魔王様は女好き
女神様の言いつけを無視して三度目の夢を見る。
魔王軍の住処。
手際のいい手下の計らいでストレス発散。
パンパンと手を叩くとすぐに女の子たちに取り囲まれる。
「さあ楽しみましょう魔王様! ほら早く! 」
腕を取られ連行されそうになる。何て強引な。
「ははは! 魔王様も形無しですな。ではお楽しみください」
そう言うと気を利かせて姿を消す。
こうしてゆっくりストレス発散にかかる。
「魔王様! 」
「うわちょっと…… 」
いい気分。でも興奮するとすぐに夢が覚めてしまうからな。
ここはじっくりゆっくりと冷静に。焦る必要はない。
「ほら魔王様。脱いじゃえ! 脱いじゃえ! 」
「魔王様。恥ずかしがってかわいい」
「私も体を触らせてよ」
とんでもないのに囲まれてしまう。
五人の女の子は皆かわいくて明るい。
これだけいれば微妙な者も紛れ込むだろうにルックスは間違いない。
最高クラスを呼び寄せるとはさすがは忠実なしもべだけのことはある。
これは無下には断れないな。ははは……
「おい何をする? それは服などではないわ! 」
マントの下にはぎっしりと毛が生えてる。
それをむしり取ろうとする勢い。
さすがに魔王様だから痛いと泣き言は吐けない。
だがいくら魔王様でも痛い。痛いものは痛いのだ。
まだこの体に慣れてないからとも言えるかな。
「魔王様お脱ぎにならないのですか? 」
人間の女にはここ最近ご無沙汰していた。
だから飢えている。そう自覚している。
「ははは! よかろう。もっと楽しませてみよ」
つい羽目を外してしまう。まあいいか。魔王様だしな。
「魔王様が脱がないなら私が! 」
「それなら私だって! 」
「何を言ってるの? ここは自分から! 」
魔王様を目の前にケンカを始めてしまう女の子たち。
へへへ…… 仕方ないな。
これは決して俺の意思じゃない。不可抗力なのだ。
ボグ―!
つい興奮して雄たけびを上げる。これは嬉しい時に自然と出てしまうもの。
「もう驚かして…… 怒ってるの魔王様? 」
「ははは! そんな訳あるか。嬉しいのだ。分かるだろう? 」
笑って余裕のあるところを見せる。
「もう魔王様の意地悪! 」
「ははは! 許せ。許せ」
誤解されることもなく一緒に笑って流してくれる。
いい気分だ。こんな気分はいつ以来だろうか?
もう思い出すのも難しいぐらい遥か昔のこと。
そもそも現世の記憶がどんどん抜け落ちていってる気がする。
もう思い出すこともない過去の過去。そんな前のことなんてどうでもいい。
「では一斉に脱ぎましょう」
どうやら魔王様はモテモテなよう。
ああ興奮してきたぞ。
せーの!
へへへ……
始まりの世界。
覚醒。
いきなり女神様の怒りの声で目が覚める。
ははは…… やっぱりね。こうなると思ったんだよね。
<まさかあなた眠ってしまったのではありませんよね? >
妖精と二人で慌てている様子。
まずいな。寝ていたことがバレたらただでは済まない。
「ははは…… 寝てませんよ。ただ疲れたので横になっていただけです。
足を曲げて横になってると寝れないものです。それよりも早く夢の世界へ」
怪しまれることなくやる気をアピール。さりげなく先を促す。
<そうですよね。女神である私が疑ってどうしようと言うのでしょう?
ああ…… これは大変失礼しました。反省しております>
「でもこの人さっきも怪しい動きをしていましたよ。
果たして真に受けてもいいのでしょうか? 」
目ざとい。遅刻魔の妖精が言うセリフではない。
偉そうに言うが大体お前のせいだろう?
<いいのです。もし嘘を吐いていても大変な目に遭うのは彼自身なのですから>
意味深なことを言う女神様。まさか俺は追い詰められている?
「そうですが女神様…… 私はどうも嫌な予感がしてなりません。
そもそもこの男はあまり信用ならないんですよね」
<いけません! 疑うなどあってはならないのです。さあ彼を信じましょう>
ふふふ…… 妖精の直感が当たっているな。
しかしどんどん追い詰められていってる気がする。
ここは正直にすべてを告白し許しを請う方がいいのでは?
現世では俺はそれほど悪い人間ではなかったはずだ。
ただ睡眠不足が祟ってこんな事態を引き起こした。
睡眠の重要性を改めて認識する。
だがそんなことはどうだっていい。早く戻してもらわないと続きが楽しめない。
「女神様早く! 俺はもう待ちきれなくてうずうずしてるんだ」
「はい。ではさっそく行きましょうか。この方を導いてくださいね」
ついに妖精に連れられて異世界へ。
さあこれでいい。これで目的が果たせるさ。
今までは要するにお試し期間だった。それが本格的に異世界へ。
選べるなら勇者よりも姫や魔王様の方がいいかな。
そんな風に思える濃密な時間だった。
続く