イライラからの襲撃
魔王様の隠れ家。
現在女の子を呼んでストレス発散中。
「じゃあね。バイバイ」
「ボグ―! 」
もう行ってしまう。いくら呼び止めようとしても無駄。
魔王様だと言うのに止める手立てがない。まったく何て情けないんだ?
黙って見守るしかない。
またここからかよ。せっかく楽しみにしていたのにちっとも覚えていない。
こんなことってあり得るのか? いやあってなるものか! 魔王様なんだぞ?
どうしていつもこうなるんだ? 一度や二度ではない。
楽しもうとすると必ず邪魔が入る。
今回ももう少しと言うところで意識を失った。大失態だ。
これも日頃の行いが悪いからだろうな。
もう呪われてるとしか思えない。本気で魔女の占いに頼りたいわ。
それでも魔王様だから常に威厳を保たなければならない。
「どうでしたか魔王様? 」
毎度感想を聞いてくる困った奴。どう答えろと言うんだ?
満足したと言えとでも?
ふざけるなと代わりに叱りつけろとでも?
それがいいと言うならいくらでもしてやる。
魔王様として徹底的にな。それはもう恐怖で震えてもらうことになる。
どのみちこれだけ運が悪ければ我慢の限界も近い。
「ボグ―! 」
どうにかごまかせたが照れていると思われている。それはそれで心外だ。
記憶を失った訳ではない…… 何とか思い出せないものかな。
ここは妖精に相談だ。
「それで魔王様。クマルが戻って参りましたよ」
「ようやく戻って来たか。待ち焦がれていたぞ! 」
「疲れているようですので今日のところは勘弁してあげてください」
そう言われると余計に引きずり出したくなる。
気が回るのはいいことだが我々は魔王軍なのだぞ? もっと厳しくすべき。
最近どいつもこいつも弛んでいる。
「まさか魔王様の言いつけを無視するつもりではないだろうな? 」
「あり得ません! 」
「よしならば歩くとしよう」
カンペ―キをお供に日課の散歩に出かける。
ブツブツ
ブツブツ
「どうされましたか魔王様? 」
「天命を得た! これより城を襲い領土を拡大する! 」
どうしてもイライラするし暇でもあるのでついよからぬことを考えてしまう。
これは二つの怒りによるもの。
一つ目はもう少しと言うところで変わってしまい肝心なところが楽しめなかった。
しかも記憶がない間に済ましてしまったらしい。
こんなのありなのか? やってられない。理不尽だ!
未だに怒りが。誰にぶつけていいのか分からない。
こんな時は八つ当たりするのがいいが…… どうもそう言うのも苦手だからな。
二つ目はクマルだ。せっかくのお説教のチャンスなのに。
戻って来たらきつく叱ってやろうと思ったのに。
「いいか! 全軍に伝えろ! 」
「ははあ! このカンペ―キにお任せください。さっそく準備して参ります! 」
そう言うと魔王様を置いて行ってしまった。
ははは…… クソ真面目な奴め。後で説教だな。
しかしどうしよう? 思い付きで襲撃しようとしてしまった。
これでは完全な暴走ではないか。
冷静に冷静に。落ち着いて行こう。なぜこうなったのだろう?
すべてが魔王様の時の怒りではないはずだ。
それでも行動が制限されてて窮屈だったのが原因。
そもそも魔王様としてあまりに大人し過ぎたと思う。
これからはもっと激しく積極的に行けたらな。
魔王様の完全復活もあり得る。
民の恐れるところが本来の魔王様ではないか。
さあ暇だから攻撃を始めるとしよう。これもすべて暇なのがいけないのだ。
魔王様らしく人のせいにする。
なんだかどんどん自分で自分をコントロールできなくなりつつある。
これは相当まずいな。
ターゲットとされた宮殿では。
勇者・ノアはなぜか夜の見回りに。
「おいどうしたんだよ? 」
仲間の言葉で我に返る。
「あれ…… ボクは何でこんなところにいるんだ? 」
仲間と薄暗い室内に。
見回りついでに何か宝は落ちてないか探っていた。
まさか宮殿でそのようなバチ当たりなことを。
「怖気づいたの? 」
どうやらこいつが唆したらしい。まったく何て奴だ。
「おい! 戻ろうぜ! 」
隊長として見過ごす訳にはいかない。
「いいだろ? 減るものではないし」
男は譲らない。だが無茶苦茶な主張に終始していないか?
こんなの認められるはずがない。
「盗賊のような真似…… 」
「違うって! 宝を探すだけ。探し終えたらそれでお終いだってさっき言ったろ?
覚えてないとは言わせないぞ」
下手な言い訳を繰り返す。レアアイテムを見つけたら盗むに違いない。
こいつは誰だ? 何でボクはこいつについて来たんだろう?
まさか何か秘密を握られて脅されてるのか?
ここで名前を聞くのもおかしい。妖精を召喚するようなことでもないしな。
自分の力で解決するしかないな。
「おお! これだこれ」
男が目当てのものを発見したらしい。これで充分だろう?
さあもう戻ろう。こんな時間にコソコソしてたと噂されれば信用がなくなる。
そうでなくても幼馴染の関係で迷惑を掛けてる訳だからな。
まずい。止めきれないばかりか近づいてきた音にさえ気づけなかった。
「そこ何をしている! 」
うわ…… どうしよう? 見つかってしまったぞ。
「はい。国王様より伝説の剣を探すように命令されまして」
適当な嘘を並べる男。信じていたのに……
「本当か? どうも怪しいな。まあいいさ」
こうして国王からの全幅の信頼を得たこともありどうにかなった。
続く




