襲撃
引き続き勇者・ノアのターン。
馬車はぐるっと大回りする。
そこに怪しい影が近づいて来る。
「おい止まれ! そこの馬車止まれ! 」
まずい。盗賊団のお出ましだ。
「どうましょうお客さん? 」
震えるおじさん。ベテランなのに慣れてないらしい。
「人数は? 」
「見える範囲で三人。陰に一人二人いるとしても多くて五人ってところです」
さすがはベテラン。人数把握はお手のもの。できれば解決策も示して欲しいな。
「どうする? 戦える? 」
一人より二人の方がマシ。相手は五人だから三人は倒さなければならない計算。
「ひええ…… 無理です。戦えません! 」
三十年以上の大ベテランなんだからもう少し知恵を絞ってどうにかしてくれよな。
この馬車がどうなっても知らないぞ。
「だったら逃げろ! タイミングを見て逃げるんだ。分ったな? 」
足手まといになられても困るので逃がすことに。
盗賊も二手に分かれればターゲットが絞りにくいはずだ。
混乱に乗じて逃げるのがベストだろうがそう簡単にはいかないだろうな。
仕方ない。引きつけるだけ引きつけるとするか。
ボクも少しは隊長らしくなったかな?
「済まねいな。あんたは? 」
「一応は魔王討伐部隊の隊長だからな。逃げる訳にはいかない! 」
雑魚になど興味はないが歯向かう者には容赦しない。
さあ来るがいい! このプラチナソードの威力を思い知らせてやる!
こんな時のために一本用意しておいた。まさかもう使うことになるとはな。
実はこのプラチナソードはコレクションルームから拝借したもの。
一点ものらしいので相当な値打ちのはず。
ただ振ったとは言え素振りを数回しただけ。
試し切りさえまだだ。威力もよく分かっていない。
抜刀して構える。
ドンドン
ドンドン
囲んだ輩が痺れを切らし馬車を揺らす。
「おい出てこい! 出てこいって言ってるだろ! 」
板についてるな。この辺を縄張りに悪さを繰り返してるに違いない。
さあどうするかな? タイミングが難しいんだよな。
散々催促。馬車が使いものにならなくなっても困るので大人しく従う。
では馬車の後ろからゆっくりと。
「こっちに完全に目が行ったら逃げてくれ。ではまた会おう」
「承知しやした! 」
「急いでるんだがな」
そう言って男たちの気を引く。
「俺らとやる気か? そのなまくら刀でよ! 」
「へへへ…… 震えてるじゃねえか」
吠える男たち。どうやらこの剣だけでは戦意喪失とはいかないらしい。
「戦ってもいいが意味があるのか? ボクは異常に強いぞ」
ハッタリをかます。当然剣など今まで触れたこともない。ペンはあるけどね。
「ボクだとよ。情けない奴だな! 」
「お前ら。からかうのはそれくらいにしておけ! 」
どうやらこいつがこの集団のリーダーらしい。
子分たちをまとめてる。その凶悪な面だからな。当然従うよね?
「ボク…… もっと広いところでやりたいな」
「ははは! 好きにしろ」
「済まない」
そう言って未舗装の上り坂を全力疾走。
追いつけずに後ろに着く形となる輩。
「バカやめろ! 近づきすぎるな! 」
察知したリーダーが指示を送る。
だがもう遅い。どうすることもできないさ。
一人一人になったところで振り向いて勢いよくぶった切る。
うぎゃああ!
二人がプラチナソードの餌食に。
うわ…… 思っていたより切れ味あるな。
もう少しさび付いてるかと思ったが手入れは完璧。
残りはリーダーを含めて三人。数的不利は変わらない。
遠くの方で影が動き出した。どうやら男は逃げおおせたらしい。
これで心置きなく戦える。だがこれ以上の犠牲はもはや不要。
「おいお前たち。ここで引くなら見逃してやる。生憎ボクは暇ではないからな。
しかも自分のせいで世界が消滅するかもしれない時なんだ。
雑魚と遊んでる暇もなければその精神的余裕もない。察してくれないか? 」
憂さ晴らしに剣を振るうのは間違っている。剣士として恥じぬ行動を取りたい。
「分かってくれるな雑魚ども? 口が悪いがこれも個性と思って受け取ってくれ」
黙ったので畳みかける。
「ふん舐めた野郎だ。いくら命乞いしようと見逃すものか! 」
どうやらリーダーは頭が悪いらしい。
この状況でまだ戦おうとするなど無謀。どうかしてるよ。
これでは仲間が全滅してしまうではないか。リーダー失格だな。
「一応は説得した。ではどうぞ」
うおおお!
一斉に三人で掛かってくる。
うわ…… それはないよ。
ではまずはリーダーからいきますか。
リーダーは安い刀で戦いに臨む。もちろんそれではすぐに折れるのが自明。
リーダーに一振り。これで動きを封じ込める。
「おおお…… 」
リーダーを失った二人は戦意を喪失。
一人は腰を抜かし地面に転げる。
「悪いな。急いでるのでこれで失礼するよ」
だが後ろを向いた瞬間に切りかかる往生際の悪い残党。
仕方なく切り刻む。
これで残り一人となった。
「どうする? まだやるか? 」
首を振る生き証人。
「だったら道案内をよろしく」
震える情けない男を馬車に乗せる。
その様子を見ていたおじさんが戻ってきた。
「あんた強いんだね。人は見かけによらないね」
「いや違う。この剣がすご過ぎるのさ」
たぶん魔王の経験がいきたんだろうな? 何一つ動じなくなった。
こうして馬車は何ごともなかったかのように目的地へ。
続く




