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変装する魔王様

宮殿にて。勇者・ノア。

再びの謁見。

国王は落ち着きを取り戻し文章に目を通してるところ。

ボクと爺さんが話すのを横で聞いてる。どうやら何かとお忙しい。

姫がさらわれてるのに呑気な国王様だこと。ボクも人のこと言えないけどね。


「隊長。本当にこのままでよいのか? 」

爺さんは心配性。しかもせっかちだから困ってしまう。

「はい。落ち着いてください。早急に調べてるところでございます。

情報もなしに動けば魔王軍の思う壺です。ここは慎重に」

どうにかこちらの都合のいいように持っていく。

これがすごく大変で骨が折れる。

別にボクは慎重派じゃない。もちろん臆病でもないが。

だがここで進言しないと余計なことをしかねないからな。

隊長だと言っても国王の命令は絶対。

従わずに勝手な行動を取れば謀反人として追われる。

もしもの時にやる分にはいいが今は少なくても従う振りぐらいはすべき。


「いやそれは考え過ぎでは? たかがモンスターだろう」

爺さんが余計な口を挟む。

「実際魔王はこちらの動きをおさえてるようです。

動けばそれだけ魔王の術中に嵌まることでしょう。

今我が隠密部隊が動いてるところ。できればこのまま続けさせてもらいたい」

国王に直訴する。

「もちろんお前を信じてるが…… しかし消極的だと思う者も出てくるであろう」

国王は積極的に動けと暗に。

「お任せください! 」


「隊長。それで新たに分かったことは? 」

爺さんは懐疑的。国王にまで伝染してしまわないか心配。

「はい。アンダーモス地方の小国の王マックが姫様を狙っているとの情報が」

「何だと! マック? あの外道め! 」

国王が怒り狂う。

「ですから魔王だけでなくマック王にも気をつけなければなりません」

カンペ―キから得た極秘情報を流す。

国王もこれで完全に信用してくれるだろう。


「さすがは隊長。見込んだだけのことはある。引き続き情報を収集してくれ」

「ははあ! お任せください! 」

こうして雨の一日が過ぎていく。



魔王様散歩中。

真っ暗闇を抜けるとついに光が差す。

「うう! 眩しい! 」

久しぶりの外は思いのほか眩しいのか目を開けていられない。

「ご無理をなさらずに魔王様」

雨が降っているのにこれほど激しいとは思いもしなかった。

先ほどから雲間から太陽が見え隠れしている。

間もなく雨も止み晴れ渡るだろう。


「カンペ―キ。いらぬ心配だ。誰だと思っている? 」

「しかし魔王様…… 」

お供にカンペ―キを連れて洞窟の周りを一周する。

ほぼ人が姿を見せることもない場所。だからのんびり過ごすことができる。

人間に見つかっては何かと大変だからな。


この世界では魔王様や魔王軍は民にどう思われているのか?

やはりその恐ろしい見た目と残酷性に恐怖を抱く?

それとも意外にも交流がある?

いやそれはあり得ないか。密かに捕まえた人間を処刑してたからな。

見た目に反して大人しいなどと言う幻想は捨てるべき。


「やはり変装されてはいかがでしょうか? 」

心配性のカンペ―キにも困ったものだ。ここに誰が来ると言うんだ?

「変装? この魔王様がそんな恥ずかしい真似できるか! 」

少々我がままに映るかもしれないがこれも統べる者としてのプライド。

「ですが魔王様。人間に見つかっては厄介ですよ」

カンペ―キの長所は慎重で気が回るところ。

だがあまりにも気にし過ぎてしまうのが弱点かな。

まさか厄介ついでに捕らえて食ってしまう気か? 

カンペ―キだけにあり得る。さすがにそれはまずいよな。


「分かった。それではやってくれ」

魔王様には変装する力までない。

代わりにカンペ―キが施してくれる。これで安心のはずだ。

「それではじっとしていてくださいね」

こうしてどこにでもいる村人へと姿を変えた。


「ほらやっぱり来ましたよ」

遠くの方から人の姿が。手を振ってこっちに向かって来る。

お仲間だとでも思ってるのか? 魔王様だぞ?

「ああ珍しい。こんなところに人かい? 実は悪いんだけどさ…… 」

道に迷ったと言う男を変装したカンペ―キが送る。

さすがはカンペ―キ。気が利く。お供としてよくやってくれてると思う。


「ボグ―! 」

「あんたは愛想もないしさっきから叫んでいるな。

まさかこの俺を舐めてるんでないか? 」

睨みつける状況判断を誤った哀れな迷い人。

これはきついお仕置きをしないと。

「魔王様…… 」

無防備に後ろを晒す男。いつでも消し去ってやっていいんだぞ?

「分かっている」


「こっちで合ってるのかい? 」

こうして迷い込んだ人間を元の世界へと送り届ける。

なぜこの魔王様がそんなことをしなければならない?

未だに納得がいかない。

「はいここですね」

「おおありがとうよ。助かったよ兄ちゃん。それからあんたもう少し愛想よくな。

その面が怖いんだよ。まるで化け物さ」

男は遠慮がない。ただの迷子の酔っぱらいのくせに。

魔王様の力を思い知らせてやる。恐怖に慄く姿が見物だな。ははは!

カンペ―キはこれ以上は危険。戻るようにと進言するが当然まだ全然物足りない。


魔王様の気まぐれ散歩旅はまだまだこれからだ。


                 続く

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