女が姿を消したのを見届けてからすぐに押し掛ける。

「はい? どちら様ですか? 」

呑気な女の子が姿を見せる。

思った通りこのアーノ姫に迫るほどの美しさ。

ですがみすぼらしい格好が魅力を半減させている。

これでは人…… 特に素敵な殿方が近寄ってこない。


そうだ。ボクのお古を着せてあげればその魅力が最大限に引き出され人気者に。

そうなれば殿方からだけでなく魔王様からも目を付けられて……

いけない。ボクは一体何を考えているのだろう? 

これではまるで身代わりになってもらおうとしてるみたいじゃない。

何て浅はかで自分勝手なんでしょう? 

仮にこの子が魔王様に適任だとしても絶対に勧めてはいけない。


「申し訳ありません。見習い魔女のヒーメです。実は配るリンゴを間違えまして。

こちらが本物です。さあお受け取り下さい」

「はあそれはご丁寧にどうも。ではお茶でも…… 」

「いえ結構です。それよりも一口かじっていただけませんか? 確認のために」

こうしてゴールデンアップルを渡し毒リンゴを回収した。

これでいい。これでいいんです。

正しいことをした。この子を恐ろしい陰謀から守った。

さあ気持ちよく帰りましょう。


一口食べたところで泡を吹く女の子。

一体何が? まさかこのゴールデンアップルが毒リンゴ?

魔女の仕掛けた罠だったとでも言うの?

まさか本気でボクを亡きものにしようとした?

だったらなぜクマルから守ったりしたの? 

その時放っていれば自らの手を汚さなくても……

混乱に乗じて始末することだって。二人きりの時ならいくらでも。

魔女なのだから手はいくらでも打ちようがある。

それなのに毒リンゴを使ってボクを始末しようとするなんて…… 

分からない。どうしてなの?

信じていたのに酷い! すべてを知るボクのよき理解者だと思ったのに。


それならこのリンゴは毒リンゴではなくただの見かけの悪いリンゴ? 

何てことをしてしまったの? ああ後悔してもしきれない!

間違って毒リンゴを与えるだなんて。これでは魔女と何一つ変わらないじゃない。

いえそれ以下。もうどうお詫びすればいいか分からない。

わざわざこんなところまで来て毒リンゴを渡すだなんて。

とは言えここは切り替えて冷静に対処しなければ。


「大丈夫ですか? 」

大丈夫なはずありませんよね? 泡を吹いてるんですから。

あれ何か言ってる。口をしきりに動かしている。

まさか何か伝えようと? ただの姫では荷が重すぎます。

誰か…… いるはずありませんよね? こんな森の奥に人など。

でもやっぱり放ってはおけません。どうしよう……

馬車があれば運べるかもしれませんが今は急を要するし……

とりあえず屈んで声を拾う。今できるのはそれくらい。


「何です? 聞こえない! 」

「あああ…… 」

「もう少しはっきり! 」

「おじ! おじ! 」

「おじって何? もっとゆっくり! 」

「小っちゃなおじさん! 」

どうも一緒について来てしまった覗き体質の小っちゃなおじさんに驚いたらしい。

まったく人騒がせなんだから。


手を取り立ち上がらせる。

「ごめんなさい。つい驚いちゃって。リンゴはとてもおいしかったですよ」

心配させて…… まだ泡が口元に。驚いた目も怖い。表情豊かな女の子。

とりあえず巨大ないわくありげな鏡の前に立たせ確認してもらう。

どうやら本当にもう大丈夫らしい。


「鏡よ鏡。この中で一番美しいのは誰だい? 」

安心したのでつい悪ふざけをしたくなってしまう。

「泡を吹いてる方だよ! 」

何と鏡が喋った。

「きい! 何ですって! この姫様ではないと言うの? 」

「ははは…… 心が穢れている。まるで魔王のようだ」

正直な鏡さんは心まで見てとれるらしい。そうなると文句も言えない。

あれ? 肝心の女の子がいない。

また倒れてる? 鏡が喋ったら確かに倒れたくもなるか。


ざわざわ

ざわざわ

小っちゃなおじさん改め愉快な小人が踊りながら女の子を取り囲む。

何やら言い争いをしているみたい。どうしたのでしょう?

ううん…… 

女の子は意識を取り戻しつつある。

これで任務完了。

恐らくこれからは鏡を捨て窓は全部閉めることになるでしょう。

さあゆっくりしていられない。魔女が帰る前に戻らないと。


ざわざわ

ざわざわ

どうやら話し合いが終わったらしい。

黄色の帽子を被った小っちゃなおじさんが女の子に人工呼吸を施すらしい。

うん。もう付き合ってられない。さあ戻りましょう。

基本的にこの小っちゃなおじさんは害なさそう。ただ心配してるだけみたい。


後を任せて急いで帰路に就く。

女の子の家からは悲鳴がいつまでもいつまでも。



宮殿地下牢。

囚われの勇者・ノア。

うーん。やることがない。

このままのんびりしてるのも悪くないか。

どうせ隊長の任は解かれただろうからな。無理することないさ。


「おい飯だぞ! 」

どうやら夕食にありつけるようだ。

ありがたい。できればもう少し豪勢だと文句ないんだけどね。

野菜ばっかりで体にはいいと思うけど。

「おい肉はないのかよ? 品ぞろいの悪いところだな! 」

「文句言える立場かこの田舎者! 」

隊長となり皆から尊敬されるようになってそんな暴言吐かれる事なくなったのに。

またここからやり直しか?

汚らしい地下牢でお食事。しかも肉がないと来た。

まったくやってられないぜ。


地下牢には現在五名がそれぞれ入っている。

奴らは一体何をやらかしたのやら。

「それにしてもお前は呑気でいいな。元隊長さん」

からかいやがって。俺が復活できないと思ってやがるな。

事実これでは無理だろうが。それは普通の人の場合。

ボクは生憎普通じゃない。あらゆるところから情報が入って来るのさ。

頭に入れたくなくても勝手に入ってきてしまう訳だが。


「だから肉をくれって! 」

「甘えるな! 今ここで起きてることを教えてやろうか? 」

この見張りは孤独なんだろうな? 誰にも相手されず囚人相手に虚勢を張ってる。

能力が低いものだからこんなところに送られて。ああ情けない。

同情はするが少しはボクを敬わないと後が怖いぞ。どうせすぐ復帰するんだから。

「はいはい。勝手にどうぞ」

焦らす。別にどっちだっていい。でも話したいと言うなら無理に止めない。

どうせ今はすごく暇なんだから。


「今必死に敵の侵入を食い止めてるがあの小国が攻めて来やがった」

報告通り。これはカンペ―キの担当だ。

「大丈夫だって。今日中に片が着くはずだ」

極秘情報。一応は国王様のお耳にも入れておいたから心配ないはず。

魔王様の期待に応えてカンペ―キが追い払ってくれるだろうさ。


               続く

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