真夜中の出来事
真夜中。宮殿にて勇者・ノアのターン。
恐れていた事態が現実のものとなってしまった。
気が付かない間にこのコソ泥隊員と約束を交わしたらしいのだ。
そのせいで訳も分からず真夜中に付き合う羽目に。
こいつ誰だよ? 本人に問うのもやはりおかしい。
幼馴染の件では生きた心地がしなかった。
それを経験したからかまだ余裕がある。
だが前回は幼馴染に怪しまれるだけで覚えてないと言い張ることもできた。
しかし今回は一緒にお宝探ししてるから言い訳など一切できない。
情けない話だがこれは見回りなどではなくただの宝探しだからな。
いつの間にお宝窃盗団の仲間入りをしたのか?
ボクは立派な海賊団になれるのかな?
「嘘を吐きやがって! 何が伝説の剣だ? 」
奴を問い詰める。
これは明らかに国王を欺く行為。協力などしようもない。
そもそもボクは隊長なんだぞ?
ふざけやがって! これでは国王からの評価はガタ落ちではないか。
「おいおい。まさか忘れたんじゃないよな? 」
「何のことだ? 」
「ははは…… 惚けるならそれでいいさ」
不敵に笑う喰えない奴。ここまで頭の切れる者がいるとはな。
どうやら丸々戯言と言う訳でもないらしい。
勝手に部屋に入れば最悪磔にされてしまう。
国王の宝を奪ったら当然即刻処刑に。
うまく行っても暗く不衛生な牢屋に入れられるのがオチ。
そんな状況下では油断すれば命取りだ。
「よしもうここには目新しいものはない。次の部屋に移るぞ」
どうやら宝探しは継続中らしい。まったく本当に困った奴だな。
いくら奴主導だとしてもボクは隊長なんだぞ?
そもそもなぜ命令されなければならない?
おっと…… 魔王や姫に慣れたせいかどうも傲慢で我慢できなくなりつつある。
これは反省しないとな。プライベートはきちんと分けるべきだろうな。
でも夜の宮殿でのお宝探しは果たしてプライベートと言えるのだろうか?
とにかくこれ以上は危険だ。早く切り上げるように説得する。
だが聞くはずもなく自分勝手なことばかりされては気が気じゃない。
「おい聞いてるのか? 早くしろ! 」
さすがに小声だが焦りが見え始めている。
やはり奴も見つかるのが怖いのだろう。
そうなったらきっと俺のせいにするんだろうな。
だって俺は命令する立場にあるんだからいくら言い訳しても信じてはもらえない。
急がなければ。急いで用事を済ませ奴を納得させてから見つかる前に部屋に戻る。
それがボクに残された唯一の生き残り方。
堂々と灯りをつける大胆さ。
次はホコリだらけの部屋。見渡す限りお宝などなさそうだが。
伝説の剣か……
国王からの依頼だとは到底信じられない。
どうせ口から出任せに決まってる。
とにかく変な動きがないか引き続き監視していく。
ちょっとずつ現実とのギャップが見え隠れするようになった。
そのギャップが何を意味するのか今はまだ分からない。
どうも自分自身攻撃的になってる気がするんだよな。
何とかして抑え込もうとしたが堪え切れずに流れ出ている気がする。
それが敵の城を攻撃したり宝探しにつながっているのではと思う。
ダメだと分かっていればいるほどその誘惑に負けてしまう。
廃屋にて。姫様優雅に読書。
ドンドン
ドンドン
謎の訪問者。
まさかクマルがもう戻ってきたのでしょうか? それとも助けでも?
「はい。どちら様でしょうか? 」
お菓子をつまみながらノロノロと扉に手を掛ける。
待って…… 本当に大丈夫なの?
この際クマルだろうと魔女だろうと構わない。両方とも想定内だから。
魔王様の命で監視役となったクマルは何かと役に立つ。
掃除とか食事とか移動とか。
難しい頼みごとでもない限りクマルは応えてくれる。
散々嫌味を言って威張り散らすけれどそれでもグッとこらえる。
所詮はクマルだから。今のところマイナスよりプラスの面が上回っている。
もし魔女が助けに来てくれたならそれはそれでいい話相手になるでしょう。
こちらの事情も分かってるし相談役にも暇つぶしにもなる。
それ以外。第三の者がやってきたら厄介。
魔王様みたいな国王と敵対する人物だとしたらどうしようもなくなる。
さあ誰が来たのかな?
「私です姫様! どうぞお開けください」
お付きの声がする。
少々怪しいですが騙す意味はない。魔王軍だとしても怖くはない。
そうっと扉を開く。
「ああ姫様! ご無事なご様子で何よりです」
大げさなお付きの者。一人で来たの?
「どうしてここが? なぜ分かったの? 」
「はいそれはもちろんこの魔女の力です」
クマルに連れ去られ心配した魔女たちが探しに来てくれたらしい。
でも別に何一つ困ってない。あるとすれば食べものと暇なことぐらいかな。
そもそも食べものだってクマルスペシャルが微妙と言うだけ。
決して食べられない訳ではない。姫様としては避けるべきでしょう。
「ああ怖かった! 」
求められたのでか弱き姫を演じる。
「もう大丈夫ですよ姫様! よくぞ頑張りましたね! 」
お付きの者と感動の再会を果たす。
その様子を一歩下がったところから白い目で見る魔女。
ボクの演技力に脱帽しているよう。
魔女はボクがか弱い姫ではないと当然知っている。
とにかく二人を招き入れることに。
暇つぶしにはちょうどいいですからね。
続く




