永遠のミナミちゃん
宮殿内。引き続き勇者・ノアのターン。
雨も上がり久しぶりにすっきりした昼前。
突如やって来た幼馴染に嵐の予感。
案の定すぐに疑いの目を向けられてしまう。
どうにか離れたところで妖精を召喚。
すでにキレてる様子。一体なぜだ?
「あの子って誰? 」
「そんなの知らない! あんたの幼馴染でしょう? まったくいちゃついてさあ」
不機嫌で攻撃的な妖精。
これだけ激しいと周りから見られてる感覚に陥る。
そうでなくても独り言をブツブツ言ってるヤバイ奴だからな。
絶対に誰にも見られてはいけない。
「おいおい協力してくれよ」
情けないが泣きつくしかない。
「知らないわよ! 一人で解決しなさいよもう! 」
「そんなこと言ったって…… 」
村に滞在したのは一時間? 十分? だからな。
できることとできないことがある。ボクはそんなに有能じゃない。
クマル以上カンペ―キ以下でしかないボクだから。
現状を理解してるくせにちっとも協力しようとしない困った妖精。
一体何のために存在するのか?
「お願いだよ。今気づかれたらまずいんだって」
「うるさい! 今それどころじゃないでしょう?
こっちは女神様からの頼まれごとで手一杯なの」
手が足りないと逆に泣きつかれる始末。
「せめて名前だけでも! 」
「はいはい。確かロリじゃなかったっけ? 」
おお…… ようやく役に立った。
初めから文句言わずに教えてくれよなポンコツ妖精さん。
「うん? あんた今失礼なこと思ったでしょう? 」
「いやそんなことないよ。ははは! ではよろしく」
中庭で待たせている幼馴染に親しみを込めてキス。
これくらいはスキンシップだよね。
「ちょっと何するのよ! 」
烈火のごとく怒り狂う幼馴染? どうも様子が変だぞ。
「許してくれよロリ。ボクたちの仲じゃないか」
多少格好つけてみる。これで喜ぶ場合もあるからな。
ちょろいものだぜ。へへへ……
「ロリってあなたの妹さんじゃない! ふざけるんじゃないわよ! 」
ビンタを一発喰らう。
おお何と言う衝撃。鼓膜が破れるほどの勢い。手加減など微塵も感じられない。
痛たた…… 左頬が赤く腫れヒリヒリする。
幼馴染に恐怖さえ感じる今日この頃。
「ごめん。今日は気分が優れなくてさ。ははは…… 」
そう言って再び逃げ出す。
「いい加減にしてくれ! よく考えたらロリって妹じゃないか! 」
妖精に文句をつける。
「ああもううるさいな。あんたが焦らすから間違えたでしょう!
そうそう。確かリンだったわね」
「リン? それは村長のところの孫娘の名前だ! 」
村長が耳元で騒いでいた時に必死に止めていたのがリンさん。
人の家に勝手に上がり込んで来た困った爺のお供である。
「何だ少しは覚えてるじゃない。だったらいいでしょう? 」
「よくない! ホラ早く教えろ! 気づかれたらどうする? 」
焦る。これ以上待たせる訳にはいかない。
「幼馴染と言ったら当然ミナミちゃんでしょう? 」
ようやく答えにたどり着いた。
そう言えば幼馴染と言ったらミナミちゃんだったような気もする。
何でかな? そんな常識みたいになものがある。
と言うことはやっぱり妖精の言うようにミナミちゃんなのかな……
そうだよ。きっとミナミちゃんだ!
こうして幼馴染の元へ。
機嫌がすこぶる悪いので煽てることにした。
「きれいだよ」
「そう。嬉しい。でも信用できない! 」
すっかり信用を失っている。これは急いで回復しないとな。後々に響くぞ。
「それで私は誰な訳? 」
自分で名乗ればいいものを。まったく困った奴だな。
ボクを試すようでいけない。
「ミナミちゃんだろ? 君とは幼い頃によく遊んだよな」
ああ懐かしい。もちろん覚えてなどない。
「そうね。その頃はノアとよく遊んでた。でも私はミナミちゃんじゃない!
ミナミって誰よ? この浮気者! 」
怒り狂う幼馴染。その顔は怖く…… ではなく可哀想でもう見ていられない。
まずい。まずいぞ。怒りに我を失いボクを国王に訴えるつもりなのでは?
このことがバレたら一大事だぞ。隊員には同郷の奴もいるし逃れられない。
まさか魔王様でもなくライバルでもなく副隊長でもない幼馴染に脅かされるとは。
だがこんなことで国王や仲間の信頼を失って堪るか。
それにしてもあさからだから疲れるな。ミナミちゃんじゃないの?
「ごめん。喉が渇いてるよね? 飲み物を取って来るわ」
「早く帰って来な! 」
うわ恐ろしい。怒りは相当なものだぞ。
「おい妖精ふざけるな! 」
再び妖精を呼び出す。
「あんたねえ…… 何度呼べば済む訳? 」
やる気なしの妖精は大あくび。
「ミナミちゃんじゃなかったぞ! どうしてくれるんだ! 」
「ああもううるさいな! 仕方ない。面倒だけど調べてあげるか」
再三の要請でようやく本気で調べる気になってくれた。
今まで何をやってたんだこの妖精は? 正気を疑う。
さあ幼馴染のの名前は?
「ブシュ―だって。よかったね」
「おい嘘だろ? ブスだってのか? 」
「ブシューよ。ブシュ―。間違いないようにね」
「ブシュ…… うーん何だか言いにくいよ」
「仕方ないでしょう。それが彼女の本名なんだから」
「おい! 適当に言ってないか? もし間違ってたらどうする? 」
「だから確認したって言ったでしょう? 信用しなさいって」
「うーん。分かったよ」
「いい? 頭に『おい! 』を付けること。さあ頑張って」
「へいへい」
「それとこれ。今流行りの激辛水。喜ぶと思うから」
そう言ってドリンクを用意してくれる。
意外にも気配りができる。何だかこれですべてうまく行きそう。
こうして少々不安だが幼馴染の元へ。
続く




