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伝説の二人

最終章。


始まりの地。

女神様不在の間留守を任されていた妖精と魔女。

侵入者も特別何か起きる訳でもないので長閑で平和な世界が続く。

緊張感が失われてどうしても欠伸が止まらなくなる。

悠久な時の流れに身を委ねただのんびり過ごす。


パリパリ

ボリボリ

「ちょっとうるさいんだけどあなた? 」

「姉様酷い…… 」

「あなたがせんべいをポリポリしてるからいけないんでしょう? 」

「でも姉様。もうやることもありません。ああようやく到着したようですよ」

女神様が不在で現世での動きが見れずにいた。

それでも復活した大魔法により魔女が感じ取ることができるように。


「本当に? 」

「ハイ姉様。どうやら愚か者のいる病院へ。セキュリティーもパスした様子。

もう間もなく到着するでしょう」

これで異世界・ザンチペンスタンは消滅の危機から逃れた。

魔女の報せにより絶体絶命だった状況から脱却した。

だったらもう犠牲は必要ない。苦しむ必要もない。

とにかく一歩前進。まだ確実ではありませんがもうほぼ救われたのでしょう。

ただどこでつまずいても不思議ではないので最後まで見守る必要がある。


「ちょっといい? 」

突然の思いつき。恐らく魔女は理解はしないでしょう。

でも一から説明していては間に合わない。急がなくてはいけないのです。

「何でしょう姉様? 」

のんびりしているので魔女もまさかそこまでとは。

だから適当に答えても大丈夫。そんな風に弛緩した空気が漂っている。

平和なことは決して悪いことではない。ですが今は頭が溶けるほどの惨状。

これは緊張感がない証拠。どんどん緩くなっていく。

現世も異世界も見れずにゆったりした空間ではどんどんやる気が削がれて行く。

このままではいけない。女神様から預かった始まりの地がこれではまずい。


「どうしたんですか姉様? 顔が怖いですよ。

のんびりとティータイムと行きましょうよ」

確かにやることがないので魔女の言う通りなんですが。

それでも何かすべきことがあるはず。

「姉様? どうしたんです? 」

「ごめんなさい。ちょっと気になってることがあって」

「はあそうですか。大変ですね姉様も」


「ザンチペンスタンに行くので留守番よろしくね」

「ええ? 本気ですか? 」

突然のことに驚きを隠せない魔女。動揺が見られる。

「まさか本気ですか? 」

「ちょっとの間だけどきちんとお願い。どうせ何もないと思うけれど」

こうして妖精は消滅間近のザンチペンスタンへ。


異世界・ザンチペンスタン。

「おいクマル。もうお別れの時間だ。楽にしてやれ」

「魔王様それじゃあお助けするのですね? ああよかった」

つい安堵してしまうクマル。

「冗談を言うでない! 早くその火を放てと言ってるんだ! 」

非情な魔王様は姫と親交のあったクマルに命じる。

これが魔王様のやり方。

完全無敵の魔王様の恐ろしさここに極まる。

決して逆らってはいけない。


「放て! 」

「ははあ! 」

涙を流し火を放つクマル。魔王様の命令は絶対だ。

火は瞬く間に燃え広がりカンペ―キ洞窟は間もなく火の海へと。


「ははは! 約束は果たしたぞノア! アーノ姫! 」

「ではそろそろ魔王様も避難ください」

「うむ。よかろう。外から最期を見届けるとしよう。ははは! 」

「おい! クマルも何をグズグズしている? 」

「ヘイ」

こうしてノアとアーノ姫だけが取り残された。

あらあら騒がしいですわね。

確かこっちの方からだったわよね? 急がなくちゃ。


ゲホゲホ

ゲホゲホ

「大丈夫ノア? 」

「ああ問題ない。さあもっときつく抱き合おう」

「もう困った人。ふふふ…… 」

愛を語り始める悲劇の二人。

まるで紅心中伝説のように悲惨な最期を迎える。


「なあ光が見えなかったか? 」

「ええ? 気のせいでしょう? 」

「そうか…… だったらいいんだ」

「もう諦めよう。どうやってもこれしか消滅から逃れる方法はないと思うの」

「そうだな。好きだよアーノ」

「もうノアったら…… 」

そう言うと二人は抱き合い唇を重ねる。

体が尽きるまで。意識がなくなるまで愛し合う。


確かに残酷な最期でしょう。ですがそれでも二人は出会っている。

愛を確かめてさえいる。そのことだけでも幸せなのかもしれません。

一番の悲劇は会えずに果てること。

「アーノ! 」

「ノア…… 」

「あの…… お取込み中悪いんだけど…… もう時間だから」


始まりの地。

もうどうして一人で留守番しないといけないの?

姉様は勝手な上にいい加減なんだから。

苦労するのはいつもこっちじゃない。

助けるってどう言うこと? まったく理解できない。

だって女神様が救えば彼らは……

そうか。あの愚か者は現在魔王様のターン。

だとすればノアとアーノ姫はランダムなのか。

結局は愚か者ではないただのランダムの勇者であり姫。

彼らはザンチペンスタンの住人。


消滅を回避するために彼らを苦しめても傷つけてもいけない。

これが愚か者なら自業自得。苦しんだ先に恐怖の先に希望の未来があるはず。

ミライ…… すべてはミライのために。

まあ魔女には関係ない話だがね。姉さんだってそう。

甘いと言うか何も考えてない。救出自体は構わない。

だけど女神様が失敗する可能性だってもまだ残っている。

ここはお助けキャラとして動きたいのも充分理解した上でやめるべきだった。

女神様が失敗すればザンチペンスタンは消滅する。それは分かってるのかな?

こっちだってアーノ姫が心配さ。自分の娘…… 孫娘のように思ってるんだから。

まあいいか。ここまで来れば諦めもつく。

さあ女神様。どうぞあの愚か者をお救いください。


その頃新館では。

愚か者の叔母さんの後について新館の三階にある集中治療室へ向かう。

「どちら様ですか? 」

案の定止められてしまう。さすがに簡単には近づかせてくれない。

ここは叔母さんに頼るとしよう。


「あの…… 寝太郎はどこへ? 連絡を貰って駆けつけたんだがね」

それは集中治療室にいることをまだ聞かされてない叔母さん。

よく考えれば事前に知らせるべきでしょう。

しかしそんな余裕がないのも事実。


「親族の方ですね? 現在集中治療室におりまして…… 」

何だか言いにくそう。はっきり言ってやるのが本人の為でしょう。

「ではすぐにでも会わせて」

懇願する。叔母さん。

「面会謝絶で先生の許可が必要なんです。最後の挨拶をすることになります」

言いにくいことをオブラートに包む。

ただ納得の行かない叔母さんでは無理がある。


               続く

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