魔女の企み
引き続き廃屋。現在お付き不在。
姫様暇過ぎて魔女にいたずら。
「この馬鹿女! 」
魔女の格好をした老女がキレる。本性を現したな。
お助けキャラの魔女を怒らせて何の得があるのでしょう?
でもやっぱり暇だからこれでいいんですよね?
「落ち着いて。ほら顔を洗って…… 」
「何てことをするんです? せっかくの薬を…… 」
怒りに震えて緑色の顔を向ける。どうやら睨んでいるよう。
真剣であれば真剣であるほど笑いを堪えられない。
ぷぷぷ……
もう止まらない。
「あははは! もうダメ! おかしい! その顔は何ですか? ははは! 」
つい下品にも大笑いをしてしまう。
「もう知らない! 助けてあげない! 」
ちょっとしたことで二人の関係に亀裂が入る。
「ごめんってば! ボクが悪かったって。反省してます」
ここで彼女の助けを失えば本当に一人になってしまう。
だから誠心誠意謝る。そうすればきっと彼女だって許してくれる。
まったくどこの魔族よ。ふふふ……
ダメだ。見てはいけない。考えてはいけない。
もしこれ以上笑えば本当にお助けキャラを放棄しかねない。
見た目はもうお婆さんなのに気持ちはまだまだ子供なんだから。
「それでこれは何を作っていたの? 」
さっきから気になって気になって仕方なかった。
「これは毒薬作りです」
何てものを作ろうとしてるんでしょう? 危険極まりない要注意人物。
「毒薬ってまさか…… 」
「リンゴに注入するために作ってたのさ。それをあんたが台無しにしたんだよ!」
まだ怒りが収まらないらしい。
「それって危険では? 」
「まあ紫色になるでしょうね。でも問題ありません。何と言っても毒だから」
「まさかその毒リンゴを私に? 」
震える。気付かずに毒リンゴを食べたかもしれない。
何てことでしょう? ダメ…… 恐怖で動けない。
「いえ…… これは別依頼ですよ。何でもどっかの生娘に食べさせるんだとか。
詳しくは聞かないのがマナー。あーあ。もう一度作り直さないと」
そう言って着替えに行ってしまった。
何だそんなことだろうと思った。
どうやらボクは偶然にも人ひとりを救ったらしい。
あのまま放置していれば悲劇が起こったことでしょう。
さあ魔女がいなくなったことだしゆっくりお散歩でもしましょうか。
自由気ままな姫様であった。
魔王様の隠れ家。
「魔王様大変でございます! 」
「今度は一体何だ? まったく騒々しい奴め」
「ボグ―は? 」
「ボグ―! 」
こいつめ魔王様を舐めているな? 後で恐怖に震えさせてやる。
「それが敵国が宮殿に向かっています! 」
どうやら動き出したらしいな。
「それがどうした? 我々には関係ないだろ? 」
「ですがそれは魔王様が逐一知らせろとおっしゃったのではありませんか」
大慌てするほどではない。だが姫との婚礼を邪魔する者には消えてもらう。
「よしカンペ―キを呼べ! 奴に指揮を執らせろ!
目的は敵国のせん滅だ。これ以上余計な者を近づかせるな! 」
「ははあ! ではそのように手配いたします」
「それでどれくらいで宮殿に着く? 」
「そうですね。このまま順調に行けば二日後には」
タイムリミットはそれまでか。
そこまでに勇者が戻って来れるかがカギ。隊長がいなければ士気にも関わる。
カンペ―キを配してもすり抜ける恐れもある。
ここは国王へ伝えるべきだろうな。
田舎にて。
「おいそこの者? この女を見なかったか? 」
似顔絵を渡す。これは宮殿に仕える絵師に書いてもらったもの。
時間がないので歩いてる者に片っ端から聞いて回る。
「知らないね」
「ここにはいないよ」
「他を当たりな」
どうもここの者は非協力的だ。
「国王様が褒美を与えると言っているぞ」
適当に話を作る。だが国王様もお許しになられるはず。
釣られた者が貴重な情報を与える。
「その人ならこの道をまっすぐ行ったところの集落で見かけたぜ」
鍵係は帰省したと言っていたが本当だったらしい。
仮病を使ったと言う噂もあったので不確定だったが。
道を歩く小さな男の子に話を聞く。
「この人を見なかったか? 」
「ああそれならオラの姉ちゃんだよ」
末弟だそう。
「姉ちゃんを呼んできてくれないか」
あえてお邪魔するのも悪いしな。目的は彼女の鍵だしな。
姉を連れて戻ってきた弟に金貨をやる。
大喜びの弟は家の中へ。
「あのどのような御用でしょうか? まさか連れ戻しに来たのでしょうか? 」
疲れ切った様子の女性。確かに似顔絵通り丸っこいが少々やつれて見える。
「済まないが急用だ。コレクションルームの鍵を持ってるらしいな」
「ああ! ついうっかり! お待ちください」
そう言って五分ほどすると銀色に光る物体が。
どうやらこれが宝箱の鍵らしい。
「申し訳ありません! どうかご勘弁を! 」
「いや勘弁ならん。このプラチナソードの切れ味をたっぷり味わうがいい」
「お助け! 」
「ははは…… 冗談冗談だ。次から気をつけろ! 」
どうせまたこの様子だと繰り返すだろうが。次は関係ないしな。
その時世界がまだ存在するならいくらでもうっかりすればいいさ。
こうしてようやく鍵を手に入れた。
まったく余計な手間を取らせやがって。
さあ戻るとしましょうか。
馬車は宮殿に向けて走り出した。
続く




