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謁見

魔王軍の隠れ家。

「魔王様! 魔王様! 」

「どうしたクマル? 」

「アーノ姫の居場所が分かりやした」

鼻息を荒くするクマル。どうせいい加減なんだろうな。

おっと…… 魔王様が信じなくてどうする? 

気が進まないがとにかく聞くだけ聞いてみるか。


「それで我が愛しのアーノ姫はどこに? まさか手荒な真似をしてないよな?

手を出さずに頭を使ったんだろうな? 」

無理な注文だとは思うが一応はくぎを刺しておく。

姫を傷つけられては敵わないからな。痛い思いをするのはこっち。

クマルのコントロールを誤っては一大事。しっかり教育する必要がある。

ただ奴がきちんと守るかと言うと疑問が残るが。


「それはもちろん魔王様の命令ですので」

きちんと守ったと。これは期待できそうだな。

「現在姫はこの三か所のどこかに」

そう言って魔女が書いたメモを読み上げる。


うわ…… ちっとも分かってない。そこに姫はいないっての。

本当に困った奴だな。何だかイライラする。

でもこれもある意味期待通りだから誉めていいやら叱っていいやら。

安定のクマル。


「お前は何一つ分かってないではないか! 報告は姫を見つけてからにしろ。

余計な時間を使わせやがって…… カンペ―キに替えるぞ! 」

ライバルの名を出し焦らせる。

あれ…… こんなことしてクマルに張り切られたら…… クマルだから大丈夫か。


どれだけ期待を寄せてもそれを裏切るのがクマルだからな。

ただそれは実行能力が低いだけ。それが分かっていながら命じている。

こちらの思惑通りに動いてくれるからいいが。

ただ役に立たない奴を放置すれば周りが黙ってない。

これも一種のパフォーマンス。多少危険だが失敗すると願って送り出すとしよう。


「おい聞いてるのか? クマル! 黙るんじゃない! 」

「魔王様! それだけは何卒おご勘弁くだせい! 反省してますので」

「だったらここでノロノロしてないで早く行け! 」

「へへい! 」

慌てて去っていくクマル。


うーん。ちょっとやり過ぎたかな? 自信喪失されたら困る。

ただ仕方がない。手下思いの魔王様では疑われてしまう。

ここは慎重に動く必要がある。


まったくどいつもこいつも。気持ちよく寝ていたのに起こしやがって。

さあ魔王様の特権。惰眠を貪るとするか。



宮殿。

国王様への挨拶。

ついに夢にまで見た謁見が叶った。

多くの隊員を従え国王と対面する。


「済まなかったなお前たち。昨日は取り乱してしまった。

国王としてあるまじき愚行と反省している。あのまま続いていたらと思うと……

それで特にお前には世話になった。礼がしたい」

大したことはしてないが何でか知らないうちに評価が急上昇。

悪くはないが隊長にまでなれば目立って仕方がない。

できるならもう少し裏で。影のように操れたらな。

そんなおかしな願望を抱いている。


「恐れ多いことです国王様」

「そうか…… 」

「ははは…… 彼には部隊長になってもらいました」

爺さんが補足する。

「そうかそうか。お前がこの隊をまとめるなら心強い。頑張るのだぞ」

「はい! ありがたき幸せ! 」

何を言われてもただ従う。それが決まり。


「では部隊長から挨拶を」

爺さんに促されて自己紹介をすることに。

そんな話は聞いてないがここは新隊長として恥ずかしくないようにしないとな。


「ボクは勇者・ノアです。皆よろしくね」

まずい…… いつもの調子でやってしまった。

国王以下笑いを堪える。

「部隊長。その挨拶は軽過ぎます。相手は国王様なのですよ」

爺さんがしつこい。これでいいじゃないかよまったく。

仕方なくやり直すことに。


「ボクは新隊長のノアだ。これからのことはこのノア隊長に任せてくれ! 

必ずや魔王を倒しこの世界を平和にしてみせるからな! 」

真面目に自己紹介。これで文句ないだろう。

本当は正直に転生前の名前を言いたいがどうも記憶から削げ落ち出てこない。


「よろしい。ボクは情けないがよかろう。国王様からは何かありますか? 」

せっかくなので国王からも一言。

「そうだな。確かにボクはどうかと思うぞ。仮にも勇者で部隊長なのだからな。

隊の士気に影響する。なぜボクなのだ? 差し支えなければ教えてもらえないか」


気になるそう。でもこれはもしもの時にボクで統一してるだけで大した意味は。

いきなり入れ替わるからな。これも安全策。

勇者から姫になった時に俺では疑われる。逆もしかり。

魔王様の時も俺や私では変だ。主語は常に魔王様でないといけない。

だからボクから雄たけびのボグ―でごまかす。

これは常に不機嫌で恐怖の象徴である魔王様だからできる技。

姫の時はどれでも可能。お付きと魔女だからふざけてると思われるだけ。

その辺は二人に比べて楽。周りに人も少ないしね。


「その…… 姫に憧れていまして」

「うん? 姫はボクなどと言っているのか? 」

爺さんに確認を取る。

「そうですね。最近人が変わったようにボクを使うようになって困ってます」

「だとするとお前は姫に憧れて真似をするようになったと? それはいつ? 」

まずい。これは危険な展開。何とか言い訳しないと。


「誤解です。姫を思うあまり上品さを身に着けようと言葉に注意してる次第です」

これでどうにかごまかせたかな? 

「まあよい。お前が姫をどう思おうと関係ない。身分を弁えるんだな」

どうやら疑いは晴れたらしい。


こうして無事に謁見を終える。


                  続く

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