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姫様はお暇

始まりの場所。

<申し訳ありません。あなたを救う手立てがありません。

どうかもう少しだけでもお時間をください>

祈りを捧げると笑顔一つ見せない女神様が謝罪する前代未聞の出来事。

前代未聞と言ったってここで起きたことすべてが俺にとっては前代未聞の出来事。

それでも異世界と言う許容し難い世界に慣れ楽しく生活を送るはずだったのに。


一体俺たちはどこで狂ってしまったのだろう? 

あんなに楽しかった毎日が一変。まるで何かに導かれるように。

ずっと耳の中でセミがジイジイ言っている。

やはりあの夜に俺は選択を間違ったのだろうか?


「はいはい。心の声が漏れてるわよ勇者さん。

狂ったのはあんたが言いつけを守らずに好き勝手やったから。

こっちは迷惑してるんだから。いい加減にしてよね! 」

まるで心の内を覗かれてるような錯覚。

うわわ…… すごく恥ずかしい。間抜けなこともやばいことも筒抜けだ。


「それから格好つけてるみたいだけどあなたの立ち位置はあの主人公と全然違う。

あっちは本格的ホラーミステリー。

こっちは単なる異世界転生失敗コメディーなんですから」

妖精にダメ出しをされる。

ちょっと浸っていただけじゃないか! 酷いよ。酷過ぎる。それでも人間かよ! 

ああそうか…… 人間じゃないよね。妖精だったっけ。なら納得だ。

<そのようなことを言ってはなりません。すべてこの女神に責任があるのですよ>

僅かながら笑みが戻ってきた。これはいい兆候。


「では女神様。信じていいんですね? 」

もう女神様にすがるしかない。

後十日なんてやってられないがこの際考えるのはよそう。

<はい。何としてもこのイレギュラーな展開を打開しなければなりません。

あなたもきちんと言われたことを守り世界の崩壊を食い止めてくださいね>

女神様の言いつけ。果たして守れるだろうか?

一度は守れなかったが…… 大丈夫。今度こそ必ず。


「分かりました女神様! 」

<ではお行きなさい>

自分を取り戻したようで微笑みかけてくれる。

何て神々しいのか。心が洗われるようだ。


「最後にいいですか? 」

<どうぞ。お好きなように>

「ああ女神様もう少しだけ! 」

「あんたね! ちっとも反省してないじゃない! 」

妖精に罵られる。うん悪くない。


こうして新たな発見があった。決して知りたくない真実ではあるが。

ただこうも考えられる。後十日逃げ回ればいいだけ。

小さな世界を一か月逃げ回り続ける無理ゲーが十日に短縮できた。

それだけ崩壊の恐れが減ったとも言える。

ここはプラス思考で乗り切ろう。

十日で決着するならそれは喜ばしいこと。

下手にグダグダ長引くよりずっといい。

うん。俺は大丈夫だ。俺ならできる! 俺たちならきっと成し遂げられる!


よし行くぞ! では再び異世界へ!

おっとその前に確認。乾いたかな?



魔女の家。

「暇だよね」

お付きの者が出掛けると二人きり。

魔女とお留守番。

「呑気だね。あんたは今とても微妙な位置にいるんだろ」

驚愕の真実を伝える。しかも詳しく三回も。何と言っても暇ですからね。

話し相手には不自由はない。でもいつまでここに潜んでればいいのだろう?


「そろそろ宮殿に戻りましょうか? 」

クマルを追いやった今襲撃される心配はないはず。ならば戻っても問題ない?

「それはまずいよ! 危険過ぎるって」

「大丈夫。うまくやって見せるから。お願い! 」

暇な潜伏生活二日目ともなればやることもなくなりついつい甘えてしまう。

「それは認められないと言ってるだろ! 」

すぐに怒り出す魔女のお婆さん。どんどん口調が荒くなっていく。


「そんなにムキにならなくても…… 」

「言い過ぎたね。でもあんたは姫としての自覚が足りてない。

どこの誰が狙ってるか分からないんだよ」

常にこれだ。そんな危険な世界でしょうか?

退屈な毎日がこれからも続くなんてやってられない。

せめて宮殿でゆっくりしていたい。

姫が宮殿に戻るのは果たして我がままなことでしょうか?


「分かってます。宮殿にはノアがいるんでしょう? 」

勇者ノア。もう一つのボクの顔。

「でもボクは居ても立っても居られない。

後十日この世界が崩壊するまでこのままじっとしてろと? 」

「それは…… 」

ただの八つ当たりだって分かってる。でも動けないのが辛いし悔しい。

危険は冒せないのは当然理解してる。それでもやれることがあるはず。


「気持ちは察っするがね今は疑われないように言動に注意しな」

「もう! そればっかり! 」

「退屈なら読書でもどうだい? 古今東西の書物を取り揃えてるよ。

時間を忘れて読みふけるのもまた楽しいものさ」

いくら言っても無駄みたい。ここは大人しく従うとしましょうか。


読書を始めようと本に手を伸ばしたところにお付きが戻って来る。

「はあはあ…… 食糧を調達してきましたよ姫様! 」

「どうしたんですそんなに慌てて? 」

「それが姫様。遠くの空で不気味な影が。これは一雨きそうですよ」


お付きの勘は大当たり。昼過ぎにポツポツ来たと思ったら外は薄暗くなった。

遠くで雷鳴が。間もなくこの地も盛大に降り出してくるでしょう。

呑気に散歩でもしてたらずぶ濡れ。出歩かなくて正解。


                 続く

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