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連れ去られたアーノ姫

魔王の住処。

「おいまだクマルは戻って来ないのか? 」

「はい。どうやら苦戦してるようで…… 」

「何だと! 」

クマルの奴は何やってるんだまったく。まさか余計なことしてないよな?

「心配なさらず。それよりも式は盛大にしたいのですがどこがよろしいのかと?」

クマルの失態に怒りを露にしたものだから話を逸らそうと必死だ。


「ボグ―! ボグ―! 」

「はい! 分かっております。魔王城でございますね」

「何を抜かす。魔王城は消失したのではないか? 」

「はい…… ですので急ピッチで再建をと考えております」

萎縮して畏まる。

「ボグ―! 」

ひいい……

恐怖に慄くモンスターたち。まったく情けない。これが魔王軍だと言うのか? 

だがこれで少なくても魔王様の存在を疑いはしないはず。


「よし出掛けるぞ! 」

「お供します」

「暑苦しいわ! 一人で行く! 」

機嫌がすこぶる悪いのには理由がある。

クマルが戻って来ないのが原因だがそれだけではない。


とにかく動きが取れない。

姫の時は魔女の家に匿われて自由がない。

勇者の時は自由ではあるものの作戦が一向に立たない。

なぜなら姫奪還もしてはならないし魔王討伐も禁止だ。

これでは勇者とは言えない。

しかも国王に能力を評価されたばかりに部隊長にまで。

ボクだって行動したいよ。勇者として戦いたいよ。

でもできない。それがストレスになっている。

もうこの際この世界のことなんて気にせずに自由にのびのびと動き回れたらな。

どうせ無理。当然分かってるんだけどさ。


「待ってください魔王様! お一人では危ないです」

お供を連れて行けとうるさい。

まさかこの魔王様が心配されるなど何と滑稽な。

「ボグ―! 」

「確かに魔王様は不死身ですが弱点だってあるんですから」

「ふん! この魔王様に弱点などあるものか! 」

魔王様を舐めてるのか? 弱点と言えばそれこそ魔王を討つとされる秘剣。

それぐらい頭に入ってる。 

「そんなことおっしゃらずに。危険回避も魔王様が魔王様である所以であります」

しつこく何度も言うものだから仕方なく助言を受け入れる。


「ではカンペ―キを呼べ。奴はいるんだろう? 」

こういう時に役に立つのがカンペ―キ。

「はは! ではくれぐれもお気を付けください」

こうしてカンペ―キを伴って気晴らしに向かう。

道案内はこう言う有能な奴に任せるのが一番。ストレスも少ないしな。



魔女の家。

トントン

トントン

どうやら魔女が戻って来たらしい。

「はいはい。待ってください」

お付きの者が何のためらいもなく開けてしまう。

でもここは誰にも知られていない魔女の家で当然来客もない。

魔女が帰ってきた以外考えられない。そんな隙と言うか油断があった。


「悪いな。もう一度姫様の居場所を占って…… 」

「間に合ってます」

どうにかお付きの者がごまかすがクマルもそこまで間抜けじゃない。

まずい。気付かれた?

「待て! ここにいるじゃないか! ふざけやがって! 」

怒り狂うクマル。

それも当然と言えば当然。魔女の示した候補地を無駄に探し回った後だからな。

その疲れと騙された恨みは尋常ではないでしょう。

ただ勘違いして欲しくないのは占いで騙したのは魔女であってボクじゃない。

魔女が勝手にしたこと。そこだけは主張したい。でもそれを理解できるかどうか。

おっと…… 今はのんびり考えてる時ではないですね。どうにかしなければ。

相手がクマルだとどうしても緊張感がない。何だか眠くなってきた。


「姫様お逃げください! 」

そう言ってドアの前で立ち塞がるがここには出口は一つだけ。

裏口でもあればいいんでしょうけどそんなものはない。魔女の家が仇になる。

後はどこかに逃げ隠れするぐらいしか手がない。

それでも時間を掛けられたらいくらクマルでも見つかる。

単純なことはクマルは得意なはず。


「こいつがどうなってもいいのか? 」

怒りから手が付けられなくなっている。

「もう分かったわよ。ホラ私だけでいいんでしょう? その人を放しなさい! 」

強い口調に怯んだクマルだったがそれも一瞬だけ。

「命令するつもりか俺に? 」

ダメだ。怒りに我を忘れている。もう面倒くさいな。

「お願い! その人を放してあげて。大人しくついて行くから」

いい条件。いくらクマルが間抜けでも吞むでしょう。

「よしだったら早くしろ! 」

こうしてクマルに捕まってしまう。

こんな時に魔女はどこへ行ったのでしょう? ああ肝心な時にいないんだから。


「ほら早くこい! 」

無理やり腕を引っ張ろうとする野蛮なクマル。

「ちょっと痛い! もう少し優しく。お願い…… 」

「いいから急げ! 」


「姫様…… 」

「ボクは大丈夫だから心配しないで。すぐ戻ってくるから」

「ははは! お前は一生戻れねえよ。魔王様と楽しく暮らすんだからな! 」

大笑いのクマル。ここは刺激せず静かにしてるのがいいでしょう。

「よし大人しくしてろよ」

こうして哀れな姫様は魔王の手に落ちる。


夕方。

魔女の帰宅。

「ただいま帰ったよ」

「姫様が! 姫様が! 連れ去られました」

「はいはい。魔王のところだね。まあ心配せずに私が取り返してきてあげるから」

「国王様に報告を…… 」

「それは後にしな。全力を尽くしてから。いいね? 」

「はい…… 」

「だったら留守番よろしく。明日までに何とかするから」


姫様が連れ去られ魔女はついに本気になる。


                 続く

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