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魔王様撤回せず!

魔王様の隠れ家。

この世界で猛威を振るう眠り病。

原因不明で民を恐怖させる流行病。

人へ感染することはないらしいがあちこちで眠り病と思われる患者が急増。

現在予断を許さない状況。

これは天変地異の前触れではないかと噂されるほど。


「ボグ―! 」

「お休みのところ申し訳ありません。クマルが姿を見せました」

「おお眠っておったか? 」

「ハイ魔王様もお疲れになってるご様子で。無理をなさらずに」

「問題ない。それよりもクマルだ」

「いえその前に進軍の件をお考え直しください」

「まさかこの魔王様の言うことが聞けんと言うのか? ああん! 」

一気に血の気が湧きたつ。

「いえそうではなく。魔王様の判断は無謀かと考えております」

こいつめ…… モンスターのくせにいちいち細かいことを気にしおって。

「誤りだと? そう申すのだな? 」

「そこまでは…… ただ先の大戦で失ったものが大きく危険と判断したまでです」

冷静な奴め。こっちだってそれくらい分かっている。誰も現状を知らないからな。

「分かった。考えておく」


イライラしてつい命令したが確かに奴の言う通り。

冷静に考えれば何のメリットもない。急ぐ必要はまったくないのだ。

そろそろ撤回するかな? でも一度口にしたものだからな。

魔王様の美学に反する気もする。だとしたらこれはもう一気に攻めるか?


おっと…… どうも魔王様になると気が大きくなる。

我慢もそんなにできない。これは仕方ないこと。

魔王様をイライラさせたり我慢させる方が悪いのだ。


「考えておくだけだからな? いいな? 」

「ありがたき幸せ! 」

そう言って下がる。

さあ魔王様を説得して見せろ? 説得の末に断念する形でないと格好がつかん。

魔王様としてのプライドもある。


「魔王様…… お呼びでしょうか? 」

恐縮して大汗を掻いている情けないクマル。

「姫はどうした? 」

「はい。ご命令通りに閉じ込めております」

「それでいい。どんな時も報告は怠るな! 」

イライラさせるが役には立つからな。不思議な存在。

「へい魔王様! 」


「それで食事はどうしてる? 」

「ヘイそれがわがままな女で。ほとほと困っております」

素直なクマル。素直過ぎるから気に食わない。

「何ですって! 」

つい怒りが爆発する。知らないこととは言えクマルに馬鹿にされるのは許せない。

「はあ? 魔王様? 」

困惑するクマル。それこそ可哀想なくらいに。


「いや済まない…… 取り乱してしまったらしい。

しかしクマルよ。この魔王様の前でアーノ姫の悪口を言うではないぞ。

あの可憐で上品で素敵な姫などなかなか存在しないぞ。

お前は奇跡を見ているのだ。アーノ姫の魅力に憑りつかれる前に退散するんだな」

どうにか姫の評価を上げておく。こうしないと見る目のないクマルが何を言うか。


「お大事に…… 」

「うん何か言ったか? 」

「いえ魔王様がすべて正しいです! 」

「それでいい。では一週間分の食糧を置いて戻ってくるがよい。任務完了だ」

「危険では? 」

「大丈夫。姫を狙う者には気づかれていない」

「しかしいいんですかいこのままで? やはり連れて来た方が…… 」

「それが逆に危険だと言ってるんだ! 姫はデリケートなんだぞ?

多少のことで病気になられてしまう。式までは何としても健康でいてもらわねば」

どうにかごまかす。


「ですがそれで魔王様はよろしいのですか? 」

「ははは! 会いたくないはずがない。でも会えないのだ。それが運命よ」

「いえ…… 会えるってすぐにでも! 」

「そんなことよりもクマル。一つ頼まれてくれんか」

クマルの気を逸らす意味でも抜擢したい。


「しかし…… 」

「断るのは一向に構わん。だがカンペ―キにやってもらうことになるがな」

ライバルの名を出せば奴も断れまい。

「どうぞこのクマルにどのようなことでもお申し付けください! 」

そうそれでいい。今こそクマルの力が必要だ。


「お前には宮殿襲撃の指揮を執ってもらう。準備にかかるように」

「ですが魔王様…… 」

「口答えは一切なしだ! クマルよ。やってくれるな? 」

もう断れないようにしてしまった。後は色よい返事を待てばいい。

やはり一度口にしてしまったからな。撤回はあり得ない。


「ありがたき幸せ! お任せください! 」

クマルはそう言うと行ってしまった。

うん。これでいい。これでいいのだ。

下手にカンペ―キに任せれば成功してしまう恐れも。

だがクマルならきっと期待に応え失敗してくれるはずだ。

魔王様の暴走はこれでクマルの責任になる。

これくらい暴走しなければ魔王様ではない。大人しい魔王様など魔王様ではない。


もう疑われることもなくなっただろう。

恐怖の魔王様の演出は完璧だ。

勝利の美酒などいらない。きちんと己の力を最大限に活かし失敗するのだぞ。


クマルとカンペ―キ。ライバルなどと言ってるのは何も知らない者だけ。

何だかんだ言ってカンペ―キはそつなくこなす。

それに比べてクマルは運がよかったに過ぎない。

一度だって成功させたことはないのではないか?

それでもクマルはこの魔王様の思いに応え続けている稀有な存在。

お気に入りと言っても過言ではない。

まさか魔王様の隠し子なのではと噂されてるかもしれんな。


ははは! ははは!

うんこれでいい。これでいいのだ。


               続く 

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