クマルスペシャル
宮殿にて中庭を歩きながら幼馴染についに愛の告白を。
「もうようやく戻ってきた。ノアったら早く。ふふふ…… 」
どう言う訳か怒りが静まり元のかわいい女の子に戻った。
「ちょっと歩こうか」
「うん。それで私の名前思い出してくれた? 」
ふざけ気味で笑い腕に絡みつく。
「おい! ブス! 」
これでいいんですよね妖精さん?
「何ですって! 」
怒り爆発。これは再びの地獄?
「ごめんごめん。ブシューだって。お前は幼馴染のブシューだろ? 」
「もう。最初からそう言えばいいでしょう? ふざけてばかり」
機嫌を取り戻す。
危ない危ない。つい噛んでしまったがギリギリセーフ。
下手に噛むと血を見る名前だからな。今度からは気を付けなくちゃな。
「悪い悪い。ふざけ過ぎたよ。お詫びにこれ」
そう言って妖精から貰った巷で流行の激辛水を手渡す。
「うん? 何だろう…… 」
疑いもせずに激辛水に口をつける。
こうして何事もなかったように二人は永遠の愛を誓った?
「ノア! 何なのよこれは? 嫌がらせ? ふざけないで! 」
激辛水の影響か顔を真っ赤にする恐怖の幼馴染。
十分ほど謝り続けてどうにか機嫌を直してくれた。
「そうだ。私ね用があって来たんだ」
それはそうでしょう。目的も言わずにさっきから怒ってばかり。
ボクの立場も少しは理解して欲しいよな。
いくら魔王軍に動きがあるまで待機とは言えボクは隊長なんだぞ。
幼馴染が宮殿まで押し掛けたなんて噂を流されたら堪らない。
「お父様からようやくお許しが出たの」
もう恥ずかしいんだからと張られてしまう。
いや痛いんですけど。恥ずかしがってるの三割。怒ってるの七割。
まだ忘れていたことを根に持ってるようだ。それとも激辛水の方?
「そうかおめでとう。いやはやめでたいな」
どうにか取り繕う。これで文句あるまい。
今は幼馴染のことに構ってる時ではないのだ。
何としてもこの最悪の状況を乗り越えなくてはならない。
さあそろそろお引き取り願おうかなブシュー。
「報告ありがとう。ボクも今日は何かと忙しいんだ。ではまた後で」
こうして無理やり終わらせるのだが……
少々強引だったかな? 納得が行ってない様子。
「ちょっと待ちなさいよノア! 」
なぜか怒り心頭のブスじゃなかった。ブシュ―。
怒ってるかと思いきや泣いてる? これはまずいことをしたかな。
一体俺は何を誤ったのだろう? ちっとも分からない。誰か教えてくれ。
とんでもなく悪い空気が漂う。やっぱりこれはボクのせい?
「どうしたブシュ―。ボクを困らせないでくれ。さあほら手を」
祝福したんだからそれでもういいじゃないか?
こっちも魔王様とか姫とか入り組んでいて忙しいんだ。
現世の頃より忙しいぐらいだ。
「あんた分かってるくせに! まさか裏切ったの? 」
勝手に断定するブシュ―。それは早とちりと勘違いが過ぎる。
少しは冷静になってくれよな。
「何を言ってる? ボクはいつも君のことを思ってるさ。
今だってきちんと祝福しただろ? 一体何が不満なんだ? 」
言い訳に聞こえるかもしれないが事実だ。これ以上ボクにどうしろと?
求められても困るんだよな実際。
「ノアのバカ! 」
「えっと…… どうしたの? 言ってくれて構わないのに」
「結婚するって言ったじゃない! 」
「だからおめでとうと言ったんだよ。伝わらなかった? 」
「違う! 結婚するのは私たち! 私とノアなんだからね! 」
うわ…… 面倒に巻き込まれた。今そんなこと言ってる時じゃないだろうが。
このおかしな異世界が崩壊しようとしてるんだぞ?
きっと誰も気づいてないんだろうけどね。
「ノア! 」
「悪い…… 君とは結婚できない。できないんだ…… 」
正直に答える。だってできるはずがないんだ。
あと七日を切ったんだぞ? そんな時に呑気に結婚などできようもない。
「ノアのバカ! 」
そう言って走って行ってしまった。
うわ余計にこんがらがってしまった。これなら嘘でも結婚すると言えばよかった。
「待ってくれブシュ―! 」
とにかく追いかける。
その頃廃屋では。
あーあどうしたらいいんだろう?
「ほら飯だぞ! 」
クマルが戻ってきた。
大雑把でいい加減なクマル。
「あなたまさかこれをボクに食べろと言わないよね? 」
衝撃的なメインディッシュ。
ミミズのパスタ。
意外にもヘルシーなモンスターたちの食習慣。
「これ動いてるんですけど? 」
「ああ生け捕りにした。ハンバーガーにして食うか? 」
ダイナミック過ぎる料理に閉口する。
「どうした? これは魔王様のお気に入りなんだぞ。もったいない」
ひいい…… 冗談じゃない。いつか食べさせられる訳?
「だったらこの鳥にするか? 」
チキンは好きですがまさか丸焼きなの?
「丸焼きはちょっと…… 」
「いや生で食え! 」
「ぶち殺すわよ! 」
まずい。つい我を失って下品な言葉を。
「文句ばっかり言いやがって。だったらその辺の草でも食ってろ! 」
クマルは呆れた様子。ここはそんな田舎じゃない。
仕方ないので鳥の丸焼きで妥協することにした。
うん…… 果たして食べきれるかしら?
それにしてもどう言う食生活してる訳?
人間を連れてこなかっただけでも褒めてあげるべきだったかしら?
ではクマルスペシャルと行きますか。
続く




