告白! 正直にすべてをさらけ出す
魔女の家。
読書を始めて一時間が経過した。
気が付くといつの間にか魔女の姿がどこにも。
こんな雨の中どこに行ったのでしょう?
まあいいか。ゆっくり読書でも。
「どうされました姫様? 」
読書を終え休んでるところにお付きの者が顔を近づける。
「ええ…… 何か? 」
心配されるようなことした?
ちょっとした変化も見逃さないのは立派な心掛けですがね。
「うなされていたようですのでお声がけを。嫌な夢でも? 」
心配してくれるのはうれしい。でも干渉し過ぎでは?
宮殿から逃れて寛いでるんだから少しは気を利かせて欲しい。
言わなくてもそれくらい……
おっとこれではただの我がまま姫となってしまう。
「実はとってもおかしな夢を見たの」
「それはどのような? 」
興味津々の彼女。そう言えば魔法使いはまだ?
サポート役の魔女がいないと急に不安になる。
きちんと現状を理解してるこちら側の人間。即ち協力者の存在が重要。
お付きにはぜひその役割を果たしてもらいたい。
「それがおかしいの。真剣に聞いてくれる? 」
起こってる現象の数々を誰かに話したくて話したくて堪らない。
それがボクだけでなくこの世界全体へ影響してしまうと分かっていても。
仮にそうでも告白したくて仕方がない。誰かに聞いてもらいたくて堪らない。
「もちろんでございます姫様。最近お疲れの様子ですし心配していましたよ」
まるでお母様のように心配してくれる。
幼い頃に死別したお母様はこれほどだらしなく太ってませんがそれでも……
あれ…… なぜ今そんなことを? これは姫自身の記憶。
たまに浮かぶ記憶の断片。それを頼りに自分を再認識する。
これは姫の幼き頃の記憶と今の感覚がそうさせている。
「それが…… ボクが魔王様になった夢を」
実際は夢ではなく現実。それは女神様もお認めになった事実。
まだ半信半疑ではありますが。
現実世界の出来事をさも夢であるかのように語る。
「ええ! 魔王ですか? 姫が? 」
大笑いする。
「もう真面目に聞いてよ! これでも真剣に悩んでるんだから」
どうせ誰も信用しないと思って話してみるが思った以上に反応が薄い。
そうなるとどうしても聞いてもらいたいからどんどん情報を与えてしまう。
「ほほほ…… 何てかわいらしいんでしょう」
まともに取り合おうとしない。
「たぶんこれは夢ではないのだと思います。勝手に魔王に乗り移ったみたい……」
正直に話すが本気にする様子は微塵もない。
それも当然か。誰がそんな戯言を信じると言うのでしょう?
事実そのことで悩まされてはいるが。
「では姫様。魔王様になろうなどとお考えになりませんよう」
そう言って大笑い。ツボに入ったのか下品にも笑い続ける。
涙を流すほど。苦しいと。だったら笑わなければいいのに。本当に失礼しちゃう。
もう全然信じてくれないじゃない。それでいいんですけれど。
そもそも信じる方がどうかしてる。それくらい異常なこと。
「そんなむくれずにもっとお話しください。姫様のお話は独創的でよろしいかと。
しかし異国の王子やお客様には決してお話しにならないように。
品位が下がりますからね」
うわ。完全にバカにしてる。姫をバカにするなど恐れ知らずなんだから。
「お父様に言いつけようかな」
頭に来たので権力を振りかざす。これでは機嫌を損なえないでしょうね。
「お許しを! きっと姫様は何かに取りつかれておられるのです」
ようやく真面目になった。でも違うと分かっているからな。
「でもどうしてこんなことが? 」
あり得ない答えをお付きに迫る。
こんな話をすべきでないと頭では分かっていてもどうしても止まらない。
それだけ一人だけが抱え込むには大き過ぎる問題。
ただ入れ替わっただけならここまで焦りはしないでしょう。
ううん。それでも十分気に病むか。
「恐らく魔王が目前に迫ってきた影響が現れたのだと。
無防備な姫様の夢に勝手に流れてきたのでしょう」
意外にもまともな分析をする。
「それで魔王は何と? 」
「さあ…… そこまでは」
詳しいことは言えない。どうにか濁す程度に収める。
「私も姫様の気持ちが痛いほど分かります。怖いんですよね。
あんな化け物が襲って来たら嫌な夢も見ますよ」
お付きの者はクマルについて言ってるらしい。
だがボクはクマルはどうにでもなると思っている。
それよりも何らかの事情でカンペ―キが指揮を執った時だ。
襲撃を命じてる魔王様が止めるのも変だし最悪疑われることだって。
「そうなの。忘れられなくて」
姫らしく振舞えてると思う。
これで魔王様になる話も違和感を持たずに聞き流すでしょう。
何と言っても今は暇ですからね。暇つぶしになるなら多少のことに目を瞑る。
「ねえボクお腹が空いた」
子供のように甘える。
「もう姫様ったら。これだから一人にはできないんです」
愚痴なのか? 褒めてる訳ないよね?
「では食糧も買い込んだことですしお食事にしますか」
今日はどうやら一日中雨のようで動きが取れない。
晴れた日には近くでピクニックをと考えていただけに残念な気持ちでいっぱい。
お食事まで再び読書することに。
続く




